見出し画像

こいつをどうにかしてやりたい

「んーとね、じゃあパパとお父さんのナレソメが知りたい」
「…はぁ?」
「いいじゃん、一緒に暮らしてればいずれは話すことになるだろうし」
「いいのかお前は ちったぁ脳みそ使って会話しろや」

――――

 寒い。いちおう家ン中とはいえ、この寒さにはまいる。おまけにこの部屋、四方がステンレスで囲まれてて、まさに缶詰状態。普通、家の中にこんな牢獄みたいな部屋作らんだろ。窓はないし、薄暗い明かりは点きっぱなしだし。おかげでここに連れ込まれてからロクに眠れてないんで、もう何日経ったのかもよく判らねえ。
(カチャリ)
 鍵を開ける音だ。扉が開いた瞬間にあの野郎をぶっ飛ばして出ていくことも何度か考えたけど、ボロボロにされた直後にそれやっていっぺん無茶苦茶に蹴り入れられて、暫くマジで動けなかったからな。さすがにもうちょっとマシな方法を考えよう。と、結局こうしておとなしくチャンスを待ってる訳だけど。
「よっ」
 むかつくので、すぐには目線を上げない。顔は見なくても、声で大体判る。今日はまた随分とご機嫌らしい。ん、何かいいニオイ…?
「今日は親父も兄貴も帰らないって言ってたから、特別に俺の手料理だ ありがたく思えよ」
 上半身を起こして見上げてみると、何やら湯気の立った料理?を載せたバスケットを抱えてやがる。
「正露丸とかのオプションあり?」
「面白いジョークだね…稔クン」
 俺が背中をあずけてる壁の前まで来てトレーを床に降ろすと、奴はしゃがみ込んで俺の左頬の絆創膏を勢い良くむしり取った。
「っ!」
 やっと固まりかけてた瘡蓋も無理矢理剥がされて、熱い痛みが走った。
「自分の立場、忘れてない?」
 何が立場だよ。いきなり俺のバイクこかして拉致ってきといて。
「ま、いいさ 冷めないうちに食おう この部屋寒いし」
 だからなんでこんなに寒いんだよこの部屋は何のための部屋なんだよなんで俺はこんな所に閉じ込められてんだよ!

【つづく】