ローマン・クルツナリック『グッド・アンセスター:わたしたちは「よき祖先」になれるか』を翻訳して
「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」
このゴーギャンの有名な作品と同じ問いを、幼少期より抱いて生きてきました。社会の仕組みから一定の距離をおき、寺を持たない僧侶の道を自ら選んで20年、自らに問い続けて今日に至ります。
2020年秋、イギリスの文化思想家ローマン・クルツナリック氏と対談をするにあたって彼の著書を読み終えた時、知り合って間もない彼に「あなたの本を私に翻訳させて欲しい」と頼んでいました。「私たちは、よき祖先になれるだろうか」という本書のテーマは、私が問い続けてきた問いへのブレークスルーがそこにあるという直感ゆえの、行動だったと思います。
今、世界は地球規模の課題を抱える一方で、相変わらず企業は四半期決算に、政治は次期選挙に、私たち個々人はスマートフォンの通知に追われ、絶えず、瞬間的な反応と短期に現れる成果の約束に無自覚的にも縛られて生きています。
本書は、私たち一人一人が、地質学的な時間軸「Deep Time(ディープタイム)」の視点をもって生き、未来世代を勘定に入れた社会創生に取り組む必要性を訴えます。そして、これまで世界各地で実施されてきた社会制度や国家政策、また、様々な分野の活動家、研究者、団体、市民運動等による取り組みを検証すると共に、今日の潮流や注目すべき事例を紹介し、それらの内包する課題や可能性を探ります。
科学は進歩を続け、環境は変わり続けます。私たちの意識も常識も、同様に変化し続けます。事実、本書が執筆された直後にCOVID-19によるパンデミックが発生し、世界の潮流は加速しながら新たな局面を迎えています。私がお伝えしたいのは、本書を通じて、何が正解かを結論づけることではなく、常に変わり続ける状況に身をゆだねつつ、「ディープタイム」の中で長期的視野と思考をもって、現状を見続けることが必要ということです。
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先日、幸運にも、台湾のデジタル担当相オードリー・タン氏と話す機会をいただきました。「今日、我々がもつべき最も大事な問いはなんでしょう?」と私が投げたシンプルな問い掛けに、彼女は即座に返してくれました。
本書のテーマに私なりに応答していくことは、私が抱き続けてきた問いと、その奥にある感情に応えていくことのようにも感じています。今回の翻訳仕事は、私にとってその一歩となりました。どこへ向かうか模索が続く世界にあって、本書が読者の方それぞれに、いかに生きるかを探るきっかけとなってくれたら大変嬉しいです。
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