住友商事での社内起業を諦めて独立起業するというお話
2015年の新卒入社から8年間、ずっとお世話になってきた住友商事を退職し、全く未経験の人材分野で起業することにしましたので、背景やこれからのビジョンなどを自身の棚卸しも兼ねて書いていきたいと思います。
最近、不思議とキャリア相談を受けることが多いのですが、日本の伝統的な大企業(以下、JTC)若手の皆さんは「将来何がしたいんだろう?」「自分に何ができるんだろう?」と言う漠然とした不安を抱えている方も多いみたいです。
かくいう僕も、「総合商社社員」と言うある意味「The ジェネラリスト」だったので、「独立しても大丈夫だろうか?」と言う不安がなかったかと言うと嘘になります。というよりめちゃくちゃ不安でした。
ただ、なんだかんだご縁にも恵まれ、独立後も楽しくやれておりますので、「特に尖ったスキルがある訳ではなくとも、JTCを辞めて独立したら、こんな道もあるんだな」と言う1つのキャリアケースとして、特に今JTCお勤めの皆さんの将来を考える材料の1つにでもしてもらえたらなと思います。
1.そもそも住友商事で何をしてた?
僕の住友商事でのキャリアをざっと書くと以下のとおりです。思い返すと、散々やりたいことをやらせてもらった最高の商社生活だったなと思います。
3年間:バイオマス燃料のトレーディング・事業投資
2年間:ブラジルで語学研修
3年間:社内起業
ざっくり3年はトレーディングや事業投資など、The 商社、という仕事を担当し、その後、ブラジルに駐在、帰ってきてから社内起業・異動という、会社員として考え得る進路をギュッと全て詰め込んだようなキャリアでした。
それぞれの詳細を少し掘り下げてみようと思います。
(実際は各項目ごとに細かく書くと1記事になっちゃいそうなボリュームなので、この記事では少し省略しています。)
(1)バイオマス燃料業務
元々、「ビジネスの基礎を学びたい」と言うことでトレーディングの部署を希望していたのですが、念願叶い、出来立てホヤホヤだったバイオマス燃料の部署に配属されました。
そこからはひたすら木質ペレット(※)トレーディングを担当。既存契約の舟繰り・在庫繰りをしながら、新規契約の営業の日々。商社では珍しく0→1に近いビジネスで、今でこそ、住友商事は国内トップシェアとなっており、日本のバイオマス燃料の約3分の1(2022年度)を取り扱うに至っていますが、当時は本当に黎明期だったので、とにかくがむしゃらに色々やっていました。思えば、その頃から0→1には縁があったのかもしれません。
カナダやらオーストラリアやらに出張して現場を見たり、海外ファンドと交渉したりなどなど、本当に入社前から思い描いていた商社マン生活をさせていただき、辛いながらも充実した日々でした。
(※)製材を作る際に出るおが粉などを圧縮しペレットにしたもの。現在の発電用バイオマス燃料の主流
2年目にして、某大手電力会社向けの大型トレーディングを任せていただき、その事業が日経新聞にも載ったものの、結局力及ばず最終的に謎の肝炎で入院してしまったのは今となっては良い思い出です。
(2)ブラジル語学研修
その後、肝炎も完治し、ありがたいことにブラジルでの語学研修のチャンスをいただきました。
初めの1年はブラジルの地方都市であるベロオリゾンチでブラジル人の家にホームステイ。お給料を貰いながら、語学の勉強をしていました。その後はサンパウロのブラジル住友商事でトレーニーです。
トレーニー時代は、当時の上司の計らいもあり、ブラジル最南端の港に張り付いて徹夜で荷役対応をしたり、アマゾン川のほとりの植林地に行ったり、農家にファームステイしたりと、ひたすら現場に張り付いていました。
ポルトガル語を学び、現地に入り込むという「現場の大切さ」を知ることができた経験でした。
ちなみに、ここで担当していた案件の1つである、「サトウキビの残渣をバイオマス燃料にする」という事業投資に関わった経験が、後の社内起業につながることになります。
(3)社内起業
元々、「人生を賭けて何をしたら良いんだろう?」ということはずっと考えていたのですが、ブラジル駐在のタイミングで「自分のやりたいことは世界の常識を変えるビジネスを作ることだ」と腹落ちするタイミングがありました。
(この経緯・背景は気が向けば、記事にしたいと思います)
そこから、色々な選択肢を考えましたが、丁度、社内起業の制度があったこともあり、「折角なら総合商社というレバレッジを効かせてトライした方が効率的」と思い、応募することにしました。
事業内容は、ブラジルで担当していたサトウキビの搾かすをバイオマス燃料にするというビジネスから着想を得て、海外の効率的な農業システムを日本に輸入するというコンセプトの「農業物流効率化のアプリケーション」にしました。
