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ペットボトルが地球環境を破壊する?

 世界のペットボトルの消費量はおよそ10年前までは年間3000億本だったのが、4800億本まで跳ね上がった。年間に4800億本とは、1分間にほぼ100万本、1秒でおよそ15,000本。年間に発生する4800億本のペットボトルを全部つなげると、どのくらいの長さになるだろうか。仮に500mlのペットボトルの高さを20cmだとすれば、地球を2400周できることになる。
 では、日本国内で1年間に消費するペットボトルの本数はどれほどなのだろうか。2016年の1年間に232億本、2019年の1年間に245億本と増加傾向にある。1年間に232億本で単純計算すると、1日に約6,400万本、1時間に約260万本、1分間に約4万4千本、そして1秒間に約740本のペットボトルが国内だけで消費されたことになる。

 では、232億本のPペットボトルが消費されゴミになった時、どのくらいの量が回収されたのかをみてみよう。ペットボトルリサイクル推進協議会によれば、2016年に販売されたペットボトルのうち回収されたのは88.8%、つまり206億本が回収されたことになるのだが、その一方で約26億本が回収されなかったということになる。この26億本はどこへ行ったのだろうか。河川で回収される散乱ごみの上位に飲料ペットボトルがきていることを考えれば、かなり多くのペットボトルがポイ捨てされたか、ゴミ箱からあふれて雨風に飛ばされた可能性がある。そして、このペットボトルは河川を経由して、やがて海に流れ込むことになる。ペットボトルの材質であるPET(ポリエチレンテレフタレート)は海水よりも比重が大きいため、ペットボトルは沈んで、海底に溜まっていく。海洋に流入するプラスチックごみの33%は飲料系のごみだと推定されているため、飲料用ペットボトルの回収を100%にするだけで、海洋に流入するプラスチックごみの3分の1を減らせると考えられている。

 環境省の調べによると、世界では毎年少なくとも800万トンものプラスチックごみが海に流出しているという。これは、東京スカイツリーおよそ222基分に相当する重量だ。そのうち毎年2〜6万トンのプラスチックごみが日本から流出していると推計されている。
 この海に流出している大量のプラスチックごみは、当然海に暮らす生き物に悪影響を及ぼしている。たとえばインドネシアの海岸では、6キロ近いプラスチックごみを体内に溜め込んだマッコウクジラが打ち上げられた(写真①)。プラスチックのコップ115個、ペットボトル4個、レジ袋25枚、ビーチサンダル2足と、その体からおびただしい量のごみが発見されたそうだ。また海で死んでしまったウミガメ102頭の内臓を調査したところ、すべての個体からマイクロプラスチックが800以上見つかった。いずれもごみが直接的な死因につながったのかは判明していないが、海の住民たちが被害を受けていることは間違いない。

 四日市大学環境情報学部の千葉賢教授は、四日市の海岸や伊勢湾におけるマイクロプラスチック問題を専門的に研究されており、一昨年に取材させていただいたことがある。千葉先生は、四日市の吉崎海岸にて定期的にマイクロプラスチックがどれだけ漂着しているかというフィールドワークを大学生と一緒にされている。また、伊勢湾で採れたイワシの内臓を光化学顕微鏡を使って調査し、マイクロプラスチックがイワシをはじめとする海洋生物に及ぼす影響を研究されている。

 私自身も一昨年度、吉崎海岸でのフィールドワークに参加させていただいたのだが、吉崎海岸には、硬質プラスチックや人工芝などが河川から海に流されるうちに漂着した直径5mm以下のマイクロプラスチックを、素人の私でもたくさん発見することができた。千葉先生にご教授いただいて初めて知ったことがある。伊勢湾のあちこちの海岸には、木曽三川(木曽川・長良川・揖斐川)の上流の田畑で使用されている徐放性肥料カプセルというプラスチックごみが多くみられるとのことだ。徐放性肥料カプセル(被覆肥料カプセル)」は、化学肥料をポリエチレンなどのプラスティックでコーティングしたもので、稲作では大量に利用され、野菜や果樹、園芸用にも使われている。2〜3mm程の球状の粒。中空で、指で押すとつぶれる。白、グレイ、黄褐色などがあり、草の実や生物の卵の殻のようにも見える。材質の多くはポリエチレンで、化成肥料をコーティングし、作物の生育にあわせてすこしずつ中の肥料が溶け出す仕組みになっている。この肥料がプラスチックであり、水田や畑から河川に流れ、それが木曽三川を通って伊勢湾に流出していることを農家の方は知らないという。
 また、千葉先生の研究室にお邪魔し、光学顕微鏡で伊勢湾のイワシの内臓から見つかったマイクロプラスチックを実際に見せていただいた。東京湾や伊勢湾などの魚類からはかなり高い確率でマイクロプラスチックが見つかっているという。ということは、刺身や寿司をはじめとする魚貝類を好む私たち日本人は知らず知らずのうちにプラスチックを食べてしまっているということになる。さらに、魚は海を回遊する生き物であり、マイクロプラスチックの影響を受けた魚を、プラスチックごみなど全く排出していない国の人も食べてしまっている可能性があるということだ。世界の人口の約半数の人の大便からマイクロプラスチックが検出されているという報告がある。

 昨年の夏、太平洋側の海岸と日本海側の海岸に行き、外国産のプラスチックごみを回収してみた。どちらの海岸も中国、韓国、台湾製のペットボトルが漂着しているのだが、太平洋側は東南アジア製のペットボトルの漂着が、日本海側ではロシア製のペットボトルの漂着が特徴的であった(写真②,③)。

 専門家によると、現在世界の海に漂う海洋ごみの量は、総計約1億5,000万トンに達しているといわれる。そしてこの瞬間もどんどん増え続けている。つまり何もしなければ、海洋ごみは増加の一途をたどるのだ。このペースで進めば、2050年には魚よりプラスチックごみの量が多い海になると予測されている。


写真①


写真②
写真③


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合同会社Uluru(ウルル) 山田勝己
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