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男2人×女1人の恋愛事情。いざ新天地へ

 それから引っ越しまでの日々、私はバイトや引っ越す為の色々な手続きや荷造りで相変わらずバタバタとしていた。その中でも、彼からの連絡が来るかもしれないとスマホを気にしている自分が嫌だった。彼からの連絡を待っている自分の気持ちの中に、ほんの少しだけ、期待が入っている事が分かっていたからだ。
 あの日たまたま会った日も、私はこの世のありとあらゆる罵詈雑言を彼に浴びせる事も出来た。それなのに出来なかったのは、心のどこかで彼にまだ嫌われたくないという気持ちがあったからだ。怒りが体中を駆け巡るのに、心だけはまだしがみついている。自分の事なのに気持ちが悪い。
 余計な事を考えてしまうと立ち止まりそうだったので、引っ越し直前でただでさえ慌ただしい日々に予定をさらに入れまくって、私は自ら忙しくしていた。

 そして迎えた引っ越しの日。私は朝から少々センチメンタルになっていた。
 ああ、29年間、過ごした家を今日出ていく。父と母は私が出て行っても二人で仲良く暮らしてくれるだろうか。この私の部屋とも今日でさよなら。自分の荷物を全部は持っていけないから、必要な物だけ持って出て行く。ふと、私の目に入ったのは彼が置いていった荷物達だった。あまり視界に入れたくなかったので段ボールに入れて一か所にまとめてある。荷物が多すぎて箱が閉まらなかったので、そちらに目を向けると、どうしても彼の私物が目に入ってしまう。
 結局、彼から連絡はなかった。

あのくそ野郎・・・!

 あ、口が悪いですね、あのうんち野郎。

 センチメンタルな気持ちが、怒りで一気に強気に変わる。
私は新たな一歩を踏み出すんだと!

父と母に見送られ、私は飛行機に乗る。別れ際、涙目の母を見ると胸が痛んだ。そんなに悲しまないで欲しい。一生の別れじゃないし、ちゃんと定期的に帰るようにするし、大金稼いでいっぱい親孝行するからね!
 もう後ろは振り返らないぜ!と、私は空港のゲートをくぐる。なぜか鳴るブザー。呼び止められる私。さすが私、最後まで決まらない。しかも原因は履いていたブーツの金具というね。かっこよく新天地に向かいたいという気持ちが裏目に出た瞬間だった。
 飛行機が地面から飛び立つ。窓側の席だったからずっと外を見ていたんだけど、外は雨で暗くて何も見えなかった。景色でも見ながらもっと感傷に浸りたかったんだけど、それすらも叶わなかった。これはもう、感傷に浸るなって事だなと無理やり前向きに思考を変換する。
 この時の私はまだ知らない。新天地も、波乱万丈な日々が待っている事を・・・。

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