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幼児の学ぶ権利をいかに担保すべきか

 アメリカのノーベル賞経済学者ヘックマン氏が、所得の低い家庭から幼児を選び、無償で教育を施すという研究を行ったところ、40歳時点で他と比べると学歴や収入が高く、生活保護を受ける割合が低かったという。ヘックマン氏によると、幼児期にこうした教育的介入をした人たちの追跡調査を続けて分かったことは、幼少期にきちんと教育的な介入を受けていれば、30代になった時のIQが平均してより高くなり、その後も高いままであり続ける、さらに重要なのは、影響がIQだけではなく、学校の出席率や大学進学率が高く、スキルの必要な仕事に就いている比率も高く、その一方、10代で親になっている比率が低く、犯罪行為に手を染める比率も減ったという。
ヘックマン氏は次のように主張する。「幼児期の適切な教育は、潜在能力の基盤を広げる。誰もが万能だとは決して言わないが、常人とは違う形で音楽を理解したモーツアルトのような大変な能力を秘めた人もいる。幼児にはこうした「可能性の富」がある。その人が望み、実現し得る最高の機会を社会がきちんと与えることができないだろうか、公的な幼児教育で「生まれ育ち」の不平等を解消できないだろうか。それが私の追求している問いなのだ。」と。

 児童養護施設の子どもたちの自立支援に尽力されているNPO法人ブリッジフォースマイルの林恵子代表も、幼児教育の大切さを次のように語った。「子どもの意欲や基礎的な能力、学力が培われるのは幼少期なので、できるだけ機会の不平等がなく、人生の早い時期からすべての子どもの学びを支える発想が大事。保護者がいない子や貧困家庭の子は、勉強や小さな成功体験の積み重ねができるような習い事の機会が限られ、不利。大学進学のための奨学金制度という枠組みに加えて、就学前や小学校などの早い時期に、児童養護施設などで暮らす子どもに、知的好奇心をくすぐる遊び道具や自然体験の機会を提供する取り組みが必要。」
 その育ちが故に基本的信頼感の獲得がうまくいかず、自己肯定感の低くなりがちな児童養護施設の子どもたちは、内面の成長を助ける経験がごっそりと抜け落ちた状態にある。幼少期の子どもたちに創造的な体験、ものごとをじっくりと考える時間、失敗してもやり直せるチャンスを与えてあげたい。
 

 日本財団が、生活保護世帯、児童養施設、ひとり親家庭の子どもを対象として、「子どもの貧困」を放置した場合の社会的損失について推計した。貧困世帯の子どもの置かれている状況が改善された場合に比べて、現状のまま放置された場合、財政収入は16兆円も少なくなる。児童養護施設の子どもたちにも、ひとり親家庭の子どもたちにも、大人社会全体の総意として、幼少期から等しく学ぶ権利が保障されること…これは決して「かわいそうな子ども」を助けるという視点でなく、国や世界の将来を担う「未来への投資」となる。子どもの貧困は、決して自己責任でも、ましてや他人事でもなく、社会を構成するすべての人に連環する「自分ごと」という視点が必要なのではないだろうか。

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