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Ghostly Kisses 『Heaven, Wait』

Ghostly, Kissesは、カナダのケベックを拠点に活動する、フランス系カナダ人のシンガーソングライター、マルチインストゥルメンタリストであるMargaux Sauveによるプロジェクトで、本作は彼女の1stアルバム。ロンドンのインディーレーベル、Akira Recordsからのリリースとなっています。

Ghost Kissesは、2015年には、同じくカナダのMen I Trustの楽曲にもフィーチャーされています。また、Men I TrustのメンバーであるDragos Chiriacが彼女の楽曲を気に入ったこともあり、彼女は歌手になる決意をしたそう。そのため、彼がGhostly Kissesに参加していたこともあります(彼女の1st EPのプロデュースも彼が行っています)。

ちなみに、Ghostly Kissesという名前は、「Une ballade des dames perdues」(日本語では、「失われた女性たちのバラード」という感じの意味でしょうか)というウィリアム・フォークナーの詩が元になっているようです。

A sort of ethereal seduction
They hear, alas
My women
And brush my lips with little ghostly kisses
Stealing away
Singly, their tiny ardent faces
Like windflowers from some blown garden of dreams

ある種の幽玄な誘惑
彼らは聞く、悲しいかな
私の女たちが
小さな幽霊のような口づけをして
私の唇を盗み去っていく
一つ一つ、彼女たちの小さく情熱的な顔は
夢幻の園に咲いたアネモネのよう

akira records official websiteより


本作は、抑制の効いた冷たい質感、浮遊感のあるエレクトロニクスが印象的です。そのダウナーでどこか耽美的な作風は、4ADの諸作を彷彿とさせます。とはいっても、それほどハイアート的なとっつきにくさはなく、ポップで聴きやすいアルバムです。

本作は、彼女のパートナーでもある作曲家/ピアニストのLouis-Étienne Santaisと共にケベックの自宅で制作されました。彼の作品のミニマルかつクラシカルなテイストは、本作においても随所に感じられます。

また、一部の曲では、プロデューサーにSufjan Stevensなどのプロデュースを手がけるキーボード奏者Thomas Bartlettと、London Grammerなどのプロデュースを手がけるTim Branを迎えています。

特にThomas Bartlettは、他にもオノ・ヨーコ、St.Vincent、Florence and The Machineといった著名なアーティストのプロデュースも手掛けています。彼女は以前、音楽ブログStereofoxのインタビューにおいて、一週間一緒にスタジオに入りたいアーティストとしてSufjan Stevensを挙げていますし、彼の諸作のプロデュースを行っているThomas Bartlettに惹かれたのかもしれませんね。



1.「Heartbeat」

プロデューサーはTim Bran。タイトルの通り、高鳴る心臓の鼓動のようなビートが印象的な曲です。ハンドクラップが加わる「All night, so lonely〜」のところから、徐々ボルテージが上がっていく感じが最高〜〜このMVのように踊り出したくなります。



2.「Heaven, Wait」

アルバムタイトルにもなっている曲ですね。プロデューサーは同じくTim Bran。何度も繰り返されるピアノのフレーズが美しく、これもめっちゃ良い曲。


3.「Don't Know Why」 

プロデューサーはThomas Bartlett。優しいギターのサウンドが印象的。彼女の繊細な歌声の美しさに思わず酔いしれてしまうバラード。


4.「Blackbirds」

Louis-Étienne Santaisのプロデュース。彼女の魂の叫びのように聴こえてくる壮大なコーラスや間奏のストリングスが美しいですね。私がこのアルバムで一番好きな曲です。

彼女のInstagramの投稿によれば、「何年か前の私自身の鬱の体験に触発された、憂鬱と、そこから抜け出そうとしている曲」なんだそう。彼女は10代の終わり頃にうつ病を経験したということですが、その経験は創作にも大きな影響を与えているようです。「これ以上愛や死のない、孤独を感じない場所はあるの?」といった歌詞からは、彼女の苦悩、そして救いを渇望する想いがひしひしと伝わってきます。

この曲は、リリースから日が経ち今月MVが公開されました。ナミビアの砂漠で撮影されたようで、砂漠を独りさまよう彼女の佇まいは、曲の世界観ともピッタリです。ハイセンス!

5.「A Different Kind of Love」

プロデューサーはThomas Bartlett。シンプルながらメロディの美しさが光る曲です。シングル曲を中心に固めたA面だけでも恐ろしいクオリティ…


6.「Clay」

プロデューサーはTim Bran。畏怖を感じさせるおどろおどろしいコーラスが印象的な曲です。個人的にはB面で一番好きな曲〜


7.「Carry Me」

Louis-Étienne Santaisのプロデュース。ポリリズミックなビートが印象的な佳曲です。クラシカルな印象の強い本作の中ではかなりエレクトロニックなテイストの曲ですね。先日、アコースティックバージョンも公開されました。良い曲〜〜

8.「Play Dead」

Thomas Bartlettのプロデュース。インタールード的に挿入された、美しいピアノ曲です。

9.「Green Book」

この曲もThomas Bartlettのプロデュース。「Green Book」は同名映画、もしくは旅行ガイドブックとは関係あるのかな、歌詞は関係なさそうだけど。

10.「Your Heart Is Gold」
プロデューサーはTim Bran。「Your Heart Is Gold」しかし「Your Heart Is Gone」…という韻を踏んだような歌詞が印象的な曲です。どこか力の抜けた歌唱には喪失感が滲み出ています。



余談ですが、本作のアルバムジャケットは、写真家/映像ディレクターであるFred Gervaisによって撮影されています。先述の「Heartbeat」や「Blackbirds」のMVのディレクターも務めていますね。

彼のWebサイトで他の彼の作品も見ることができますが、その光と影を効果的に取り入れた、落ち着いたトーンの作風からは、彼の一貫した美学が伺えます。彼女の曲の世界観と相性ピッタリですね。また、本作に収録されたシングル曲のジャケット写真も彼が撮影したものですが、素晴らしいものばかりです。

Don't Know Why
Heaven, Wait
Blackbirds

アルバムリリースに際して、彼女はInstagramにおいて「『Heaven, Wait』は多くの移り変わりについてのアルバムです。それは、友情から愛へ、生から死へ、孤独から繋がりへ、子供から大人への変化。影から光へ、困難な経験から平和であることへの変化です。」と述べています。

確かに、本作は深い喪失感がアルバム全体を覆っているように感じますが、最後まで聴いても、不思議とあまり悲しい気分にはなりません。それはきっと、本作のジャケット写真のように、暗闇の中にかすかに差し込む希望の光を感じることができるからでしょう。単に孤独に悲嘆するだけの一面的なアルバムではないのです。

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