新建築住宅特集掲載文章「新しい地域性を目指して」への加筆

新建築住宅特集2020年1月号112ページに掲載していただいた、弊事務所設計監理の「金沢の家」の私の文章ですが、自分で見直して、「新しい地域性を目指して」と題したこの文において、「起こった結果に対し施主の強い要望が種として作用している点」と「まとめの一文」が不足していると感じたため加筆文をアップします。(新建築社さま許可済み)

(加筆部:太字)

新しい地域性を目指して

敷地は北陸地方、金沢市の住宅地。敷地前面の長手いっぱいに掛けた急勾配の大屋根と、背面の低い屋根との狭間で、光や風、自然環境音に触れて生活する住宅を目指した。北陸は年中湿度が高く雨の降る日が多い。夏はフェーン現象により高温多湿で、冬は北西からの季節風により雪の降る日が多くなる。北陸の伝統的建築に見られる、自然環境を活かした建築的仕組みや立ち姿を踏襲しつつも、建主の暮らしぶりや諸条件と向き合い、プランや光環境、音環境を丁寧に設計していくことで「新しい地域性」を持つ建築の姿を探った。まずプランでは、人との付き合いの幅がとても広く、また子供を含む大人数の親戚の集まりを重要と考える建主の暮らしぶりもあり、天候に関わらず外来者とコミュニケーションがとれ、夏は避暑の場となる大きな土間を、道路に面して設けた。こうした屋内土間は、北陸の伝統的建築でも多く見られるが、ここでは高さの違うふたつの屋根を架け、その間から土間上部の大屋根裏に太陽光を取り込んだ。それを低い屋根下の生活空間から眺める構成とし、悪天候の日や寒い冬でも開放的な生活が可能な屋内庭として捉え直した。春・秋・冬は、部屋ごとに違う高さや方角にある開口から入る光が、木漏れ日のような光と影を床に落とし、夏は鋭角に入る光が暗い土間にシャープな輪郭を描く。特に冬の朝には南東からの光が大屋根の裏面を最も明るく照らしだし、ダイナミックな光景が広がる。日本海と山の間に挟まれた金沢では、海風により昼過ぎから曇ることも多く、貴重な朝の直射光を最大限に活用した。曇天も多いため、屋内の照度計画は直射光に頼らず、天空光や反射光を中心に計画している。北陸の伝統的な住宅における中間領域としての土間は、大きな建具で内外が仕切られている。雷雨や強風で天候が大荒れになった時には音が土間で拡散され、視覚的な距離より遠くから聞こえるため、雨風をしのぎつつ動きのある美しい景色として楽しむ風景は、北陸らしいと感じる。屋内でありながら屋外的な雰囲気を持ち、かつ土間の気積を大きく取ったこの住宅では、それがより強調されるだろう。土間は夏は暗く涼しく、冬は明るく温かい住環境を保ちつつ、季節や時間ごとに異なる表情の光が射し込む。温度差や気圧差で季節ごとに違う快適な風が流れたり、気積の大きい空間に多様な自然環境音が響く豊かな場所で、華道を楽しんだり、ソファーを置いて屋外的な雰囲気でくつろいだり、内外を一体的に使用し大勢でバーベキューを楽しんだりと、建主の生活に合わせた現代的な機能が展開されると考えている。自身が一人の時でも「帰りたくなる家」という建主の要望に対し、季節や時間毎の魅力的な記憶が積み重り、時の移ろいと共に場所の魅力が深まる、そんな家になれば良いと考えた。このように幾つもの要因が絡み合い立ち上ったこの建築の姿から、「新しい地域性」の手がかりが見つかれば良いと思う。(中西昭太)


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