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ものづくりベンチャーがハマる、電池の落とし穴 Vol.1

『ものづくりベンチャーがハマる電池の落とし穴 』では、
特に「電池」に関連する課題にフォーカスして、記事をお届けしたいと思います。

現在、電池メーカーは国内だけでなく海外も増え、
様々な種類の電池が存在するようになっています。

また、IoTデバイスも増え、電池の使用用途も多岐にわたる中、
電池の選定や搭載方法も複雑になっています。

Vol.1では、電池をデバイス等に搭載するにあたって、
押さえておくべき知識をまとめていきます。

そこで今回は、様々な電池に関する相談案件を受け付けている「電池の窓口」を運営するSKテック社の佐野さん、藤井さんにお話を聞いてきました。

SKテック社は、2018年に「電池の窓口」というwebサービスを立ち上げ、大手企業からベンチャー企業までの電池に関わる様々なサポートを行っている企業です。

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今回取材させていただいた内容を、
会話形式でまとめました。ぜひご覧ください!

電池は電気工学と電気化学の両方の知識が重要

中島:今日は、よろしくお願いします!まずはじめに、電池の窓口に訪れている人は、どんな人が多いのでしょうか?

佐野:大手企業からベンチャー企業まで様々です。また、電池自体があらゆる業種で使用されるようになっているので、従来の電気産業だけでなく幅広い分野から訪問者がいますね。

中島:なるほど。電池については、みんな困っている分野になるのですね。
ちなみに、大手企業になると、社内に専門家がいて、解決されるケースも多いのではないかと思ったのですが、そうでもないのでしょうか。

佐野:電気系に詳しい人は多いと思います。しかし、電池は化学の知識も必要になります。両方の知識を融合して理解している人は大企業の中でも少ないのが現状ですね。

中島:そうなんですね。電池の種類や用途が増えて複雑化する中で、電気工学と電気化学の複合的な知識が重要になってくるのですね。

電池の窓口は「無料相談」がコンセプト

中島:訪問者からは、どのような質問が寄せられるのですか?

藤井:色々な相談をいただきますが、代表的な質問は以下のようになります。

・電池の種類が多く何をどう選んだら良いかわからない。
・電池メーカーから直接購入するルートが無く、どこに問い合わせしたらよいかわからない。
・ネットで二次電池サンプルを購入し試作開発を進めたが、量産化するにはどうしたらよいかわからない。
・電池の要求仕様書はあるが、サポートしてくれる会社が見つからない。
・国内海外問わず、いろんな種類の電池を取り扱っている会社に相談したいが専門の会社を探せない。
など

中島:ありがとうございます。電池の選定や量産に関してなど、質問の方向性は幅広いですね。こうした問い合わせが来た後は、どのようなステップで対応をされていくのですか?

藤井:電池の選定に関しては、専用のチェックシートを用いて、使用する機器の情報や電池の必要電圧、容量、環境温度、通信の有無などを聞いていきます。

ただ、多くの場合、チェックシートにたどり着くまでに時間を要することが多いです。

中島:そうなんですね!

藤井:そのため、電池の窓口は電池の選定などの案件を進めていく前の段階を丁寧にサポートする「無料相談」をコンセプトにしています。

クライアントの困りごとについて、まずはヒアリングをさせていただいて、どういう製品に電池を使用しようと考えられているのかを聞いていきます。

その時の内容次第で、すぐにチェックシートに進むか、もうすこし詳しく製品のコンセプト聞いて、電池の仕様を一緒に考えていきます。

ものづくりベンチャーが陥りやすい問題あるある

中島:たくさんの相談案件を手掛けられていると思いますが、その中でもものづくりベンチャーが陥りやすい問題はありますか?

藤井:リチウムイオン組電池でいくつか例をあげると、以下のような問題が共通として挙げられるかと思います。

①部品選定時に、電池の選定を後回しにしてしまう
②電池を通常の条件のみでしか評価検証テストをしていない
③製品の放電終止電圧を、電池の放電終止電圧と同じにしてしまう

中島:はじめに「①部品選定時に、電池の選定を後回しにしてしまう」について教えて下さい。

藤井:多くの方が、部品選定時に電池は最後に調整することで何とかなるだろうと思って、後回しにされるケースが多いです。結論から言うと、電池選定も設計初期段階で決めることをお勧めします。

中島:それはなぜですか?

藤井:最後に残ったスペースで電池の選定を考えると、想定したスペックの電池が存在しない場合もあります。そのため、製品全体の構想、設計を考える段階から、電池の選定も考えておいたほうがよいと考えます。

中島:ありがとうございます。市販の乾電池のように、「最後に製品に取り付けるだけ」というわけではないのですね。

次に、「②電池を通常の条件のみでしか評価検証テストをしていない」について教えて下さい。

藤井:ここは一番確認しないといけないポイントかもしれません。

通常の条件での評価検証はできていても、過酷な条件における評価検証ができていないケースが多いです。

電圧、電流量の電気的負荷条件だけでなく、使用環境など過酷な条件でも評価検証をするようにお願いしています。

中島:最後に、「③製品の放電終止電圧を、電池の放電終止電圧と同じにしてしまう」について、教えて下さい。

藤井:リチウムイオン電池はあらかじめ定められた電圧を下回って放電をし続けてしまう(過放電)と、電池が劣化してしまったり、電池容量が低下するなどの問題が発生します。

そのため、リチウムイオン電池には放電終止電圧が決められていて、その電圧に達すると放電を停止するように安全装置(保護装置)が組み込まれています。
あくまでも、安全装置なので、緊急時以外に作動をさせるものではありません。
よって、電気製品と電池を安全に長く使用する為には、
「製品の放電終止電圧>電池の放電終止電圧」の設計が必須となります。

リチウムポリマーパック2

↑リチウムポリマー電池パック(単セルパック)。黄色セロファンテープ下に保護回路基板があります。

中島:なるほど!リチウムイオン電池の安全装置に頼って設計をしてはいけないのですね。このことは、webにも中々のっていない情報です。

ものづくりベンチャーが知っておくべき規格に関する知識

佐野:電気用品安全法(PSE、以下PSEとする)とは、毎日の生活で使っている照明、テレビ、エアコン、もはや生活必需品となったスマートフォンを含め、電気を動力として動いているものは「電気用品」として区別され、経済産業省が管理しているPSEという法律によって厳しく規制されています。今回はこのPSEの中のバッテリーについて、少し説明させていただきます。

基本バッテリー及び、バッテリーパックはリチウムイオン蓄電池を除き、輸入・販売に関して特別な法規制はありませんのでPSEは対象外ですが、リチウムイオンだけは、安全性の観点から対象となります。その中でも、対象(体積エネルギー密度400Wh/L以上のもの)、非対象のものがあります。詳細はPSE関係法令集にてご確認願います。PSEの取得が義務づけられた対象製品において、PSEマークがないものについては、製造、輸入、販売ができず、メーカー、販売店ともに処罰の対象となります。具体的にどのような製品で取る必要性があるのかについては、経産省に直接確認することをお勧めします。

中島:今回の取材を通じて、ものづくりベンチャーが知っておくべき前提知識が多く存在することが分かりました。これから何か製品開発を考えられている方は、ぜひ一度SKテック社の電池の窓口に問い合わせをしてみていただくことをお勧めします。


では、また次号をお楽しみに!


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