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連載/デザインの根っこVol.27_佐藤 航(後編)

建築家やインテリアデザイナーにインタビューを行い、衝撃を受けた作品などのインプットについて語っていただく連載「デザインの根っこ 」。今回は「商店建築」2020年7月号掲載、佐藤航さんの回(後編)を公開します。

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レイヤーを行き来する楽しさから
空間を考える

 前回(vol.26)は、さまざまなスケールを行き来することの面白さをお話ししました。例えば、ペットボトルがあるとします。ペットボトル自体は珍しくもなんともないですが、それを子どもの目線で見たらどうなるのか、アリの目線からならどう見えるか、ということに興味があります。見る視点を変えると、なんでもなかったものが急に面白くなることがあります。そこにデザインの余地や新しい体験があるのではないでしょうか。この時、つくり手が興味を持つポイントと、使い手が興味を持つポイントをどうリンクさせるかが重要になります。おばちゃん目線とアーティスト目線をどうミックスさせるか、と言い換えても良いかもしれません。その点で、アートからは多くのヒントをもらっています。

 吉岡徳仁さんが展覧会「クリスタライズ」で展示した作品に、結晶が音楽によって形を変えるというものがありました。音という目に見えないものを形にするという表現に、想像の楽しさを感じました。昆虫や鳥の暮らしは想像でしか分かりませんが、だからこそ想像すること自体が楽しくなります。

『Swan Lake』(2013年) 吉岡徳仁

抽象性から生まれる余白と汎用性

 個と全体の話やエコシステムに対する考え(vol.26前編参照)は、どちらかと言えば複雑系の話です。複雑系とは対極にある純粋な抽象性として、仕事を始めてから出会い、衝撃を受けたのが、アーティストのドナルド・ジャッドの作品です。彼は、自身の作品を環境から切り離した純粋なものとして取り扱っています。作品名に「無題」が多いのも、既存の文脈に接続されない意志の表れでしょうか。もともとアートは邸宅に飾られるもので、環境と対になるものでした。ジャッドはもっとピュアに、どんな環境であってもアートが力を発揮することを意図したのかもしれません。実際に形としてつくるものだけでなく、そこから周囲の空間まで、影響がにじみ出ているようにも見えます。

 抽象度が高いと、余白や汎用性が生まれます。それはつまり、自由度の高さにも直結します。私が設計した「カップヌードルミュージアム・ミュージアムショップ」では、商品のパッケージである箱が展示台となり、壁面まで連続しています。要素を減らすことで空間を抽象化しつつ、個から全体まで一貫させることで、複雑系に頼らずに空間をつくりました。彼のアート性に惹かれたというよりも、解き方の思想的な部分で多くのヒントをもらっています。

『Untitled』(1967年) ドナルド・ジャッド

デザインの主語を考える

 抽象度を高めた上で本質を残し、汎用性と自由度を増すというアイデアは、キャラクターの「ハローキティ」にも見られます。大きな特徴は、口がないことです。そのことによって、笑っているのか泣いているのか、大人なのか、子どもなのかも分からなくなります。色々なブランドとコラボをしたり、子どもから大人にまで愛されていることも、その抽象度のおかげではないでしょうか。キャラクター付けの考えは、デザインも同じですよね。「こう感じて欲しい」というフィルターは、主語が誰かによって恣意的な話にもなりがちです。それがデザイナー個人の欲求を満たすだけではダメで、店員やお客など、色々な立場のレイヤーを超えて考えることが、優れたデザインにつながると思います。     〈談/文責編集部〉

さとう・わたる/1979年神奈川県茅ヶ崎生まれ。2003年東京工業大学大学院修了後、コクヨ入社。18年よりクリエイティブデザイン部部長兼チーフデザイナー。オフィスやショールーム、飲食店など幅広くデザインを手掛ける。最近の仕事に「未来コンビニ」(20年7月号)や「BBTower 5G Workplace TRANSIT TUNNEL」(18年10月号)など。
※内容は商店建築2020年8月号発売当時のものです。

紹介作品一覧

1.『Swan Lake』(2013年) 吉岡徳仁
2.『Untitled』(1967年) ドナルド・ジャッド


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