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『誰が勇者を殺したか?』:何が物語を面白くするのか?

久々にライトノベルを読みました。たまたま見つけた『誰が勇者を殺したか?』。これがなかなか面白かった。その上、私にとって「面白い理由」がはっきりしていました。今日は少しその話を。

なお、ネタバレありでお届けします。未読でこれから楽しみたい方は、こちらの記事を読むのはお控えください。インターネット上で元の投稿小説を無料で読むことができます。そこまで時間はかかりませんので、こちらもぜひ。

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以下、ネタバレあり

フィクションを面白くする要因1:リアリティ

私が「面白いフィクション」に必須と考えている要素の一つは「リアリティ」です。勇者や魔王が出て出てくるフィクションに、リアリティなんて何を言っているんだ、、、。というご意見はごもっとも。

ただ、私が特に大事にしているのは設定そのものではなく、設定から導き出される人間のアクション、リアクション、そしてそれらが作り上げるストーリーに、どれだけ現実味が、必然性があるか、という点です。

もう少し噛み砕いていうなら「この世界なら、確かにこんなことが起こりそう」という納得感と言い換えてもいいかもしれません。そう言ったリアリティがあるからこそ、我々は登場人物に共感し、感情移入しやすくなり、物語をより楽しむことができるのではないか?と思っています。

『誰が勇者を殺したか?』を決定づけた設定

この物語を大きく規定している設定とはなんでしょうか?それは、巫女が持っている「世界編纂」というやり直しの能力でしょう。能力そのものは、決して目新しいものではないかもしれません(あらゆる物語が語り尽くされた現代においては、設定一つでオリジナリティを出すことなど不可能)。

しかし、その設定を最後に明かすことで物語の筋が通り、驚きと納得感が得られる構成になっています。この能力のおかげで、ありきたりな「勇者が魔王を倒す」という展開に説得力が生まれます。なんと言っても、勝つまで繰り返すのですから。

勇者という存在の正当性も語られている点も、納得感を生む要因となっています。軍の方が確実性がありそうだった、でも実際にやってみたらダメだった。だから少数精鋭(勇者のパーティ)で乗り込むしかない、というロジックです。

魔王が邪神の眷属という点もまた「魔王をたおせば解決」というやや無茶な理屈を成立させる要因となっています。

フィクションを面白くする要因2:一貫したテーマ

加えて、この『世界編纂』という設定が作品のテーマを際立たせる一つの要因となっている点も見過ごせません。

ここでいうテーマとは、作品が持っている主題、つまり作品による主張、を指します。それは、勇者の行動に見られる「努力はいつか身を結ぶ」に他なりません。

「魔王と勇者の構図」と「ミステリー要素」の掛け合わせというモチーフではあるものの、それはこの作品の本題ではありません。何せ、物語を半分も読んでしまえば、勇者が迎えた結末に察しがつくようになっているのですから。

そして、勇者アレスの途方もない繰り返しが身を結ぶ過程は、そのまま『世界編纂』という世界を規定する能力ともリンクしています。不断の努力をもって魔王に立ち向かった勇者が表だとすると、その裏で更に途方もない時間を繰り返して何度も魔王討伐への道筋を作った巫女がいる。

これらのストーリーが物語のテーマに結びついていることによって、一本の筋が通ったシナリオが生まれているのではないでしょうか。

物語を読み解くために必要な知識

ちなみに。
この記事を書くにあたって、テーマ、モチーフといった用語は『シナリオ・センター式 物語のつくり方』から拝借しています。シナリオを書く人向けの本ではありますが、一般の人がより物語を楽しむ助けにもなります。こちらも紹介しておきます。

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