そこからは割とトントン拍子で選考が進み、ありがたいことに事業化アイディアとして選んでいただくことができました。今の共同創業者とも、そこからずっと一緒に事業をしています。
その上で、2020年の4月から、農業物流をAIで効率化するアプリである「CLOW」と、「野菜を効率的に運ぶことができる」という強みを活かして、都心に無人直売場を展開する「セルフなマルシェ」を創業し、ありがたいことに様々なメディアに取り上げていただくことができました。初めは色々苦労しましたが、最後の方では、ようやくユニットエコノミクスが成立し、20代最後の年にガイアの夜明けにも取り上げていただき、いよいよこれから・・・というところで、社内起業の制度上の問題もあり、最終的にはクローズすることになってしまいました(詳細は後述します)。
この状況を踏まえ、改めて共同創業者とも話し合い、「既存のシステムでは、0→1で大きなビジネスを作るという夢を叶えるのは難しい」と判断、外に飛び出すことにして今に至ります。
2.社内起業ってどうだった?
結論、非常に良い経験にはなったのですが、本気で0→1をやりたいなら、正直、あまりオススメしないです(ただ、制度次第です)。
当時、僕が所属していた住友商事の例でお話すると、同社の社内起業制度は「0→1 challnege」というのですが、割と致命的な制度上の問題がありました。
それは、「事業化に当たっては、特定の部署に引き取ってもらわなければならない」というものでした。
もう少し詳しく言うと、ピッチコンテストなどで通過し、一定のPOC期間を経た後は、「住友商事から出資を受けて独立会社となる」や「新規事業用の独立採算の下で行う」のではなく、「事業アイディアと親和性のある部署の1プロジェクトとして同部の予算内で取り進める」ということになります。
それだけ聞いても「それの何が問題なの?」という感じだと思いますが、実はこれが、割とヤバい問題を孕んでいました。特に以下の2つが致命的でした。
決裁者が特定の本部・部・チームのリーダーのみになること。
部署の管轄を超えてのピボットが不可能になること。
まず、1点目について、企業において「特定組織の1プロジェクトになる」ということは、「引取先の本部長・部長・チームリーダーのうち、ライン上の1人でもNoと言ったら即死」と言う状況になるということです。
つまり、仮に人事異動で、決裁者ポジションのうち、1人でもネガティブな人に変わると、その瞬間にほぼ案件の死が決まります。予算ラインの決裁者は原則1名なので代替が効かず、ベンチャーのように「A社がダメだったから、B社に投資をお願いしよう・・・」と言うことはできない訳です。
正直、決裁者側の立場になっても、異動先に「コンサルなどのレポートに則った、ある程度方向性が見えている10→100案件ではなく、自分が引き取った訳でもない、成功確率もよく分からない0→1の案件」があれば、ただのPLを食い荒らすリスクでしかないので、余程の物好きではない限りネガティブになります。
そのため、事業が軌道に載るまでは、「引き取ってくれた理解ある上席が、軌道に乗るまで異動しない」もしくは、「0→1事業への理解があり、任期中のPLネガティブヒットも受け入れてくれるような人が上に異動してくる」という相当分の悪い人事ガチャを生き抜いていく必要があります。
2点目のピボットについては、縦割り組織の弊害が関係してきます。例えば、「物流の部署」に引き取られたとすると、「物を運んでお金をもらう」と言う「その部署のマネタイズ方針に沿った事業以外が不可能になる」と言うことを意味します。
要は、「物流の部署なんだから、物を運んでお金をもらうことを生業にするものでしょ。早く安く運べるからといって、その物流機能を使って新鮮な野菜を安く売るのは小売業なんだから、ウチの部署としてそこにピボットすることは認められないよ」と言うことが起きる訳です。
0→1フェーズは仮説なんて外れるのが当たり前、如何にスピーディに失敗を重ねるかの勝負な訳ですが、その軌道修正方向に大きな制約がかかることになります。
他にも色々あるのですが、上記のような制度上の課題が複数あり、我々の案件もそこの穴に落ちてしまいクローズとなったことで、中々に社内起業での成功は厳しいと判断せざるを得ませんでした。
ただし、付け加えておくと、事業を形にできなかったのは、最後は我々の実力ですし、挑戦するチャンスを与えてくれた住友商事には本当に感謝しています。社内でも、部署の方針とは異なる案件を進めている例外ケースも少ないながらもありますので、本案件をそうできなかったのは、最後は我々が決裁者を巻き込んで、政治を上手く回すことが出来なかったからだと思っています。
3.会社員から独立のキャリアってどんなもの?
