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職住一体と小商いの空間を「商店建築」で考える理由

こんにちは。

7月28日に、「商店建築 8月号」が発売となりました。商店建築を読んだことがある方の中には、表紙を見て、いつもの商店建築とは少し違うと感じた方も多いと思います。巻頭の特集は「〈職住一体〉と〈小商い〉の空間づくり」。いつもとは違うからこそ、どうしてこの特集をつくったのかをお話ししようと思います。

コロナ禍で、店舗デザインの専門誌に何ができるか

東京オリンピックを控え、インバウンド観光客で街が賑わっていたここ数年、「商店建築」では年に2回のペースでホテルを特集していました。また働き方改革が叫ばれ、オフィスに対する考え方も日ごと更新される中でオフィス空間も様変わりする状況においてはオフィス特集のボリュームを増やしたりと、バックナンバーを振り返るとその時々の社会の様子が明確に現れています。
(ちなみに、高度経済成長期やバブル期には、「ゴーゴー喫茶」「ドライブ イン レストラン」「ディスコ」の特集もあったそうです。ゴーゴー喫茶?)

新型コロナウイルス感染症が世界的に猛威を振るい、「商店建築」で掲載するほぼ全ての業態が甚大なダメージを受けているいま現在、「商店建築」では何を掲載できて、何を掲載すべきなのかを考えるところからスタートしました。

店舗と住宅と日常と非日常

近年の観光において、絶景や名所を訪ね歩く従来型の旅行から、その土地のローカルに触れるような旅の在り方が急速に普及していました。知らない土地の、知らない誰かの日常という非日常を体験することは、高揚感よりも安らぎを求める心情が背景にあったのではないでしょうか。24時間SNSにアクセスでき、エンタメも充実していて、という刺激に満ちた毎日で、知らず知らずのうちに酷使された心と身体を癒そうとしていたのかしれません。日常がハレに、非日常がケになっていたと言い換えてもよさそうです。ここ数年の「商店建築」のラインナップを見ても、価格帯を問わず、隙を残して親しみやすさをつくったような空間が多いように感じます。

外出すらままならないコロナ禍という非日常で自分の機嫌を保つために、ローカルに目を向けるというのは自然な行為です。通勤や街での遊びなどが難しくなると、当たり前の生活が歯抜け状に欠けていきます。その穴を埋めるため、もっと言えばコロナ禍で失われた日常という大きなマイナスをプラスに転換するための眼差しが「豊かな生活」に向けられたように思います。お店はハレの存在ですが、非日常な状態が日常となっている現在では、毎日の暮らしの中で通うという能動的な行為によって「豊かな生活」の獲得につながるのではないでしょうか。

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住宅街に立つ「Isecho NEST」。生活の器である家の中に、小さな社会が入り込んでいます。

環境が変わると、同じものの見え方が変わる

特集タイトルとして掲げている「小商い」や「職住一体」という言葉は必ずしも目新しいものではありませんし、現に、掲載している事例もほとんどが「コロナ以前」に竣工しています。すでにあった考え方がこの数カ月の環境の変化でますます強度を持った、と考えた方が適切でしょう。災害などのカタストロフは、自身の生活を見直すきっかけとなります。経済が不安定になる中で、仕事を辞めて店を始める、という方は多くないでしょうが、会社に勤めながら店を始める、設計事務所に他の機能を加える、好きなことを共有できる仲間で小さく集まるなど、暮らしのチャンネルを増やす試みは活性化するかもしれません。身の丈で行う小さな商いは、不安定な経済に流されない強さを持ちます。
それを踏まえて、特集のラインアップを見てみましょう。


ウィズコロナ/ポストコロナを考える Vol.2
〈職住一体〉と〈小商い〉の空間づくり

○「小さな公共圏」を生み出すマイクロ複合施設
・BONUS TRACK/ツバメアーキテクツ
・西日暮里スクランブル/HAGI STUDIO
・共創自治区 SHIKIAMI CONCON/魚谷繁礼建築研究所 + muura
○「つくる」と「商い」が共存する開かれた設計事務所
・富士見台トンネル/ノウサクジュンペイアーキテクツ
・creator's salon ODEONS/ODEONS
・y gion/everedge
・テーラー・ハタノ/A.C.E.波多野一級建築士事務所
○住みながら働く、職住一体という暮らし方
・Isecho NEST/333アーキテクツ + 高橋良弘
・つながるテラス/ビーフンデザイン + プラグ建築研究所
・鈴木家/キノアーキテクツ
・五本木の集合住宅/仲建築設計スタジオ
・欅の音terrace/つばめ舎建築設計 + スタジオ伝伝
○レポート&インタビュー
・アキナイガーデン
・OSTR
・tomito architecture

「『小さな公共圏』を生み出すマイクロ複合施設」では、小商いや小さなオフィスが集まった施設を紹介します。興味深い点は、価値観を共有できる人たちで集まりつつ、開かれていること。
兼用住宅が集まった新築の商店街「BONUS TRACK」では、周辺の住宅とスケール感をそろえ、また近隣の「下北沢らしさ」を引き継ぎつつ懐古的にならない爽やかさを持って開かれています。

「『つくる』と『商い』が共存する開かれた設計事務所」では、設計事務所と別の機能を共存させた空間を掲載しています。運営を行うことで得た知見を設計にフィードバックするだけでなく、ものづくりの現場が街に開かれるという、面を見据えた点の在り方が提示されています。

「住みながら働く、職住一体という暮らし方」は、店舗や事務所と住宅を兼ねた空間の紹介です。いかようにも使える冗長性や、「働く」と「住む」をどうつなぎ、どう分けるかがテーマとなっています。

またレポート&インタビューとして、設計事務所に勤務しながらつくった小商いの場「アキナイガーデン」や設計事務所の立ち上げとともに、事務所をシェアオフィス、イベントスペースとしたOSTRの取り組み、個人の生き方に並走するように空間を考えるtomito architectureへの取材も行いました。

商店建築らしさを拡大する

目に見えないほど小さなウイルスは世界中をかけめぐり、大きなうねりを引き起こしました。そのうねりは、当たり前の働き方、当たり前の家の形式に疑問符を投げかけています。この特集では、「これから商業空間はこうなる」と断言するつもりはなくて、むしろますます多様になる働き方や生き方を、極力カテゴリーにまとめずに多様なまま掲載したいと考えました。

7月号のアンケート企画から始まった連続企画「ウィズコロナ/ポストコロナを考える」で、現在は9月号で掲載予定の「オープンエアな店づくり」を作成中です。
将来、2020年の「商店建築」を振り返った時に、この連続企画がどのように映るかが、今から楽しみです。〈平田〉


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