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自己紹介(2)

日本語ブログに自己紹介的な記事をいくつか書いています。その中から私の留学体験に関する記事を紹介しましょう。


思い出すこと:留学生として

出版予定の作品集のために自分の略歴を用意していて、学歴は少し普通じゃなかったかな、と思いました。自分で選んだ歩みなので私には不思議でも何でもないのです。自分の中では一つに繋がっています。

しかし、日本学修士、教育学博士、美術修士と進みましたから多くの方からすると、何だこいつ?と思われても仕方ないでしょう。本物の学者は普通、一処で頑張るものですが、あちらへ行ったりこちらへ行ったりしているように見えるでしょう。自慢話になるでしょうが、少し説明してみましょうか。歳をとると自慢話が多くなるようで。

日本の大学を卒業するまでは、まあ、そこそこ普通、だったでしょう。自分ではそう思っています。どこかから笑い声が聞こえますが。空耳ですね。

それから留学生になりました。紆余曲折の日々の始まりです。

日本学修士の頃

東洋哲学を学士で取っていて、修士号は宗教学が第一希望でした。

しかし、どういった具合か、日本研究科に入ってしまいました。おそらく私の英語力が不足だったのかもしれません。豪州で少しの間、日本語教師をしたいという希望があったせいかもしれません。でも、日本学研究の中で宗教学をやってもいいなと思っていました。

修士に入ってみると、単位数を稼ぐ必要から自分が思いもしていなかった科目を勉強させられます。応用言語学です。日本語教師になるためには必要な科目でしたが。

しかし、修士論文は宗教関係がやりたかったので、指導教官とあれこれ相談して、日本の新興宗教を社会学的に研究するということになりました。あまり乗り気ではなかったです。興味のある対象でも、方法でもなかったのですが、教官が社会学者だったのです。結果的には面白い研究体験でしたが。いろいろ状況に流されています。

社会学も応用言語学も何だかやり切った感じがしなかったのですが、修士号が終わった時、強く感じたことがあります。これが学問か!自分が学士でやったことなど、学問なんて言えるレベルじゃなかったな、ということ。

メルボルンで最初の友達

その頃、クラスメートの日本人と話しあったことも思い出します。メルボルンで最初の友達でした。日本人留学生を見てみろ。3分の1は脱落する。次の3分1はギリギリで卒業させてもらっている。でも最後の3分の1はトップクラスで卒業している。俺たちはトップで卒業しよう、と。

彼は優秀な男だったので余裕でトップクラスでした。おまけに上品でハンサムでユーモアのセンスがあって、こんな日本人もいるのかと呆れたものです。「日本人にしては」英語がうまい、「日本人にしては」背が高い、「日本人にしては」ハンサムだ、俺は「日本人にしては」って言われるのが大嫌いなんだと言っていました。私にはその畏友の気持ちがよくわかりませんでした。そんなこと言われたことがなかったので。

二人のアパートが近かったので、いつも通学は彼の古いカローラで送ってもらっていました。不便な立地の大学でしたので、ありがたかったです。私は英語で散々苦労しましたが、Honours(底辺レベルの)という成績はいただきました。

修士の頃、週末は朝8時にうちを出て、1時間ヤラ川沿いを歩いて市内の州立図書館へ。9時の開館とともに入館、そこで閉館の5時まで勉強。そこからまた1時間歩いて一人のアパートへ、という生活を続けました。自分の将来に何の目標も持てない時期でした。自分が何をしたいのか、わからなかったのです。とりあえず目前の課題に全力を尽くそうということでした。 

博士課程へ

それから思いがけず博士号に進みます。実は変わった先生に出会い、ヘッドハンティングされたのです。「君の修士の成績は良いじゃないか、授業料免除の手続きをしてやろう」という甘い言葉にそそのかされ彼の元へ。教育心理学者です。そこで私の博士号は教育学になります。

生活のため大学で日本語教師をしていたので、やれないこともなかろうと、やるからにはベストを尽くそうということでした。ここで役立ったのが応用言語学です。言語教育を主にやっていましたので、教育学へ直結できました。

この時点では永住権を取っていたので、もう留学生ではありませんでした。確信は持てないのですが、どうも永住権があれば豪州の大学院は無料ではないかと思います(当時の話です)。

