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自殺

オレは何度も死にかけた。
あの日のことは忘れられない。
じめっとした空気、夜の7時か8時、入院してたオレは、
タバコを吸いに、病院のまえにある公園にいた。
オレンジ色の街頭が腐ったブロッコリーみたいに
街路樹を照らして、マットな夜の風景のなかに立ってた。
なんてことないいつもの風景、公園の端にある花壇の
生垣に座っていつものようにタバコに火をつけた。
なんでかな?そこにいたことはUSBに録画したみたいに
覚えてるのに、そこにどうやって行ったのか、またオレはどうやって
病院まで戻ったのか、全然覚えてない。まぁこれはどうでもいいこと
なんだけど。で、タバコを吸い込んだんだ、とても力なく。
どうやって吐いたか覚えてないんだけど、気がついたとき
には目の前の街路樹がオレの視界の真ん中にいた。1メーターか1.5メーターか、
たぶん1.5メーターだが体感的には1メータージャスト、真正面に
腐ったブロッコリーの木がたってた。生温い空気がオレと奴の間にあって、
そこはまるで深海のような空間だった。この表現は詩的な表現じゃない、
まさしく深海だったんだ。想像してみてくれ、深海5000メーター、
オレの前に腐ったブロッコリーの木が1メーター先に、オレの視界に、
タバコ吸ったけど吐き方わからない、花壇に座ってるオレの横に
赤いボタンがあったんだ、それ押したらオレは溶けてなくなるんだ、
もう押してしまいたい、なにも考えられない、押すしかない、
腐ったブロッコリーが「押しちゃえよ」って、手脚が壊れた秒針みたい、
押すしかない、これ吸ったら押そうと思った、そっから覚えてるないんだ。
結局オレは押さなかったからいま生きてる。なぜ押さなかったかなんて
全然わからない。綺麗事なんて一欠片もない、オレが押せなかったのは、
オレの手を、オレを愛してくれてる人たちが、必死になって抑えてくれたんだ。
あぁなんか涙でてきた。だからいま生きてる。紙一重だった。
お前らの死にたい気持ちすごくわかるんだよ、オレ。
オレも同じだから。でも今はな、お前らが死んだら悲しいんだよ。
オレ、お前らと同じだからさ。お前ら死んだら悲しいんだよ。
オレもあの夜にいたから。あのボタン触ったからさ。
つらかったよな?もう終わりにしたかったよな?
でもな、オレ、今生きてて幸せなんだよ。あぁ涙とまんねー
オレはオレの力で止まったんじゃない。オレ一人だったら
押してたよ、終わってたよ。オレの腕つかんで離さない奴らのおかげなんだ。
オレはなんにもしてないんだ。ただそれだけなんだよ。
オレが押せなかったのは、ただそれだけなんだよ。
だからなにも偉そうに言えないけどさ、お前ら死んだら、
オレ悲しいわ。

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