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佐伯祐三 自画像としての風景@東京ステーションギャラリー

エゴン・シーレ展のために、大阪から東京まで行ったので、せっかくなら他にも展示見れたら良いなぁということで、気になってた東京ステーションギャラリーにも行ってきた。前から面白そうな展示をしているなと目を付けていたのだ。加えて、好きな佐伯祐三の展示をしているタイミングだった。
今になって思うと、今回訪ねた2館は奇しくも早世の画家を扱った展示をしていたのだなぁ(エゴン・シーレ28歳没、佐伯祐三30歳没)。

さて、東京駅の丸の内北口のそばが、ギャラリーの入口だ。東京駅舎の一部をギャラリーにしていて、内部までレンガ造りなのには驚いた。新しい建物ではなく、もとからある建築を改装(復元工事)して使っているのがまず良い。
東京都美術館は地下から始まって、1階、2階とあがって展示を見て行ったが、東京ステーションギャラリーはチケット購入後、エレベーターで上がってから下に降りていく。

展示はとにかく佐伯祐三の作品が怒涛の勢いで並べられていて、どこを見ても佐伯祐三。好きな画家なので、楽しくて気持ちいいし、最高。
海外の有名な作家だと、こうはいかない。関連作家の作品なども展示しないと、とてもじゃないが空間を埋めることができない。
さらに、東京ステーションギャラリーは東京駅の一角にあるということもあり、大きな展示空間ではない。狭い空間だからこそより密に作品を見ることができ、佐伯祐三を浴びている感覚で、めちゃくちゃ満足した。
しかも、展示室の壁がレンガ壁の場所がある。街並みを描く佐伯祐三と相性が良く、空間として居心地が良かった。

和歌山県立美術館で佐伯祐三を知り、好きになると目に入ってくるようになるもので、山王美術館での「荻須高徳と佐伯祐三展」に行ったり、佐伯祐三についての本もちらと読んだりもしているので、作風や主な作品については知っていた。そのため、人混みが苦手なのもあって、今回の展示はほとんどざっと見るにとどまった。下落合やパリの風景画など、どれも良いねぇうんうんと遠目に絵を見ながら進んでいった。
その中で印象に残ったのは、プロローグとエピローグだ。プロローグのタイトルは「自画像」で、エピローグは「人物と扉」だ。

プロローグにおいて、特に重要な作品は《立てる自画像》で、ヴラマンクという画家にアカデミックな絵だとダメ出しされて、一念発起して描いてみたものの、気に入らず反故にしたという作品だ。顔を塗りつぶしている。
反故にしたこの作品を裏返しにして、《夜のノートルダム(マント=ラ=ジュリ)》を描いた。つまり、画家は《立てる自画像》は駄作としてなかったことにしたくらいの作品なのだ。だが、後世に残してしまったがゆえに、キュレーターには研究され、わたしたちには見られている。文豪たちが友だちに宛てた手紙を研究対象にされているのと同様の気まずさがある。しかも、むしろ《立てる自画像》を正面の位置に展示し、なんならチラシにも載せられ、かなり重要な作品と今回の展示では位置づけられている。
確かに、背景の事象と合致する作風の作品が残っていて、かつ画家自身が気に入らなかったというのは、画家を理解する上ではかなりの情報を含んでいる。申し訳なさは感じつつ、興味深く見させてもらった。

チラシ裏。左上が《立てる自画像》。

エピローグは数点の作品しかないが、風景画で有名な佐伯祐三の人物画、それもモチーフになる人物が独特である。郵便配達夫とロシアの少女。
そして、扉の絵が2枚。
郵便配達夫の絵は、チラシにも使われており、構図が印象的かつ存在感のある人物画である。

チラシ表。

そして、扉の絵は絶筆と言われている。
今まで街の風景、それも壁をよく描いていた画家が、扉をメインに据えた絵を死の間際に描いたということには、どういう意味があるのだろうか。
死への意識が扉の絵に繋がっていることは、間違いない。

そして、この展示は大阪の中之島美術館にも来る。というか、展示品の半分以上が中之島の所蔵品でできている展示だ。
前々から中之島でやることは知ってて、ずっと楽しみにしてる。だが、岡本太郎展で開館後初めて中之島美術館に行ったときは、箱がでかすぎて導線がわかりずらく、展示のなかもキャプションが小さすぎて私評価は低かった。
佐伯祐三展ではどうなるか、東京ステーションギャラリーでの展示が良かった分、比べることができる。違う箱で同じ展覧会の違いを楽しむという、なかなかコアな遊び。

ちなみに、中之島美術館での佐伯祐三展のメインイメージは、エピローグに出てきた《黄色いレストラン》という扉の絵を使用している。インパクトよりも今回の展示の意図を重視したとわかる広告で、期待値があがった。楽しみだ。

ともかく、東京ステーションギャラリーでの佐伯祐三展は、満足度ばっちりな展示だった。
この展示に関わったすべての人に敬意と感謝を。

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