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なつかしのきもの名作編1・梶井基次郎「檸檬」を片手に京の街を歩く

巻頭言とシリーズの由来


なつかしのきものはシリーズが3つありました。まずは布地・着物解説編です。次に名作編で京都を舞台にした小説や映画をテーマにしています。最後が名画編でした。こちらは著作権とか何かと大変なので、切手から題材をさがしました。これが1年分かける3で、36回続いたことになります。
その後は6か月、昭和期のきものをテーマにした「あのころのきもの」を連載しています。これは1年ということだったのですが、編集部都合で半年になりました。

本にしたらいいのにとか、いろいろご意見を頂いたのですが、京都新聞社が書籍化をしませんでした。しかし、それで著者がめげたかというと、そうでもなく、今は舞台が世界に広がっています。できるものは英訳もしています。また、今回のシリーズは、掲載地の原稿コピーではなく、この層の厚い京都という町の着物文化をいかに次に繋げるかについても考えています。当時ご協力の方々に感謝しつつ、新しい連載を始めたいと思います。ということで、未来に向けての復刻版です。

1 檸檬という名作

今では「檸檬」というと、再生回数7億回を超える「Lemon」の方を思い浮かべる方の方が多いでしょう。時代も変わるものです。「檸檬」はとても短い小説で、友達の下宿を転々としていた主人公が、京都の町を彷徨う話です。寺町二条にあった「八百卯」という店で檸檬を買い、それを丸善に置いてくるというやや中二病のようなストーリーです。
この作品をテーマにして、京都新聞の原稿を書きました。その際、寺町の以前「八百卯」のあった付近を舞台に撮影しました。モデルさんには冬のことで、コートを着ていただきました。

2 寺町二条から丸善へ

寺町二条の果物屋でレモンを買った梶井基次郎は、丸善に移動します。丸善は本以外に「琥珀色や翡翠色の香水壜、煙管、小刀、石鹸、など」が売れられていたようで、当時の京都では、外国の見られる窓口だったようです。基次郎は、そこでちょっとした悪戯をします。
手当たり次第に積みあげた本の上に、檸檬を載せ、それをそのままにしておいて、なに喰わぬ顔をして外へ出たのです。
「檸檬が爆弾だったらどんなに面白いだろう」という想像をしながら。
そして京極を下っていくところで、この話は終わっています。

3 取材で得たもの

ところで、この原稿を書いたとき、丸善ももはやありませんでした。私にとっても丸善は身近な外国でしした。1ドル360円とまではいかなくても、200円前後で為替レートが変動していた時期に、外国の製品や洋書が手に取れる憧れの場所でした。海外のものは今のようにアマゾンで配送されたりがなかったのです。
原稿を書く過程で、丸善に問い合わせたりしていると、運よく閉店前の丸善で売り場を担当していた方とお話ができました。閉店前には梶井基次郎の真似をして、レモンを店内に置く人が続出したそうです。30個くらいあたっということです。レモンの代わりにバナナが置かれることもあったと聞きました。その後、丸善がBALビルの中に開店したと聞いたのは嬉しかったです。

4 丸善、やるなぁ!

地下二階にあるコーナーです。

先日注文した雑誌を取りに丸善に行き、このコーナーを発見しました。梶井基次郎の「檸檬」とレモンが置かれています。

レモンは常に供給されているようです。
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ちょうど彼がおいたようなシチュエーションがいい感じです。丸善なかなかやる。昔の作品に名前が出たのも、過去の大切な遺産です。それを上手に利用して、こんな小さな「名所」を作るところは素晴らしいです。
そしてさらに、

https://www.buntobi.com/articles/entry/stationery/010001/  文具のとびらで紹介されています。

このレモン色万年筆も発売しているのです。創立150周年記念ということで、欲しくなってしまいますね。過去の資産をここまで活用する老舗の底力に感動しました。本離れと言いながら、この日も丸善は若い人でいっぱいでした。

似内惠子(一般社団法人昭和きもの愛好会理事)
(この原稿の著作権は昭和きもの愛好会に属します。無断転載を禁じます)

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