とはいえ、社内政治による寝技前提の0→1組成はあまりにも運要素が大きいことから、結局、社内起業は難しいという判断に至り、独立することにしました。
ただ、独立するとなると、一番気になるのは「何をして食っていくか?」ということです。
転職であれば、「面接→新しい会社で働く」という、言わば就活をもう一度する位の感覚で、これまでの人生の延長線上としてイメージしやすいのですが、独立となると、生き方自体が全く変わるので、「そもそも仕事ってどうやって獲得するの?」「自分のスキルってお金もらえるレベルなの?」「税金とかどうなるの?」など、全てが未知数でした。
正直、この辺りに魔法の杖はなく、最後は自分で調べるしかなかったんですが、僕の場合は、ありがたいことにご縁に恵まれ、営業・マーケ・採用・コーポなど広範業務をお手伝いするポジションでお仕事をいただけましたので、現在は複数の会社さんでそちらをお手伝いさせていただきつつ、自身の会社を運営するという両輪でやっております。
最終的には、飛び出してみると意外となんとかなりましたし、仕事の獲得についても、一定の再現性は担保できそうなので、結論は、「JTC出身のジェネラリストでも全然食っていくことはできる」というものになります。
ただし、「どのように仕事を獲得するか」や「どのような仕事に就くか」は、割と社歴やこれまでの経験による部分も大きいため、唯一解はなく、人によるかなという印象です。
(その辺は転職と一緒ですね)
僕もそうでしたが、日本の伝統的な企業で会社員をやっていると、なかなか「その時のスキルで、独立して食っていく」というイメージが湧きづらいのが実態です。
大企業同士の契約交渉であったり、人によっては、社内調整や内向きの仕事がメインだった人も多いので、「社内調整マンです!」として売り出す訳にも行かず、途方に暮れてしまうと思います。
そういった人の場合、いきなり独立するイメージが湧かないと思いますので、先ずは自分ができることを書き出してみて、副業マッチングのサイトにひたすら登録してみると良いと思います。
思いの外、自身で会社を経営して雇う側に立ってみると、「当たり前のことを当たり前にできる」「ちゃんと話が通じる」という人材の重要性が身に沁みます(特にベンチャーでは)。
JTC出身者は、この辺りの基本動作は割としっかりと仕込まれている可能性が高いと思うので、多少ハードスキルが微妙でも、高速作業者として雇いたいという需要は比較的あるのではないかと思います。
もし、ご縁あってこの記事を読んでくださっている方で、「自分のキャリアの方向性が分からない・・・」ということがあれば、いつでも壁打ち・相談に乗りますのでDMをいただければと思います。
ちなみに、上記は全て「フリーランスとして独立して食っていく」という話ですので、自身で事業を立ち上げる「起業」はまた別のやり方になります。
丁度、共同創業者の転職も横から見て手伝っていたため、異動・駐在・社内起業・フリーランス・起業・転職、と、会社員が取れる選択肢は大方網羅していますので、「JTCからの動き方」については割と色々アドバイスできると思います。
4.これからやりたいこと
話題が少し戻ってしまいますが、僕の人生の夢は「世界の常識を変えるビジネスを作ること」です。
当初の計画は「住友商事という大組織の力でレバレッジを効かせてでっかいビジネスを作る」というものでしたが、上記の通り難しそうなのでその方針は撤回し、人生フルピボットすることにしました。
その結果、今は「2段ロケット戦略」と勝手に称している方法で対応しようとしています。
改めて、どのように「世界の常識を変えるビジネスを作るか?」と考えた時に、住友商事での失敗経験を踏まえ、以下2点をしっかりと担保できるような戦略を練る必要があると感じました。
何度も打席に立つことができる。
ビジネスの方向性を創業者が決めることができる。
