きつねにつつまれたはなし
乗り心地の悪さに少々ウンザリしていた頃。彼女の運転するその車はいきなり左折して、たいそうな勢いでどこかの駐車場に突っ込んだ。ウインカーも出さずに。今さらそんなことで怒る気にもならないけど。
今どきかなり稀少な存在であるところの、いわゆるドライブインらしい。とは言っても我々の他には、やたらとでかい長距離トラックの類と、いかにも商用車といった感じのバンが数台、疎らに停まっている程度。舗装もなく、砂利敷きでもないただの地べたなので砂ぼこりがすごい。
彼女はさっさと車を降りてそこのかなりボロいプレハブ風の建物に入っていく。自分はとにかく喉がカラカラだったので手近にあった自販機でロクに選びもせずに缶コーヒーのようなものを買って、未開封のそれを片手に早足で彼女を追った。
建物内部、通路脇にいくつかドアがあった。外から中の様子は全く見えないのだが、彼女は迷わずいちばん手前にあるドアを開けた。中は畳敷きの休憩室だった。異様に広い。その場で呆気に取られてると、いつの間にどこで手に入れたのか、彼女はいくつかの袋菓子(ポップコーン?)と緑色の萎みかけのゴム風船(しかもビニール被覆針金の持ち手がついてる)を手渡してきた。俺は戸惑いながらも「ありがとう」と受け取って、ひとまず目の前の長机の上にそれらを置いた。
何なのこれ。小学校の遠足のおやつ? っていうかこの風船マジで何?
――とりあえず、この何とも言えない萎みかけのゴム風船と駄菓子をツイッターに載せよう。
何故この状況でそんなことを思ったのか、今となってはまったく理解できないのだが。仕方ないよね。ツイ廃だもの。とにかく、その時の自分はケツポケットからアドエスを取り出して、その写真を撮ったのだった。その時キャプションとして書き込んだテキストは明確に覚えている。
「ひととなりてはわらべのことをすてたり」
ひらがなで、そううちこんだんだ。
【つづく】