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「サーカスの夜に」小川糸著

実は、この作品を読む前に宇多丸氏の「食堂かたつむり」の映画レビューを目にしてしまい(※引用サイトより)彼が酷評していたのが気になって、そちらの作品から読んだのだけれど…ほぼ、彼が酷評する理由が分かってしまい、「この人強烈だな…」という印象が残った中、一方でその後小川さんが書かれた作品はどうなのだろうと気になったので、「サーカスの夜に」を読んでみた。感想?

率直に、読みやすく面白く、それでいながら一つの物語としてしっかり完成されていて…食堂かたつむりにおける宇多丸氏の酷評の呪縛からも開放された感じ…(笑)食堂かたつむりは一種「エッセイ」としてなら機能したのかもしれないけど、展開も登場人物に対しても共感する部分が見つからず、まるで「関心のある分野以外は作画が崩壊している」マンガを読むかのように、ただ「クレイジー」な側面が目立ってしまった印象だったんだけど、

本作の「サーカスの夜に」は、先の作品でも小川さんから一番のこだわりを感じる食べ物や料理は勿論、サーカスという舞台で展開される物語がファンタジーながらも浮世離れせず、主人公の視点ながらも客観的に描かれていて、演劇や芸術活動、あるいは純粋に「エンターテインメント」の楽しさと苦しさと…酸いも甘いも描かれていて、非常に面白かったし、読みやすかったのも印象的だった。

「死」に関しても「あっけなさ」も含め、「悲しみ」に縛られない描き方は、方向性は違うけど北野映画にも通じるようにも感じたよね。登場人物の名前の方向性も非常に面白いと感じたし、ある意味今日も過熱する「正義の排他性」に対しても「突っ込む」シーンがあったり…。

自分の世界観を不安定に詰め込んだのではなく、読者に丁寧に伝える姿勢が純粋に詰め込まれた印象で…純粋に、好きだと思える作品に出会えたなって。あるいは難解な表現を用いずとも、作品として骨格がしっかりしていて、読者に伝わる作品は十二分に評価に値するし、支持を得られるのだなということも確認出来て…ある意味、ちょっと物書きも目指している自分の中でも可能性を見いだせたというか、逆に「下手な小細工は作品を台無しにする」類のような、引き締まる思いもあって…。

ところで、サーカスの思い出…実は俺、小学生の時に1度だけ東京ドームにボリジョイサーカスをピアノの先生と一緒に見に行ったことがあって、夏休みだったかな…?ブランコとか曲芸とか、色々やったと思うけどただただ…「落ちたりしないのかな大丈夫なのかな」という気持ちで見ていたのを思い出す…(笑)もちろん、純粋に「すげー!」という感情も伴って、のことだけどね。





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