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復興を支える地域の文化ー3.11から10年

国立民族学博物館の特別展(2021.3.3-5.23)に友人と行ってきた。

副題の通り、今年で東日本大震災から10年が経つ。そんな節目に、これまでの復興の歩みを振り返るような展示だった。

プロローグは「津波石」という下道基行さんの映像作品だ。
津波石はその名のごとく、津波の力で打ち上げられた石のことで、この作品では沖縄の石というかもはや岩が、砂浜にぽつんとある。
スクリーンに映し出される津波石の映像を眺めていると心がしんとする。津波の力の巨大さ、自然への畏怖を感じた。

プロローグのコーナーを抜けると、にぎやかな第1章が始まる。

展示室の中心を陣取って、東日本大震災で被害を受けた地域のうち、6つの芸能が展示されている。
映像とマネキンに衣装を着つけた展示場で圧巻だ。
お囃子の音楽に、今にも動き出しそうな迫力のマネキンたち。
胸がどきどきした。

くるりとまわって第2章へ。

第2章では、文化財レスキューを題材に、具体的な方法や事例を紹介している。
実際のレスキューに使用する衣装が壁面に展示されているのが印象的だった。反対側の壁には、イラストでわかりやすく説明がある。

また、東日本大震災でレスキューされた経典の保存、修復や、2016年の熊本地震で大きな被害を受けた熊本城の被害と復興の様子が展示されている。熊本城の石垣を構成していた石が実際に展示されており、その大きさに石垣の立派さやそれゆえの復興の大変さなどが思われる。

2階に上がると、海をイメージしたような青い展示場になっている。

右に入ったところにちょっとした空間があり、そこで映像作品をみることができる。「トミジの海」という絵本を山寺広一さんが朗読した映像で、沿岸部の暮らしや津波の恐ろしさ、そしてそれでも海を愛する人の気持ちが伝わった。

絵本の原画も展示されており、山や海の描写が独特の美しさを持っており、近くでじっくりと眺めた。

モノもたくさん展示されており、南極から持ち帰ったペンギンの剥製や、捕鯨が身近であったことがわかる展示物がたくさんあった。

そして、クジラの街ということで、象徴するような作品がねぷただ。
大漁旗とともに灯りのともったクジラで、なかなかのフォトスポットだ。賑やかで豊かな海の街がみえてくる。


2階の残りの空間は中越地震で被害を受けた十日町(新潟県)の織物が展示されている。
艶やかな振袖から、粋な日常着までさまざまな着物が展示されており、目にも楽しい。

2階の展示を終え、階段を下ると、第4章「災害に備えて」が始まる。
災害はどうしても起こる。地球に生きるわたしたちは、自然災害を受け入れたうえで、どうすれば被害を最小限にできるのか、命を守ることができるのかを考えていかなければならない。
東日本大震災で「想定外」という言葉をずっとメディアや政府が使っていたが、あの震災は想定外などではない。たびたび東北の沿岸部を大津波が襲っていたことは、明らかな事実だ。歴史をないがしろにしてきたせいで、失われた命があることを忘れてはいけない。苦しくても、悲しくても、起こった事実を受け止め、そして次の世代に継承していかなければならない。また同じような悲劇が起こらないように。それが、亡くなった人たちや悲しみを抱える人たちへの、せめてもの慰めではないか。
具体的な災害の記憶の継承には、記念碑の建造がある。日本各地に津波碑などの記念碑が建てられており、その場所と詳細を印したマップがモニターで触れるように展示されていた。国立民族学博物館のHPにも同様のデータベースが載っている。(http://sekihi.minpaku.ac.jp/)
ほかにも大阪に1年に1回石碑の文章を墨でなぞる地域があったり、津波を知らせるために稲むらに火をつけた話が何カ国後にも翻訳されていたりと、過去の災害を後世に語り継ぐ努力があることがわかった。
そして、「いのちの石碑」という東北の記念碑がある。「いのちの石碑」の存在は全国知られて欲しい。

高校の授業で、あの震災を忘れないためになにができるのか、という問いかけを先生がして、生徒たちが答えた結果が、この「いのちの石碑」だ。
「いのちの石碑」がたっている場所まで、津波がきた。だから、津波がきたときはそれよりも高いところに逃げなければならない。
平時には信じられないような高さに石碑があるのだろう。きっといつか訪れようと決意した。

最後のエピローグは、「地域文化の継承 人と人をつなぐもの」。

復興に必要な地域の文化を言葉(方言)や環境、歴史など色々な視点から考えるという展示だった。
タッチパネルでクイズなどがあり、東北の方言、わからないと思いつつやってみたが、やっぱり全然わからなかった!
方言はきっと近い将来失われるだろうけれど、記録保存だけでもしておくべき、豊かな世界だと思う。

以上が展示の感想である。
写真撮影が一部を除いて可能だったため、たくさん写真を撮って、振り返ることができた。とはいえ、実際に展示をみる感動にはとうていおよばない。
コロナ禍で難しいところではあるが、見に行くことができる人は行くべきだと思う。密にならず、会話なくても楽しめる感染リスクの低い施設のひとつは博物館や美術館だといえるだろう。
地震や津波などの自然災害と今の現状は違う部分もあるが、苦しい状況であることに違いはない。苦しい状況をなんとか乗り切ることは、どん底から見事に復興をとげていく被災地と重なる。
そして、復興には地域の文化が大事なんだというのが展示の伝えたかったメッセージだったのだろうが、わたしには、地域の文化が大事なんだという理解のもと、地域の文化を守るべく奮闘する多くの人の力に心打たれた。
大事なものを守ろうと努力する人たちがいる限り、きっと大丈夫だ。
展示を見終わったら、希望を胸にコロナ禍の生活にまた戻っていこう。
日々の活力を受け取って。



と、書いて寝かせているうちに、再度非常事態宣言が出て、自粛の対象に博物館・美術館も含まれてしまった。そうですか、博物館も自粛ですか。行きたい展示、まだまだあるのに。
ひとつの展示を作り上げるのに、どれだけの人たちが関り、どれだけの労力が結集していることかを考えると悔しくてやりきれない。
感染リスクではなく、「不要不急」に該当すると判断されたとしか思えない。わたしたちは「人間」だって思われていないのだろうか?文化的なものがなくても生きていけると?

いろいろ思うことはあるが、訴えるべきは訴えつつ、今できるこの展示の楽しみ方としては、国立民族学博物館のYOUTUBE公式アカウントがアップしてくれている特別展の紹介動画を見る、特別展関連のイベントの動画を見る、といったことぐらいか。
イベントの動画は、オンラインならではの工夫があったり、それだけでなくみんぱくならでは、といった部分があったりして、面白かった。

今後、博物館がこの現状にどう対応してくるか注視しつつ、わたし自身この現状をどう受け止め、どうするべきなのか考えたいと思う。

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