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夏着物・涼しさの演出

1 なぜ暑い季節に着物を着るのか?

夏の一番暑い時期に、全身を覆い、かつ二重に帯を締めて出かけるのはかなり決意が必要です。着物好きでも「夏の着物は着ないんです」という方もおられます。いくら単の着物とはいえ、下にも長襦袢を着るので、一層の暑さであることは否定しません。汗も染みだしてきます。古い夏帯の多くが使い物にならないのは、汗の染みが広がっているせいです。
ではなぜこんな時期に着物をきるのか?と聞かれれば、私なりの答えは「涼しいからではなく、涼しげな演出が素晴らしいから」です。

2 涼しく見せる演出・夏の意匠

染めで夏の絵柄を現したものもあります。
夏のテーマとしては、水・夏の花・夏の鳥などが選ばれています。

白地紗地紺ぼかしかもめ文様単着物
藍色地撫子に露芝文様単着物

このように、涼しげな文様を着物の上に展開して、涼しさを演出する方法がどの着物にも見られます。単色の場合も、下記の薄緑紗地縦縞に魚文様単着物のように織で文様を入れ、夏らしさを演出しています。時には秋の意匠を使い、少し季節感を先取りしています。

3 透ける素材・絽と紗

素材についていえば、化繊が出回るようになった太平洋戦争後以外は、絹の絽と紗が用いられていました。それぞれの織り方などについては割愛しますが、いずれも織地に隙間を作り、空気が通るようになっています。程よい好け感も夏の演出として好まれました。
この薄緑の着物地をご覧ください。縦縞の間に魚の群れが見えます。「紋紗」と呼ばれる織です。紋は文様のことです。

薄緑紗地縦縞に魚文様単着物

仮に上記のようなタイトルをつけました。紗の織地で夏らしさを演出しています。
また、盛夏に着用される麻も、夏に最適の素材です。縮(ちぢみ)と呼ばれる、皺を寄せた麻も夏向けの素材です。これらの着物は透ける素材ではありませんが、涼しさで選ばれた素材です。

生なり麻縮地千鳥文様単着物
臙脂色麻縮地百合文様単着物

4 更なる演出の数々

夏の着物が面倒だと言われる理由に、帯揚げ・帯締め・半襟まで夏素材で統一しなければならないという面倒さがあります。場合によっては帯どめも夏のデザインが求められます。

蓮と水滴をかたどった帯どめ
透明感のある素材を使った帯どめ

また、それに加えて髪飾りなども夏向けに凝る方があります。

涼しげな髪飾り

御覧にように、夏の暑い時期にここまで演出をするという、ある意味苦行のような要素が夏の着物にはあります。しかし、そうして完成した装いの美しさは、春秋の装いに勝るもので、加えて着物を着る人が少ない時期に、一層人の目を惹きつけるのでしょう。


似内惠子(一般社団法人昭和きもの愛好会理事)撮影:野村誠司氏
(この原稿の著作権は昭和きもの愛好会に属します。無断転載を禁じます)下記の書籍より一部引用しました。

夏着物の文様とその見方

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