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自然界の循環を活用して約30日間で土に還る。新しい葬送の選択肢とは?

日本では、多くの場合、遺体は「火葬」され、残った骨は墓に納められます。
一部の人は宗教的な理由で「土葬」を選ぶかもしれませんが、世界的にもこの2種類が主な葬送方法となっています。

近年、日本でも「樹木葬」や「散骨」など、いわゆる「自然葬」が注目されるようになり、実際この葬送を選ばれる方も増えてはきましたが、つい最近、アメリカ・シアトルで新たな自然葬が誕生しました。
2019年に法案が可決され、2020年12月よりサービスが開始されたのが、人間の遺体を栄養豊富な土に生まれ変わらせる「堆肥葬」(有機還元葬)。簡単に言うと「人間の遺体のコンポスト化」です。

RECOMPOSE社の「堆肥葬」とは?

この「堆肥葬」を実用化した企業は、アメリカ・シアトルに本社のある「RECOMPOSE」(リコンポーズ)です。

「ナチュラルでオーガニックな還元」(Natural Organic Reduction)と名付けられた、この「堆肥葬」は、人間の遺体を自然な形で生分解して堆肥に変え、養分として新しい命へ循環させる葬送方法です。

死後、遺体はオーガニックなウッドチップで敷き詰められた再利用可能なモジュール式の棺に収められ、遺族や友人との告別式が執り行われます。
式が終わると、遺体はオーガニックな素材を被せられ、棺ごとコンポストを行う専用のカプセルに収容されます。
その後、落ち葉が土に還っていくように、約30日間をかけて骨や歯までもがゆっくりと土に還っていきます。
容器内は微生物やバクテリアが活動しやすい環境に整えられており、より効率的な生分解が促される仕組みになっています。

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分解後は、1立方ヤード(0.76立方メートル)ほどの豊穣な土に変化します。
遺族や友人はこの土を持ち帰って、通常の土と同じように植物を植えるのに使うなど再利用することが可能。持ち帰らない場合は、RECOMPOSE社が提携している森林の育成などに活用されます。
これにより、人間も、死後、自然の一部として循環することが可能になるわけです。

8分の1のエネルギー量、環境汚染につながらない選択肢

「堆肥葬」では、遺体を焼くプロセスがありません。そのため、火葬と比較すると8分の1のエネルギー量しか使わず、1人につき1平方メートルの二酸化炭素の排出が抑えられます。

また、遺体や遺骨を長年にわたって保存する必要がないので、お墓を立てる必要もありません。
使われる素材もオーガニックで、コンポストに使用される棺も使い捨てではなく、再利用。今までにも遺体を自然に還す方法として、「樹木葬」や「散骨」などの方法はありましたが、同様に「堆肥葬」は環境を汚さないという観点からも新たな選択肢となり得ると思います。

遺体に含まれる物質が環境汚染に繋がるのではないかと懸念する人もいるかもしれませんが、ペースメーカーなどの金属製の不純物はコンポスト前に取り除かれ、抗生物質などの医薬品もコンポストを通して分子レベルで分解されるので土壌を汚染する心配はありません。

また、カプセル内は120〜160度まで加熱されるため、有害な病原体のほとんどはこの段階で排除されます。
ただし、クロイツフェルト・ヤコブ病やエボラ出血熱などは病原体の分解が確約できないため、今のところはそもそも対応していないとのことでした。

RECOMPOSEが目指す未来とは?

葬送は、現在、火葬と土葬が主流ですが、人の数だけ、とは言わないまでも、さまざまなカタチはあっても良いはずですね。新たな選択肢を生み出すことによって、より多くの人が自身の死について、納得のいく回答を得られるようになるでしょう。
この「堆肥葬」のように、将来的にはより多くの葬送の選択肢が生まれていくかもしれません。

RECOMPOSE社の施設内には、木が植えられ、天窓から優しく日の光が差し込む開放感のある空間になっています。
白い壁にはハチの巣のような六角形のカプセルが配置され、この中で遺体のコンポスト化が行われます。
葬儀は土に還っていく人びとに囲まれた中央の空間に椅子を並べて行われると言います。

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この施設は、コンポストを行う施設としてだけでなく、人が集う場としても重要な意味を持つそうです。このプロジェクトを介して、より多くの人が葬送に対して直接的な参加を体験し、死そのものと人生における喜びについて対話の機会を得られるようになるそうです。

この空間であれば、死は「肉体が大地に還っていく自然な流れ」という印象を持ち、死を恐れて敬遠している人もその存在を受け入れやすくなるかもしれません。
「死を意識するからこそ、人生は輝く」と言ったのは、ドイツの哲学者、マルティン・ハイデッガーですが、「死」について認識することは「生」の尊さに気がつくきっかけになりますね。

RECOMPOSE社は、この「堆肥葬」を通じて、世界中をインスパイアし続けるかもしれません。
日本国内では、まだ法的に認められた葬送方法ではありませんが、今後、法整備が整えば、日本でも受け入れられる余地は十分にあるかと思います。



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