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トマトは野菜か?果物か?

 私たち本人は、「トマトは野菜か、それとも果物か」と訊かれたら、ほとんどの人は「野菜」と答えるであろう。しかし、フランス人や台湾人に同じ質問をすれば、「トマトはフルーツ」と答えるそうである。

 実は、野菜と果物の分類については、はっきりした定義はなく、農林水産省のホームページでも、「あるものを野菜に分類するか果物(果実)に分類するかは、国によっても違っており、我が国でも生産・流通・消費などの分野で分類の仕方が異なっているものもある」と説明している。

 農林水産省は、「生産分野では、一般的に①田畑に栽培されること、②副食物であること、③加工を前提としないこと、④草本性であること、という特性を持つ植物が野菜」であると、「生産分野」に限っての説明をしている。この基準に従えば、本来は多年草であるものの、我が国の冬の寒さに耐えることができないため一年草扱いされているトマトは、野菜ということになる。農林水産省は、野菜生産出荷安定法施行令によって、トマトを含む14品目を「消費量が多く国民生活にとって重要な野菜」と定めている。ため、公式にはトマトは野菜なのである。一方で、果実の定義について農林水産省は「概ね2年以上栽培する草本植物及び木本植物であって、果実を食用とするものを『果樹』として取り扱っている」として、この定義のもとでは「メロンやイチゴ、スイカなどは野菜として取り扱われる」と明記しており、一般的な感覚とは異なる分類を設けていると述べている。そうであれば、フランスや台湾のように、トマトを果物としている国があっても不思議はない。

 アメリカ合衆国農務省の分類では、トマトは野菜である。この分類は1883年に制定された「輸入野菜に対する課税法」を巡って争われた裁判が原因だ。1883年の「輸入野菜に対する課税法」では、輸入野菜には10%の税が課された一方で、果物に課された税金はゼロだった。これに目を付けたニューヨークで最大の農産物輸入業者だったジョンニックス&フルーツコミッションは「トマトは果物」と主張し、「トマトは野菜という分類によって不当に奪われた関税の返還を求める」と、ニューヨークの徴収官だったエドワード・ヘイデン氏を訴えた。

 この裁判は最高裁まで争われたが、時のホレス・グレイ司法長官は「辞書によると、『果物』とは『植物の種子』、ないしは『種子を中に含む植物の部位』、ないしは『水を多く含み、柔らかく、種を覆う植物の部位』と定められている。しかし、一般的な文脈や関税法の趣旨においては、トマトは野菜である」と裁定し、「トマトは野菜」と明確に定められた。

 「トマトは野菜」という分類から、2011年には「ピザは野菜」という分類も生まれている。当時のオバマ政権は学校給食に対して助成金を投じたが、同時に「一定量の野菜を含めること」という規定を設けた。この規定によって「一定量の野菜」の定義について議論が紛糾する。この年、アメリカ議会において学校給食に関する連邦予算支出法案が可決されたのだが、この法律により、なんと冷凍ピザが「トマトペーストを含んでいる」という理由で学校給食で推奨すべきものとされたのである。そもそも法案提出のきっかけは「アメリカの子どもは太っている。給食にもジャンクフードが進出している。だから、給食にてこ入れをし、ジャンクフードを追い出そう」ということになった。しかし、ジャンクフード業界をバックにしている議員が黙ってはいなかった。「ピザはトマトペーストが使われているからヘルシーだ」と大反対したのである。結局、この反対意見が通り、ピザを給食の推奨対象とする法律が成立したというわけである。

 しかし、子どもの肥満を防止するため、ジャンクフードを減らし、もっと野菜や果物を摂取するよう給食にしようとした当初の目的からすると、この結論には首を傾げざるを得ない。アメリカの子どもが給食でジャンクフード(ピザ)を食べ続ける状況に変わりないからである。問題は「野菜や果物に由来する材料が使用されていれば OK」という考えである。この考えを改めない限り、仮に1893年の裁判が「トマトは果物である」という判決であったとしても、「ピザに使われているトマトペーストは果物であり、ヘルシーだから」ということになり、給食からジャンクフードが消えることはなさそうである。そして2011年1月にアメリカ議会を通過した改正歳出予算案は、「トマトソースを大さじ2杯含んだ料理は野菜として良い」としたため、トマトソースがかかったピザは野菜として分類できるようになったという。

 アメリカらしい話だが、たとえ親アメリカの日本であろうとも、わが国では子ども一人ひとりの健康を保障すべく、ジャンクフードではないトマトそのものを子どもたちに提供していただきたい。

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