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連載/デザインの根っこVol.14_松尾 高弘

 建築家やインテリアデザイナーにインタビューを行い、衝撃を受けた作品などのインプットについて語っていただく連載「デザインの根っこ 」。今回は「商店建築」2019年7月号掲載、松尾高弘さんの回を公開します。

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実現できないものを自分の糧にする

 私は福岡県の南部で育ちました。広い平野で、空がフラットに見えます。特別星が奇麗な場所ではないので、満天の星空が見える日もあれば、ほとんど見えない日もある。「昨日よりはよく見えるな」くらいの緩やかな変化でしたが、その「見え方が変わっていく」ということ自体に惹かれていました。帰り道に夜空を見上げたり、寝る前に窓から眺めたりと、星を見ることは日常の一部になっていたのです。

 なんとなく感じていたのは、星空が持つ階調性の素晴らしさ。季節だったり、天気だったり色々なものの影響を受けて日々変わり続けます。星は点光源のようなもので、それぞれが無数の階調性を持って、かつ色温度も全て備えていると言えます。星空以上の照明をつくるのは不可能でしょう。人工照明の場合、調光も、色温度もまだまだ階調が粗いですが、そこに余地が残っているとも言えます。私にとっては毎日変わる星空が当たり前の環境だったので、自身の作品でも自然観や現象性が重要で、変化し続けることを前提とした空間デザインを求めるのだと思います。それは自然への挑戦というよりも、そうなっていないことへの違和感と言った方が近いかもしれません。慣れ親しんでいる星空等の自然観が私にとって創作の基準になっているのです。

 演出的でないことも重要で、星空の変化には恣意性がありません。意図や主張がないからこそ飽きが来ないし、空間とも自然に融合できます。

 自然の光でいうと、蛍の光も面白い。空間や光と人との関係を考える際、どうインタラクトするかは常に主題になります。その点で蛍は、星と同じように光っているけど、探したくなったり、追いかけたくなったりしますよね。インタラクションデザインでは、「こうしてくれ」という恣意的なデザインになりがちです。見ている側が自らアクションを起こしたくなるようなデザインが必要だと気付かされました。蛍の光はある意味で演出的だけど、蛍からするとただ生きているだけなんですよね。

星空

つくり込んだ光の色の世界

 演出という点でいうと、ロックバンドCold playの「Speed of Sound」のPVも衝撃的でした。デジタルカラーライティングの極みで、これ以上の余地はない程完成されています。白黒から始まって、点光源の白い光が棒状になり、色がついて、フルカラーになる。その光を背景に、人物はシルエットになって、暗い中に表情が見える。全ての色を使いながら破綻なく成立していて、起承転結もしっかりしているけど、同時に、あるシーンを切り取っても格好良い。星空とは逆で、完全に演出的です。これぐらいシームレスにあらゆる光を横断してつくり込んでいるのは参考になります。

少ない要素で描く壮大なスケール

 最後が、2014年にパリで見た、オラファー・エリアソンの展示「Contact」です。Rがついた床と、それを水平線のように取り囲むオレンジ色の光。それだけで、見る人の想像次第でどうにでも解釈できる空間をつくっているということに感動しました。他の惑星のようにも、砂漠にも見える。具象でも抽象でもなくて、ここまで要素を削ぎ落として、かつ壮大なスケールを描けているのは他にない。実践しているステージの高さに強い衝撃を受けました。

 どれもすぐに実践できないものばかりですが、そこから自分の仕事につながる考えを多く得ているのです。 〈談/文責編集部〉

「Contact」Olafur Eliasson(2014)(画像提供/松尾高弘氏)

まつお・たかひろ/1979年福岡県生まれ。九州芸術工科大学大学院芸術工学研究科修了後、ルーセントデザインを設立。映像や照明、インタラクティブアートを駆使した光のインスタレーションを手掛ける。最近の仕事にアートインスタレーション「SOL / LUNA」や「パナソニックミュージアム ものづくりイズム館」(18年7月号)の「ヒストリーウォール」など。
※内容は商店建築2019年7月号発売当時のものです。

紹介作品一覧

1.星空
2.「Speed of Sound」
Coldplay(2005)
3.「Contact」
Olafur Eliasson(2014)
(画像提供/松尾高弘氏)

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