指導教官は大学の先生らしからぬ方でしたが、親切でした。
彼の指導で博士号を取った方々を紹介してくれたり、私のために奨学金の案内を取り寄せてくれたり。

この奨学金は日本の奨学金と違い、返済不要です。それでも私は気がすすみませんでした。
「こんなお金は何に使えばいいんですか?」不思議なことを言う奴だという顔で私をみて、「生きるためさ」
「生活はできているんで、結構です」
実は自分の事業が軌道に乗り掛かっていた時期だったので、生活ができる以上のお金は必要なかったのです。授業料免除だけで十分ありがたかったのです。お金が必要な学生に回してあげたほうが世のためでしょう。

これは後で知ったことですが、当時、大学院生は厚遇されていました。そこで学問より奨学金が目的で学生でいつづけ、家のローンを払っていたなどという人もあったようです。世の中は思いもよらないことであふれています。

私の指導教官については破天荒な話もありますが、それはまた別の機会に。私の卒業後、少しして彼は大学を離れ、民間で仕事を始めました。そのほうがふさわしい方かと思います。

その指導教官を前にして、同僚の教授が笑いながら言いました。「指導教官が彼であるにもかかわらず、博士が取れたとは。君は大したものだ」冗談とも本気とも取れる笑いでした。

博士課程で学んだこと

博士課程でもいくつか大切なことを学んだように思います。

まず、新しく未知の学問領域に入っていく方法です。これは後に趣味で美術修士に入りますが(これも学費免除)、その際にも役立ちました。

新しい学問に入っていくには、その全体像をできるだけ早く掴むことだと思います。その学問領域の中心はここらで、全体はここからここまで、というおおよその範囲を掴むのです。

私が最初に受講させられた教育学概論はその目的のためにうってつけでした。1冊の概論書をもとに、毎回1章ずつ異なる研究分野を紹介してもらいます。大学院生向けのとてもいい入門書でした。歴史的研究、社会学的研究、文化人類学的研究、心理学的研究等々。12章で大まかな全体が掴めます。
Jaeger, R.M.(Ed.), Complementary Methods for Research in Education, American Educational Research Association.

この授業で面白かったのは、毎週、論文分析の宿題が出たこと。翌週までに出版された学術論文を分析して、リライアビリティ、バリディティ(日本語訳がよくわかりません)、統計など20ほどの項目につき批判的に分析するのです。これは面白かった。

学術誌に出版された論文であっても、完全無欠とは言えないのです。実際、酷いものが多いのです。私は学生としてあまり先生に褒められた記憶はないのですが、この講座の定年間際の先生には、大変評価していただきました。ありがたい講座でした。リサーチ・メソドロジー(研究方法)は、きちんとやっておかないと道を踏み外します。

そして、博士が終わった時、ああこれが学問か、と思ったものです。自分が修士でやった事などとても学問と言える代物ではなかったな、と。自分が登ったと思っていた山を、さらに高いところから見下ろしている感じです。

美術修士へ

こんな具合にトレーニングを積んできたので、最後の美術修士は本当に楽しくやれました。長かった私の学生生活でも最高に充実した勉強体験ができました。

ジェントルマンという言葉がふさわしい、優しくも厳しい指導教官。私の研究、個展のタイトルに「Distilling Nature」(自然の蒸留)という最高のタイトルをつけてくれました。

国際的な現代芸術の最前線に触れる機会もふんだんにありました。卒業したくなかったので、途中からパートタイムに変更し、就学期間を延長したほどです。

美術修士の卒業試験は個展の開催と論文提出。

個展に用意した作品は、その後、3作品が公募展に入選しました。論文の方は、そのうち2つの章が学術誌の査読を通り、出版されました。満足のいく結果でした。個展は以下の通り短いビデオにして紹介しています。

いい友達ができたことも幸運でした。博士課程の留学生が私の研究発表に来てくれて、「これは修士レベルじゃないぜ。博士に移りなよ。一緒にやろう」と誘ってくれたものです。

実は、芸術でも博士号を取りたいという希望がありましたが、家内にいい加減にしろ、と叱られ、断念しました。「まともな人間は博士号二つも取ったりしないものよ」。無茶苦茶な独断!いつものことですが。「週末は二人で過ごしたいのに」と。そういえば、週末も勉強ばかりの日々でした。

ところで、教育学学士、修士をやっていない人間がなぜ教育学博士号に入れるのか、芸大に行っていない人間がなぜいきなり美術修士に入れるのでしょう。この辺は私にもよくわかりません。逆になぜ行けないのかと尋ねてもいいのではないでしょうか。重要なのは研究の方法論です。そこさえ身についていれば、どの学問でもきちんと考えていけるように思います。

見出し画像:Hanadayori Night、ホーチミン・シティでの生け花パフォーマンス(2023年9月)。


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