1については、社内起業で失敗した上で、敗因分析したり、色々な方のお話を聞いたり、書籍を読んだりと自分なりに考えた結果、結局、ホームラン級のビジネスを作るには、「運」が必要不可欠な要素だと結論付けました。ホームラン級のビジネスはどうしても前人未到のチャレンジが必要であるがゆえに変数が膨大すぎ、「事前に何が当たるかを読み切ることは人間には不可能という」だと感じました。
一部の天才はもしかするとできるのかもしれませんが、少なくとも自分にはそんな変数だらけの状況を100%読み切って当てるような先見の明はないと思うので、その中でできることは、ひたすら正しい方向の試行回数を稼いで当たるのを待つしかないという結論に至りました。
2については、結局、創業者がトップに立ち、会社の方向性を決めることができなければ、ホームラン級のビジネスを作り出す難易度は相当に上がると思いました。シェアを51%以上を握られた状態では、いくら創業者が泣こうが喚こうが、資本主義の社会においては、大株主がNoと言えばそれで終わりだからです。
創業者以上にビジョンを理解し、高い解像度を元に事業を推進できる株主はいない(運良く見つかってもMax創業者と同レベル)ので、原則、創業者が夢を信じて、最も純度高く時間を使い突き進める状況を作る必要があると感じました。
これらを踏まえて行き着いたやり方が「2段ロケット戦略」です。
(一応ですが、これは僕が勝手にこう呼んでいるだけで、同じ方法を思いついて実践している人は、過去に数えきれないほど沢山いらっしゃると思います)
先ずは、業務委託や副業可能な転職で自身の経験も積みながらしっかりとお金も稼ぎつつ、自己資本でしっかりと儲けることができるスモールビジネスを創出します。これが一段目のロケットです。
1段目のロケットが粗利数千万〜数億に到達した時点で、そのビジネスをキャッシュカウとし、そこから資金を継続的にホームラン級のビジネスに投資をし続けます。
これが2段目のロケットです。
このスキームであれば、自身の生活リスクを最小化しつつ、前述の条件を双方満たし、株式会社という資本主義の仕組みのレバレッジを最大限活かして、夢を追うことができます。
その反面、大きく資金調達をしてフルコミットし、資金が尽きるまでに当てる or 死ぬのフルスイング勝負をして、当てた起業家と比べるとスピード感には劣りますが、最終的な期待値で言えば、僕としては、上記戦略の方が高いと考えたものです。
当然、ホームラン級事業の種がPMFし、キャッシュを入れれば拡大すると言う算段が付けば、大型調達も検討していくと思いますが、はじめはなるべくスモールで進めるという方針です。
ちなみに、上記の方向性を踏み出すに当たってはエンジェル投資家の宮本さんのツイートに背中を押していただきました。いつもツイートから勉強させていただいています。
また、じゃあどうやってキャッシュカウ作るねん?という部分については、こちらは僕もまだ道途上ながら、武田所長著の「スモールビジネスの教科書」はバイブルとして活用させていただいています。
何事も盲信は良くないですが、同書はロジックや記載内容がビジネス書の中でトップレベルに腹落ちしたので従ってみたのですが、お陰様で自身の事業の方も初月から粗利黒字でスタートを切れました。本当に感謝です。
(その反面、競合が増えるので、できればあまり広まって欲しくもない複雑な本・・・・)
今後は、先ずはしっかりと1段目ロケットを着実に打ち上げるべく情熱を持って粛々とやっていきたいと思います。
5.最後に
長文にお付き合いいただきありがとうございました。
もし、ご自身のキャリアに悩んでいたり、「こんな形で協業できそう」というようなお話があれば、(まだひよっ子会社で恐縮ですが・・・)是非、DMなどいただければと思います。色々なご縁につながれば嬉しいです。
以下のような方含めて大歓迎です。
JTCに勤めていて独立を考えているものの、どうすれば良いか分からない人
ビジネスを立ち上げており情報交換したい人
大きな夢を追いかけている人
ぜひ、このnoteが皆様のキャリア形成や事業戦略の一助にでもなれば幸いです。
それではこの辺で失礼します。ありがとうございました。