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Dave Wecklのドラムクリニックに行った日についての感想。

生きていると思いがけないことがある。
それが良いことであろうと、悪いことであろうと、である。
2024年9月8日(日)、この日、俺はDave Wecklのドラムクリニックに図らずも行くとこになった。

図らずも、と書いたのには理由があり、本来このクリニックは俺が行くはずではなく、身内が行くはずであった。
しかし、その身内がコロナに罹患してしまい、行けなくなってしまった。

そこで「チケットを腐らせても、もったいないから、俺が行くよ」
と、提案し、代理として参加することになったのだ。

しかし、当然だが、本心は身内に行って欲しかった。
身内は長年Dave Wecklのファンだったからだ。
以前、秋葉原の某所でクリニックが行われた際も「行きなよ、絶対行った方がいい」と、強く提案したが、身内は行かなかった。
今回も俺が提案して、漸く行くことになったのに、なんとまさかのコロナに罹患…。
代理で行く俺の心境は複雑だったが、仕方ない…。 

ここでDave Wecklを知らない人に補足。
米国のジャズドラマーであるWecklは、様々なセッションワークで頭角を表し、85年のChick Corea Electric Bandのデビューアルバムで、フュージョン界にその名を轟かせた。
他には、Simon&GarfunkelのPaul Simonのバックを務めたことでも有名。
恐らくテクニカルなドラムを志向した人なら、一度は名前を聞いたことがある存在かと思える。

さて、本題に戻る。
開催場所は、表参道の「スパイラルホール」という施設。
渋谷をブラブラしたり、付近にある「岡本太郎記念館」へ行ったりして、開場時間まで時間をつぶしてから向かった。

開催スペースでは、YAMAHAのドラムキット2台が並んでいて、記念撮影したり、ドラムに座ってスタッフに撮影してもらったりしている人がいた。

YAMAHAのメープルカスタム…かな?
セッティングは椅子の高さ含め、Wecklと同じにしていた。

俺もドラムに座って、記念撮影してもらった。

・・・さて、開場時間になったので、番号順に入場する。

会場内の様子。

どの席になろうと、Wecklとの距離はそんなに無いと思う。
まぁ、そうじゃないと意味ないけど…ライヴじゃなくてクリニックだから。
俺は前から5列目あたり、左側で椅子に座った。
(この距離でWecklの演奏を観られるのは、最初で最後かもな…)
と思った。

開演時間を5分ほど押して、Wecklが現れる。
場内に溢れる拍手。
俺はこういうとき、目立つためにあえて他の人と違う行動をとる。
Wecklに向かって、両手を振った。
それに気づいたのか、Wecklは俺の方に向かって手を振った。
(俺に手を振ってくれたのかな…)
勝手に、そんなことをボンヤリ思う。
 
Wecklは米国人なので、当然だが、お話しする際は通訳がつく。
通訳の女性の方も、ステージに上がり、2人で場を進行させていくスタイルだ。
歓迎の拍手の中、Wecklは「ドウモ、アリガトウ」と日本語を交え、
「今日は、来てくれてありがとう。皆さんに私のドラミングを、少しでも理解してもらえるよう頑張ります」
…とか、そんなことを、言っていたような気がする。
Wecklはこれから叩く、自身のYAMAHAキットも紹介した。
「このドラムキットは、私のキャリアの中で2番目に気に入っている物です。
YAMAHAは私の要求をダイレクトに取り入れてくれます。
20年以上にも及ぶ献身的な対応に感謝します」
…などと言っていた気がする。

Wecklが演奏したYAMAHAのドラムキット。

さぁ、早速演奏開始だ。
Wecklは、
「まずはマイクをオフにした状態とオンにした状態を聴いてください」
と言い、フロアタムをマイクオン・オフで叩き分けた。
そのあと
「マイクをオフにした状態で叩きます」
と言い、演奏を始めた。
会場はものすごく広い訳ではないので、生音でも充分聴こえる。
シブイ演奏を聴かせるWeckl。

その後は、マイクをオンにして、マイナス音源(ドラム抜きのカラオケ)を流しながら、ドラムを演奏した。
Wecklの演奏を生で観るのは初めてだが、映像や音源では何度も観たり、聴いたことがある。
彼のスタイルはレギュラーグリップで、左はゴースト(小さな音量の音符)を多く交え、キックはあまり強く踏み込まず、ドッドドッ…と、細かい音符は踏まず、主に両手で構築しているように思えた。
また、あくまで楽曲に対してどうアプローチするか、に重点をおき、あまりドラム単体で魅せようとしすぎない印象を持った。

