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連載/デザインの根っこVol.16_井上 拓馬

 建築家やインテリアデザイナーにインタビューを行い、衝撃を受けた作品などのインプットについて語っていただく連載「デザインの根っこ 」。今回は「商店建築」2019年9月号掲載、井上拓馬さんの回を公開します。

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デザインとコンテンツと思いが一体となった
店づくりのために

 伝統を大事にする京都で生まれたこと。そして16歳から23歳までを、グラフィティーを始めとしたヴァンダリズムに溢れるNYで過ごしたこと。それらが、今の私の考え方に大きな影響を与えていると思います。店舗デザインを依頼される方は、「ずっと続くもの」と「見たことがない最先端のもの」を求めます。その矛盾した二つをどちらも大事にする、両極端を見つめることでバランスを取るという考えは、事務所名「everedge(エバーエッジ)」にも表れています。両者のせめぎ合いが自分にとっての哲学でもあって、その根源が、若い時の経験にあると思うのです。

 当時のNYは、まだ葛藤こそあったものの、アートや音楽、スポーツ、全てにおいてストリートカルチャーが文化として市民権をより早く得ていました。18歳で何も知らずに移り住んだ私には衝撃でした。アートでは、ただ落書きをすればよいというものではなく、アイデアやストーリー、思い、クリエイティブな部分があるかどうかが、重要だと思います。例えばバンクシーの絵は、知らない人が見ても訴えかけてくるものがあります。もう一つ重要だと思うのが、即興性です。それは、自分自身を変化させるということ。こういった考えは、今の私のデザイン手法にも生きています。

コンテンツがあってデザインが生きる

 極端なことを言うと、既にデザインは行き着くところまで行っているのではないでしょうか。私は、形だけ整えてラグジュアリーにするのではなく、コンテンツの重要性を意識し、「そこに入るコンテンツを考えた上でのインテリア」を大事にしています。私の事務所が入る「y gion」という建物は、京都・祇園に立つ雑居ビルを改装したもので、飲食店やギャラリー、イベントスペースなどが入居しています。私はここの設計だけではなく、クリエイティブディレクターとして運営も手掛けています。DJや料理人、キュレーターなどいろいろな職能の人間を中心に、多くの人が集まれる空間です。店をつくる時に重要なのが、文化や、面白いものをつくるという気概でやっているかどうか。売り上げはあくまで結果で、そこに思いがあるかどうかが重要なのです。

素材と素材をつなぐ即興性

 私達の強み、大事にしていることは何かと考えると、コンセプチュアルかどうかだと言えます。普段からデザインよりもコンセプトが主軸になるように取り組んでいて、その意味で、生まれる形は結果です。クライアントを始め、関わる人が多くいて、彼らから学ぶこともたくさんある。私にとって、インテリアのデザインはDJに近く、ゼロから素材をつくるのではなく、既にある素材と素材をどのようにつないでいくかが重要だと思うのです。これがデザインする上での即興性で、自分達のスタイルとか、共通する作品性といったことは意識しません。彫刻のような固まったインテリアではなく、人が入って初めて完成する空間をつくりたいのです。
〈談/文責編集部〉

いのうえ・たくま/1984年京都生まれ。ニューヨークのファッション工科大学インテリアデザイン科を卒業後帰国し、グラマラス勤務を経て、2012年にeveredgeを設立。最近の仕事に「あふひ」(19年9月号)や「y gion」、「とんちんかん」(17年12月号)など。
※内容は商店建築2019年9月号発売当時のものです。

紹介作品一覧

1.UNTITLED【NICOLE MILLER】
KAWS(1996)
※KAWS/Monica Ramirez- Montagut(2010)より
2.Wall art
Banksy
※Wall and Piece/Banksy(2007)より
3.Gravestone
Basquiat(1987)
※Basquiat/Marc Mayer編(2010)より

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