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連載/デザインの根っこVol.15_長田 篤

建築家やインテリアデザイナーにインタビューを行い、衝撃を受けた作品などのインプットについて語っていただく連載「デザインの根っこ 」。今回は「商店建築」2019年8月号掲載、長田篤さんの回を公開します。

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料理、サービス、空間が一体となって
生まれる体験

 強く印象に残っているものの一つ目が、5、6年前にプロダクトデザイナーの先輩の家で見つけた建築家、ジョン・ポーソンの書籍「A Visual Inventory」です。彼が世界中で見つけた「美しいもの」を撮った写真集で、年月を重ねた石やレンガ、そこに光や自然が交わる様子が載っています。意図したことではなく、経年によって想像以上のことが起きている状態です。僕は高校生の頃修復師を目指していたので、時間が経って生まれる味わいをテーマにしていることに共感し、翌日にはその本を購入しました。

 経年したものに対する意識はずっと変わらず、設計時も新建材はなるべく使いません。既存を解体して出るコンクリートや木材、小屋組みを極力生かして、新しく加えるものもタイルや左官、木材などが中心。新建材は時間が経っても年を取らず、そこだけ取り残されたように感じるのです。元からあるものを生かすことで、お店が立つ土地にもなじみます。

1.「A Visual Inventory」John Pawson(2012年発行・画像提供/長田篤)

伝えたいことと表現の関係

 次が、僕が学生の頃に知ったDJのMatthew Herbertです。最初は単純にかっこいいと思って聴いていたのですが、そこにポリティカルなメッセージが込められていると知ります。それも言われないと分からないくらいで、見せ方がとてもスマートです。10年程前に見たライブで、彼はDJをしながら観客の声をサンプリングして、即興で音楽にしていました。しかも実験音楽のようなものではなく、とても聴きやすい。強い社会性や、伝えたいことがありながら、寄り添ってくれている感じがします。またトースターの音や海に潜った音を楽曲にしていて、自分の足を使ってサンプリングするというのは、ジョン・ポーソンと同じですよね。ジョン・ポーソンの作風はとてもミニマルですが、彼の曲もとても澄んでいる感じがします。

過ごす人が主役になる

 最後が、デンマークの「Restaurant Kadeau」。僕が設計したレストラン「kabi」のシェフが以前働いていたお店です。入り口にあるチャイムを鳴らすとスタッフが迎えに来てくれて、パティオに通されます。そこでシャンパンを楽しんだ後、席を移動してコースが始まります。この時間の使い方は日本にはないですよね。料理もシェフが自ら運んで、テーブルに肘をついて同じ目線で説明してくれます。一皿に対する思い入れが強いためか、この説明も長いのですが、最後に必ず「enjoy」と一言。客席の間の取り方もゆとりがあって、他のお客さんは一切気にならないし、スタッフも多く、サービスも非常にスマート。夕方の6時半に行って、コースが終わったのが夜の12時半でした。気付かない間に調光が変わって、キャンドルが点いて、外が暗くなっている。生きているかのようにシーンが変わって、常に居心地の良い状況がつくられていました。

 このお店では、料理も、サービスも、空間も、すごく高いレベルでバランスが取れていました。それらは最終的に、一つの体験としてお客さんの中に残ります。「なじむ」ということはここでも重要で、どれかが突出してはいけません。僕が修復師ではなく設計者を目指したのは、モノだけではなく、その中も見るようになったからです。廃墟のようなお店でも常連客が盛り上がっていれば、何も直さなくて良いんじゃないか、と思いました。だからこそ、設計する時も最初にパースを決めるのではなく、施主や職人が現場に集まって、そこで過ごす人が主役になる空間を考えるのです。
〈談/文責編集部〉

.Restaurant Kadeau(画像提供/長田篤)

おさだ・あつし/1983年静岡県生まれ。大学で建築を専攻した後、アトリエ事務所での勤務を経て2015年マイルストーン設立。最近の仕事に「wineshop flow」(19年6月号)や「Restaurant Kabi」(19年3月号)など。
※内容は商店建築2019年8月号発売当時のものです。

紹介作品一覧

1.「A Visual Inventory」
John Pawson
(2012年発行・画像提供/長田篤)
2.「Scale」
Matthew Herbert(2006)
3.Restaurant Kadeau
(画像提供/長田篤)

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