技巧派のドラマーの中には、ドラムが主役で、それに他の楽器が付いてくる…みたいな楽曲を作るドラマーもいるが、Wecklにその印象はない。
…以上は俺個人の主観であり、他者が思う彼の姿とは違うかもしれないが。

数曲叩くと、お次は、あらかじめ募集していた質問に答えるコーナーになった。
俺はてっきり、その場で挙手させて質問させるのかと思っていた。
あらかじめ募集された質問の中から答えるなら、変な質問で時間を取られる心配がない、と言う意味では良いのかもしれない。

ただ、いかんせん、俺が質問内容を忘れてしまっている部分がある。
確か「アドリブの時、何を考えながら演奏してますか」
とかだった気がする。
以下は記憶が曖昧な部分もあるが、概ねWecklの言っていることと大きく外れていないとは思うので、書く。
「アドリブする時、例えばドラムソロの時などは、最初の16小節はスネアとキックしか使わない…など、自分の中でルールを設けるようにしている。
例えば…(ここで実演)このように。自分のなかでルールを設けることによって、ドラムソロでもストーリーが生まれる」
「周りの音をよく聴くようにしている。私の場合は、メロディーを聴き、それに対してどうリズムを当てはめるかを考える」
「例えば…(ここで口ずさむ)こういうメロディーに対して、そのまま合わせたリズムを当てはめるのではなく、このように(ゴーストを交えたドラミングを実演)隙間を埋めて、メロディーを活かすようにしている。
『はい、ココはエクササイズ1のコレ!』みたいな感じで、決まったものを当てはめるようなドラムは叩きたくないじゃないですか?
だからメロディーに対して、どうスポンティニアス(即効性、当意即妙に)に演奏できるかだと私は思う」
因みに、この日のクリニックではWecklはこの「Spontaneous(予測がつかない、即効性、当意即妙)」と「Foundation(基礎)」「Independent(自主性、独立性)」という3つのワードを多用していた。
個人的に、この3つのワードが彼を象徴するものなのではないか…と思った。

それ以外の質問には、
「演奏中、真剣な表情のことが多く、あまり笑顔が無いですが、なぜでしょうか」
という少し砕けた質問には、
「私は、演奏中の自分を観るのが好きではありません。
私としても、たまには笑おう、という意識はあるのですが、演奏している時は集中していないといけません。
また、周りの音も聴いていないといけないので、自然と笑顔は少なくなります。
でも、いつも出来るだけ楽しむように心がけてます」
とのことだった。

それ以外にも色々語ってくれたが、全て書いてしまうのは憚られるので割愛する。

Wecklは終始、平易な言葉で、分かりやすく自らのドラム哲学を語ってくれた。
恐らくあの場で(それはどういう意味だろう?)と思った人はいなかったのではないだろうか。
そのくらい、シンプルな言葉を選んで語ってくれた。

しかし、である。
Wecklと俺の間には「スキル」という圧倒的な違いがある。
今回のクリニックを行ったからと言って、ドラムの腕前が上がるわけではない。
これは、ドラムクリニックに限った話ではなく、ロバート・キヨサキの講演を聴きに行ったからといって、経営の才能が芽生えるわけではない。

あくまでも「Wecklのやり方や、ドラム哲学」が学べただけで、それを自らのドラムないし、音楽にフィードバック出来るかは、各々の努力次第だ。
(果たして、今日のクリニックで自らのプレイに反映させられる人はどれだけいるのか…)
と、疑問に思う部分もあった。

そのくらいWecklというドラマーは、一般概念の外にいるドラマーだと思うのだ。
ギターをどれだけ練習しても、皆んなが皆んな、ジミ・ヘンドリックスになれないように、Wecklにも、また、なれないのではないか。

今日のクリニックは勉強になったが、あくまでも(俺は俺だ)とも思った一夜だった。

しかし、ここ数年を振り返っても、これほどまでに集中して演奏を鑑賞したのは、覚えがない。

彼のプレイ、手グセ、足技、スタイル、トーク…と、目と耳を全集中させて観た。

そういう意味では、音楽に対して誠実な時間を過ごせたと思う。

さて、記事はここで終わります。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

           了

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