幻影の書 ポール・オースター著
「幻影の書」を読んでみた、というのも近年音楽シーンで目覚ましい活躍を見せる「舐達麻」のBadsaikush氏(類まれなる審美眼と静かなる情熱を持つ大変注目のアーティスト、更なる芸術作品を生み出すため「雪国」などの日本文学も熟読されている様子…)が、以前インスタのストーリーで街頭の著書の書影をアップしていて…ああ、そういえば在職時には読む気力もなくせっかく図書館で予約したのに流れてしまったのを思い出し、自分の文章力や思考力回復のためのリハビリがてら…かなりハードルの高い読み応えのある作品を選んでしまったとは思ったが、なんとか先週に腹痛と戦いながら読み切った(笑)
まず、何度も言っているけど俺は前職で本に携わる仕事をしていながら、本を読むことが基本的に少ない人間なので、映画作品があればそちらを見ることが多い。あるいは、ドキュメンタリーやノンフィクションを本で読むことは興味深いと思うけど、小説はあまりこれまで触れてこなかったのも確か…。そんな人間なので、文学的側面だのそういう部分は全く分からないのだけれど…この本はなかなか面白かった。
あらすじについては…新潮社様のホームページをご覧ください、うまくまとめられなかったので…(笑)
まず、この作品の翻訳は非常に大変な作業だっただろうと感じた…自分は英語版の原作を知らないし現時点で読んではいないので、具体的にどのポイントがっていうことは分からないけど…なんだろう、(英検1級取得しておきながら)もう素人っぽい感想でしかないけど、難しい英語を訳したのだろうなというのが凄く感じられたんだよね…。実際、英語の日本語への変換は難しい。仮に英語力を高めても日本語に変換する作業を伴うと真っ白になることも多いし、日本語にない表現を英語にどう置き換えるのかも難しい…。故に、この作品の翻訳は本当に骨の折れるくらい大変な作業であったと思う。
基本的に物語としては非常に奥が深い作品ではあるし、映像化や俳優の演技やを通じて表現することが難しい心情の描写は特に印象的であった。映画をテーマにしながらも、映像化の難しい表現もふんだんに盛り込んでいると思うので…凄い、映像を撮る技術や労力がなくとも、ここまでの物語を文字だけで表現してしまうことへの驚きというか…改めて、シンプルに文字で展開する物語や世界への探求欲に物凄い火が付いたよね。
一方で、文章で表現することの限界も感じたのも事実…その部分がつまらなかった、では決してなく…なんだろう、凄く難しいよねって…表現者にとっても、読み手に取っても。例えば、著書では映画の再現場面もあるのだけれど、これが非常に読者と共有することの難しさというか…映像を全く背景知識や情報のない読者の中に、完全に再現させることの難しさというのかな。オースターの映画への情熱(ここでは無声映画)は感じられるのは確かだし、かねてから映像こそ最高のコンテンツだと考える自分にとっても「文章を用いた映像の再現」への関心は強いのだけれど…今回は脳内に再現することの難しいシーンもあった。勿論、自分の理解力の向上を図るべきなのは当然ではあるし、本来なら英語作品も併せて読むことで理解を深める必要性も感じてはいるけれども…。
そういえば、かつて開設していた(今も残っているかも?)自身のホームページに載せていたのだけれど、中学生の頃に小説を書いたことがある。「Project of Civic」というタイトルで、ワイルドスピードと頭文字Dを掛け合わせたような作品だったので走行シーンを文章で表現することもチャレンジしたのだけれど…あれも今思えば難しい作業だったなって。当時は読者の方の大半が上記作品を予め見たことのある、あるいは単純に自動車に関する背景知識があるがゆえに読者(ネットの知り合いの方)伝えやすい側面もあったので「分かりにくい」という感想はあまり頂かなかったのだけれど…てか、今も俺のホームページって残っているのかな…(笑)
話を戻して…「幻影の書」は基本的に明るい作品ではないけど、何か懐かしい気持ちにさせてくれる部分もあるだろうし、一人の人間の生涯をたどっていくことの面白さ…疑似体験ではあるけどドキュメンタリーを見ているような…そのことを凄く感じさせてくれた作品かなって。ただ、作品としてボリューム満載だったので読み応えは凄かった…いや、申し訳ないが本当に読了後の「やったぜ」感も…(笑)
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