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都市鉱山大国:日本 ~金の埋蔵量は世界一~

 携帯電話は1946年、アメリカで誕生した。最初は自動車電話の形で、オペレータを呼び出してダイヤルしてもらい、スイッチを押しながら通話するものだった。日本では1979年に自動車電話が登場した。この時の諸費用は、補償金20万円、基本使用料月額3万円、通話料が6.5秒で10円…現在と比較するとあまりにも高額だ。日本で初めて自動車から離れても通話できるタイプの移動電話「ショルダーフォン」が発売されたのは1985年のことだ。縦19㎝、横22㎝、幅5.5㎝、重さ3㎏と携帯するには一苦労する肩掛け式の機種だった。価格は自動車電話と同様で非常に高額であり、もちろんインターネットなどは使用できない、ただの持ち運びできる電話機でしかなかった。

 2000年に携帯電話の利用者数が固定電話のそれ(6,000万人)を上回り、2011年には日本の人口(1億2千万人)を上回った。2023年のデータでは、世界の携帯電話サービス累計契約数は84億を超え、世界人口の80億人をはるかに超えている。
 日本では年間3千万台以上の携帯電話が出荷される。一人が1台以上の携帯電話を所持している状況の中、新しい携帯電話が出荷されているということは、毎年ほぼ同じ数(=3千万台以上)の携帯電話が廃棄されているということになる。

 携帯電話やパソコンなどの使用済み小型家電は、金・銀・銅などの貴金属やレアメタル(希少金属)が含まれていることから、都市にある鉱山という意味で「都市鉱山」と呼ばれる。日本では1年間に約65万tの小型家電が廃棄されているが、その中には844億円分もの貴重な金属が含まれていると言われている。都市鉱山はリサイクルによって回収されるため、森林の伐採や地下水脈の汚染を引き起こす可能性のある鉱山の採掘と違って、環境へ与える影響が少ない。また金属の含有率が非常に高いことが特長で、自然の金山から採られる金鉱石には1tあたり約5gの金が含まれているが、回収された携帯電話1t(約1万台)から回収できる金は約280gにもおよぶ。

 日本は資源のない国として知られるが、都市鉱山に関しては有数の資源国と言える。例えば金は6,800tが都市鉱山として国内に埋蔵されており、これは世界の埋蔵量4万2,000tのうち16%に匹敵する。銀も6万tで、世界の埋蔵量の23%を占める。
 他にもインジウム16%、スズ11%、タンタル10%と、世界埋蔵量の一割を超える金属が多数あることが分かっている。天然資源国の資源埋蔵量と日本の都市鉱山を比較すれば、金、銀、鉛、インジウムは、日本がなんと世界最大の資源国となり、銅は世界2位、白金、タンタルは3位という資源国に位置付けられる。

 これまでにも小型家電リサイクル法などはあったが、2022年、環境省が2030年までに循環経済の市場規模を現在の50兆円から80兆円にする方針を示し、循環経済工程表案を発表した。電子機器に含まれる金属リサイクル原料の処理量も倍増させるという計画を打ち出しており、改めて「都市鉱山」が注目されるようになったのだ。

 すべて活用できれば、国内需要の数十年分にも匹敵する量とみなされているが、実際にリサイクルされているのは、金においても10%にも満たない程度だ。金属資源を輸入に頼る我が国では都市鉱山の有効な活用が期待されている。


 我が国の都市鉱山の活用事例として有名なのは、2021年に開催された東京オリンピックのメダルである。「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」として、東京オリンピック・パラリンピック競技大会では、アスリートに授与されるメダルが、小型家電から回収するリサイクル金属で製作された。これは、オリンピック史上初の試みであり、国民参加型のプロジェクトとして約5000個の金・銀・銅メダル用の金属を集めた。対象となったのは「小型家電リサイクル法」で扱われている携帯電話やパソコン、デジカメなどの全28品目という。オリンピック終了後も「アフターメダルプロジェクト」として、小型家電のリサイクル制度の普及促進が行われているようだが、ほとんどニュースにならないので知らない人の方が多いだろう。 


 このように製品に使われている金属を取り出して再利用することは、自然環境の破壊を減らすための一つの手段になり得る。SDGsが目指すゴール12「つくる責任 つかう責任」を意識して、資源を最大限有効に使うことを考えていきたい。都市鉱山の有効活用となるこのプロジェクトは、小型家電を出す消費者、回収業者だけでなく、自治体や企業などさまざまな人とのパートナーシップがあってはじめて実現するものだ。ゴール17の「パートナーシップで目標を達成しよう」にもつながっていく。


 日々、私たちが便利に暮らすために多くの製品が作られ、販売されている。特に、スマホやパソコンなどは想い出として家の中に保管されていることも多い。しかしながら、その中に眠っている金属類を取り出してもう一度資源として再利用できることを多くの人たちに知ってもらい、その循環を生み出すことが大切である。

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