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連載/デザインの根っこVol.25_山中 コ〜ジ

建築家やインテリアデザイナーにインタビューを行い、衝撃を受けた作品などのインプットについて語っていただく連載「デザインの根っこ 」。今回は「商店建築」2020年6月号掲載、山中コ〜ジさんの回を公開します。

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人と自然の関係から
建築を考える

 幼少期から今までを振り返って、自分のデザインに影響を与えたと感じるのは、自然との関わりです。実家があった京都市左京区は山に囲まれた土地で、幼い頃から弟と川で魚を釣ったり、山に登ったり、スキーを教わったりして過ごしました。それらの関わりを通して、大きな自然の中から、人の居場所を知らず知らずのうちに見つけていったのだと思います。

 僕たちが設計時に大事にしているのは、「家具以上建築未満」という考え。人が人になる以前、まだ自然の中で暮らしていた時を考えると、岩がテーブルやイスで、木の下が家だったはずで、そうした居心地から建築が生まれたのではないでしょうか。空間のヒントは自然にあって、そこで過ごした体験は、今でも空間を考える時に活きています。スケール感で説明すると、僕たちが建築設計をする際、法規や与件のような建築のモジュールではなく、自分たちの感覚として、そこで過ごすために必要なボリュームから空間を考えるのです。感覚を共有するために、弟とは「河原にある岩場に乗った時に、頭の上を枝が覆いかぶさったような」という、自然の中で感じた共通の体験を通して、状況を理解し合っています。それをスタッフともやりとりするために、良い空間を見つけた時はメッセンジャーで共有しています。

.幼い頃に遊んだ木(画像提供/山中コ〜ジ)

人と自然が合意する

 純粋な自然だけではなく、自然の中に現れた人工物にも惹かれます。例えばヨット。船外機がなく、風の力だけで進むための設計は、自然とのマッチングと言えます。飛行機もそうですよね。用途に合わせてサイズを加味しつつ、空を飛ぶために考えられた、自然との合意点が機体の設計に反映されている。身近なところで言えば、山道も人と自然が合意した接点です。では住宅はどうでしょう。住宅地での設計だと、予算や法律に対して行う操作も多いのですが、居住性とは本来数値化できるものではありません。300㎜の通路を横向きに歩いても、その人が心地良ければ問題ないはずです。もっとパーソナルなところで、住人ごとに最良な居住性を実現していくことが重要です。自然と真摯に向き合うと、格好良さを求める行為は恣意的になります。サンマやマグロは、「こうすれば格好良い」と考えてあの形になったのではなく、速く泳ぐことや長く泳ぐこと、それぞれの環境や求めることに適した形です。神様が魚をデザインしたように、僕もそうやって建築をつくりたいと考えています。

高低差を人工的に作った公園(画像提供/山中コ〜ジ)

諸条件を解いた先の洗練

 似た点で感銘を受けたのが、建築家のドミニク・ペローが設計した「フランス国立図書館」です。目の当たりにした時、完成されたアウトプットに圧倒されました。国家的プロジェクトで色々な人が関わる中、複雑な諸条件を非常にうまくまとめています。平面では、内部と庭が明確に分かれていますが、中を歩くと常に庭との一体性を感じ、その豊かな体験からはあったはずの諸条件を感じません。それは、諸条件に囲まれた中で最適な形を導いたヨットや魚と共通するのではないでしょうか。

 新型コロナウイルス禍で都市から人が減り、環境汚染が改善したと聞いて、自然について改めて考えるべきだと感じました。人の営みと自然が近づきすぎて、自然を尊ぶ気持ちが薄れていたのかもしれません。この機会にもう一度自然に思いを巡らせることで、建築を考えていきたいです。    〈談/文責編集部〉


やまなか・こ〜じ/1979年京都生まれ。京都精華大学卒業後の2004年GENETOを設立。設計部であるGENETOと、制作部pivotoからなり、建築やインテリア、プロダクト、アートなど幅広い分野を手掛ける。最近の仕事に「TOUR」(19年4月号)や「JURAKU RO」(18年12月号)など。(撮影/近藤泰岳)
※内容は商店建築2020年6月号発売当時のものです。

紹介作品一覧

1.幼い頃に遊んだ木
(画像提供/山中コ〜ジ)
2.高低差を人工的に作った公園
(画像提供/山中コ〜ジ)
3.フランス国立図書館

掲載号の「商店建築」2020年6月号はこちらから!

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