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Responsibility

新年のご挨拶らしいnoteも投稿できぬままに、2022年に突入。
年始からものすごく忙しいのでカレンダーを見返してみると、昨年の9月頃までは牧歌的なスケジュールだったものが、年末にかけて産業僧の仕事が盛り上がってくるのに合わせて徐々に忙しくなり、年末年始にかけて武蔵野大学のプロジェクトが始まったところから、その忙しさがピークに。今年の1月に予定されていたダボス会議@スイスから招待があり、当初は帰国後の二週間隔離覚悟で現地参加しようとも考えていたくらいなので、ダボス会議がオミクロン株の広まりによって延期されたことは自分にとっては良かったのかもしれない。

書きたいことが溜まるばかりで書く時間が十分に取れない日々が続いていたので、このnoteマガジン「松本紹圭の方丈庵」の読者の皆さまにも失礼を申し上げました。おかげで「書くこと」が自分にとってどういう意味があるのかを、感じる機会にもなった。僕にとってここに書くことは、日頃見たこと聞いたこと感じたことを振り返り、洞察を得るための大事な時間になっているのだということ。前までは、ふと思いついた時になんとなく書き始められるくらいの生活リズムだったから良かったけれど、今年は意識的に「書く時間」を作っていこうと思う。

年末年始に何冊か読んだ本がある。

『世界は「関係」でできている: 美しくも過激な量子論』(カルロ・ロヴェッリ著、 冨永 星訳)


光明寺の和敬住職に教えてもらって読んだのだけれど、量子論について専門知識がなくとも楽しく知れる本でありつつ、ナーガールジュナ(龍樹)の『中論』と量子論の重なり合いについて紙幅をとって語られており、とても面白い。私たちはつい、「科学的である」ことを、自分の日常生活に根ざした感覚をベースに捉えてしまいがちだけれど、科学者すらこれまでの発想の根本的な転換を迫られるような量子論の世界に、古い仏教の世界観が重なり合っていることに驚かされる。

もう一冊は『責任の生成』(國分功一郎  著、 熊谷晋一郎 著、新曜社)


以前からファンである、國分功一郎、熊谷晋一郎という両先生の対話とあって、最高すぎる内容。北海道の浦河町にある「べてるの家」で実践されている当事者研究に関する話題も豊富で、産業僧に取り組んでいく上でも参考になる。

特に「免責」と「引責」の関係性については、とても示唆深い。

例えば、Aさんが、何らかの原因で「つい、放火してしまう」という性質を持っているとする。もちろん放火は、法律においても社会的にも許されるものではない。だから通常は、ゴミ捨て場に火をつけてしまったAさんに対して「君は何をやっているんだ!責任を取りなさい!」と責められる。しかし、べてるの家では、いきなり責めるのではなく、Aさんをいったん「免責」するところから始める。放火してしまったAさんに対して、周囲は「あ、またAさんの身に、放火現象が起こったんだね」と受け止めて、Aさん個人を責めることなく、「じゃあ、なぜAさんの身に放火現象が起こったのか、Aさんも交えて、みんなで話し合ってみよう」というプロセスに進む。いったん免責されたAさんは安心して対話に参加し、話し合っているうちに「ああ、そういうことだったのか!」と自らの身の上に起こった現象をしっかり理解した時、自然と「引責」が起こって「ごめんなさい」が出てくるのだという。

このことは、自分の身を振り返ってみても、よくわかる。「何てことをしてくれたんだ!」と誰かから責められたとき、反射的に「ごめんなさい」が出る。しかし、その時の「ごめんなさい」は、とりあえずの「ごめんなさい」であって、なぜ自分がそれをしてしまったのか完全に理解していないから、結果的に、同じことをまたやってしまったりする。反射的な「ごめんなさい」は、出来事をしっかりと受け止めた上でResponseするAbility(Responsibility=責任)をむしろ失ってしまっている状態なのだ。

産業僧をやっていると、この問題は企業の中でもとてもよく見られるように思う。何かが起こった時に、それを全て誰かのせいにすることで、解決したことにしようとする。そうした「自己責任論」は、社会としてのResponse Abilityをどんどん痩せ細らせる論理だとも思う。皆が「責任」を押し付けられる恐怖の中で、ResponseするAbilityをどんどん奪われ、人は萎縮して、よいプレーができなくなっていく。

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