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肩書き問題

「僧侶」の肩書きを英語でなんと表現するか。
これは案外、簡単ではない問題だ。

僕は産業僧の名刺には、日本語表記のおもて面には「現代仏教僧」、英語表記の裏面には「Contemporary Buddhist」と記している。

本当はシンプルに「僧侶」だけでも良いのだけれど、「僧侶」だけ書くと、自分のお寺を持って葬儀や法事を主に勤める毎日を送っているように想像されがちな気がして、そうすると自分のやっていることの実態とかけ離れてしまうから、何かしら「普通の僧侶とは何か違うんだろうな」と感じてもらうようなニュアンスを加えたほうがいいのではないか、という配慮からだ。

かといって、あまりにも突飛な造語とか、耳慣れないカタカナで表してしまうというのも、何か質感を損ねてしまうような気がして、考えた結果、「芸術・アート」「アーティスト」「現代アーティスト」「Contemporary Artist」というカテゴリーに触発され、(伝統仏教の)僧侶に対する、現代仏教僧、と表現するアイデアが生まれた。

しかし、今度はこれをどう英語にするのか、という問題がある。「僧侶」というのは、英語で、PriestとかMonkになる。

Priestは、私の感じる限り(海外の人と会話した時の反応も含めて)、自ら土地に根差し、宗教儀式を執り行うことを通して、その土地やそこに暮らす人々の、連綿と続く生死に関わることを生業とするニュアンスが強い気がする。その点で、日本の一般的なお寺の「住職」スタイルの僧侶をPirestと表現するのは、違和感がない。

でも、「ひじり」スタイルの僧侶には、それはいまいち当てはまらない。ならば、Monkか。Monkは、僧堂(Monastery)にこもって修行する厳格な出家修行者というイメージが強い。非僧非俗を標榜した親鸞の流れも汲みたい自分としては、Monkと言ってしまうのも、収まりが良くない。

というわけで、英語表記ではいっそのこと、PriestもMonkもつけずに、Buddhistで終わらせている。頭にContemporaryをつけることで、「なんだろう、ただの”仏教徒”という意味以外のものもあるのかな」となんとなく感じてもらうことを、期待しつつ。

なんていうふうに、ごちゃごちゃと考えてきたけれど、もし「現代アーティスト」を現代アートという新しいながらも確立されたカテゴリーの中で活動している人であると見るならば、僕のやろうとしていることは、現代仏教という新たなカテゴリーを作り出すこととは違うので、現代仏教僧も何か違うような気がしてきた。

もし親鸞が、名刺を作るなら、どうするだろう。
肩書きには、何も書かないか、「愚禿(ぐとく)」の2文字か、そのあたりだろうか。もう少し考えてみたい。

最後に、かつて僕が書いたnote記事を読んで、この問題に関して長い感想を下さった方があるので、許可を得た上で、以下ご紹介。「僧侶」をなんと表現するか問題に、多少なりとも本稿が寄与するものがあれば、幸い。


▼ note 記事「現代仏教と古典仏教の配合比」にいただいたコメント

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2,130字

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