連載／デザインの根っこ vol.01_加藤匡毅
2018年6月号から、2021年1月号までのおよそ2年半に渡って掲載した、連載「デザインの根っこ 」。建築家やインテリアデザイナーに、インタビューを行い、衝撃を受けた本や、音楽、映像、アート作品などのインプットについて語っていただき、創作の原点に迫ります。
そこにあるものから、見たことのないものをつくる
人と、人がつくった作品の両方から影響を受けることが多いです。作者がどんな人で、どういった点に興味を持ってその作品を生み出したのか、という点を意識します。パーソナリティーまで調べるというわけではないのですが、作者について知ることで、作品を見て受けた衝撃を自分なりにひも解いて解釈しようとする、ということです。
写真家アンドレアス・グルスキーの写真集「Photographs」、特に表紙の「ライン川Ⅱ」を見た時は強い衝撃を受けました。出合ったのは20代の中頃で、彼の「空間を見る視点」に惹かれ、手に入れてからはずっと眺めていたのを覚えています。彼の場合、まず初めに「つくりたい絵」があって、対象を撮りながら自分の理想に合わせるように緻密なデジタル加工を施します。最初はそのことを知らず、アナログで制作していると思っていたのですが、後に手法を知った時に、自分の感動がそうやってデザインされたのだな、と腑に落ちました。その点で彼の写真は、「実際にあるもの」ではなく「彼が見ているもの」だとも言えるでしょう。
この写真の構図にあるような、自然を水平垂直に切り取るという行為は非常に恣意的な行為だと思うのです。美しいと思われていないものでさえ美しく見せるような、そこにあるものを使ってこれまでになかったものを生み出す行為は、私達デザイナーの仕事にも共通するのではないでしょうか。
Photographs／アンドレアス・グルスキー
映像から体験を学ぶ
同じことは、映像作家のミシェル・ゴンドリーが撮る映像にも言えます。例えば音楽ユニットであるケミカル・ブラザーズの「Star Guitar」という曲のPV（プロモーションビデオ）。走っている電車の窓から外の風景を眺めているだけの映像なのですが、流れる風景と音がリンクしているのです。建物や電柱が、音に合わせて風景に登場する、音楽の中の楽譜をそのまま映像にしたような作品です。音楽にストーリーを加えるのではなく、音楽そのものの特性、つまり音楽の中にある要素から見たことのない映像をつくり出しているのです。
またマッシブ・アタックというバンドの楽曲「Protection」のPVでは、一つのアパートを舞台に部屋と部屋、屋内と屋外をカメラがワンカットでヌルヌルと移動していく。その一連のシークエンスや、映し出されるそれぞれの部屋のクラフト感に、初めて見た時に衝撃を受けました。私達の世代は、音楽専門チャンネルのMTVなどを通して、音楽を映像と共に楽しんでいた世代です。そのこともあって、彼が撮る、音楽と一体になった映像の数々には強い思い入れがあります。
私達デザイナーと同じように、PVの監督もクライアントワークなので、アーティストの個性を引き出し、オリジナルなものを組み立てるという手法には強く影響を受けています。写真が一枚の絵としての表現だとすると、映像はシークエンスや体験を提供する。その両方から学ぶことは非常に多いですね。
Star Guitar／chemical brothers
Protection／Massive Attack
空間は五感で体験する
空間の中で音というのは「名脇役」だと考えています。例えばオフィスの場合、音が大き過ぎると集中できないし、無音だと緊張してしまう。また用途によらずスピーカーの位置は重要です。設置場所を耳より高くするのか、低くするのか。他に音を出す機械はあるのか、ゆっくり過ごす場所なのかなども踏まえて考えています。建物は人が入ることで完成します。見えるものだけでなく、音や匂いも含めて空間体験だという考えを大事にしています。 〈談／文責編集部〉
かとう・まさき／1973年大阪生まれ。隈研吾建築都市設計事務所などを経て、2012年設計事務所Puddle（パドル）を設立。建築、インテリアのデザインを行う。主な仕事に「アラビカ 京都 嵐山」（15年11月号）、「ANOTHER8」（18年3月号）など。 ポートレート撮影／yOU
紹介作品一覧
1.『Photographs』
アンドレアス・グルスキー（1998）
発売元：Schirmer/Mosel Verlag Gmbh
2.『Star Guitar』
chemical brothers（2002）
監督：ミシェル・ゴンドリー
レーベル：Freestyle Dust
3.『Protection』
Massive Attack（1995）
監督：ミシェル・ゴンドリー
レーベル：Virgin Records Us
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