見出し画像

ベストアルバム2023

昨年と同じく15枚選びました〜


15.『Romantic Piano』- Gia Margaret

シカゴのシンガーソングライター、Gia Margaretの3rdアルバム。前作でのシンセ中心の透き通るようなアンビエントから、本作ではエリック・サティや坂本龍一といった先達の音楽を思わせるミニマルなピアノアンビエントへ。このアルバムは日本でかなり人気を集めているようですが、絵画においても音楽においても印象派を愛でてきた日本人らしいなと思う。本作のリリース時にすでに次作の制作に取り組んでいたようなので、そちらも楽しみです。



14.『DIAMONDS & FREAKS』 - BLK ODYSSY

テキサス州オースティンを拠点に活動するプロデューサー/マルチ奏者の2nd。70'sソウル/ファンクのトラディショナルなポップセンスとネオソウル的な洗練を足して2で割ったようなアルバムで、カッコいいうえに爆裂ポップで聴いててめちゃ楽しい。ブーツィ・コリンズを客演に迎えた「HONEYSUCKLE NECKBONE」なんてイントロから超〜最高です。



13.『大吉』- Summer Eye

シャムキャッツ解散後、Summer Eye名義で発表された1stアルバム。ボサノヴァやエレクトロニクスなどといった要素を綯い交ぜにした、夏目くんの新境地。私は楽観性の中にほのかに悲しみが滲む夏目くんの言葉が、その曖昧なトーンが本当に大好きだなぁと改めて感じた。このアルバムを聴いている時だけは、作業も全部放り投げてひたすら踊っていたい。そんな気分にさせてくれる一枚です。



12.『Um』 - Gabriel Milliet

サンパウロのシンガーソングライター/マルチ奏者Gabriel Millietの1stアルバム。言ってしまえば静謐なフォークアルバムなんですが、決して暗い印象はありません。むしろ木漏れ日が差し込んでくるような暖かさ、柔らかさに満ちていて、サンパウロらしい優美な感覚を伝えてくれる。特に2曲目「O Sol e o mar(太陽と海)」の美しさは格別です。



11.『Sundial』- Noname

シカゴのラッパー/詩人、Nonameによる5年ぶりの2ndアルバムは、これまでになくジャジーかつオーガニックなテイストに仕上げられていて、スモーキーな空気が充満している。「コンシャスなリリックとスムースなサウンドというある意味相反する要素をどのように統合、昇華していくか」という点は彼女の一つのテーマなのでしょうが、このバランス感覚は一つの到達点という気もします。



10.『Aftersun (Original Motion Picture Soundtrack)』 - Oliver Coates

チェロ奏者Olivar Coatesによる、映画『Aftersun』のサウンドトラック。映画の印象主義的な作風に呼応するように、音像が揺曳し跡に翳りを残しながら霧散していく。中でも寄せては返す波のような「One Without」は白眉。この映画は今年見た中でも(大して見てませんが)一番好きな映画でした。



9.『Gold』- Cleo Sol

ロンドンのシンガーソングライター、Cleo Solのソロ4作目のアルバム。彼女の信仰を主題とした、内省的かつ神秘的な作品。以前noteにも書きました。



8.『Marquês, 256』- Zé Ibarra

Bala DesejoのメンバーZé Ibarraの1stソロアルバム。リオ生まれだが幼少期をミナスで過ごしていたという彼の歌声は、Milton NascimentoやFlávio Venturiniのようなミナスを代表するシンガー達と同様のロマンチシズムに溢れている。彼の歌声が響き渡ると、その余韻を味わうために予め用意されていたかのように凪のような静寂があたりを包む。そのいなたさ、素朴さが愛おしい。



7.『Blómi』- Susanne Sundfør

ノルウェーのシンガーソングライター、スザンヌ・サンドフォーの新作。北欧の音楽は、雄大な自然を、その凍てつくような大気と共に伝えてくれる作品が多いなと常々感じているのですが、本作におけるスケール感のある音世界は、自然ではなくむしろ超自然、彼女の神秘主義へのアプローチに由来するものなのでしょう(Weyes Bloodの世界観にもどこか似ている)。途端に視界が開けていくカタルシスに心を洗われる名作です。



7.『Red Moon in Vinus』- Kali Uchis

コロンビア出身のシンガーソングライター、Kali Uchisの3rdアルバムは、全編メロウなソウルミュージック。ジャンル越境的な音楽が溢れている昨今、これほどまでに純度100%のソウルアルバムはかえって新鮮に響く。本作から取り除かれたラテン音楽の要素は、おそらく全編スペイン語詞だという次作『ORQUÍDEAS』に持ち込まれるのでしょう。



5.『Without Anyone Knowing』- 전진희(Jeon Jin Hee)

韓国のピアノ奏者、전진희(Jeon Jin Hee)の新作。ピアノの弾き語りを中心に、ギターやストリングスの音が控えめに添えられている。私には彼女が何を歌っているのかわからないが、ソフトなピアノタッチが、憂いを帯びた歌声が、センシティブな感覚を十二分に伝えてくれる。潮が穏やかに満ちていくように、聴く者の心にひと時の安息をもたらす名作。



4.『正夢』- rkemishi

東京出身のラッパー、rkemishiの2ndアルバム。イリーガルな仕事によって生計を立ててきたという彼の生活の中に宿る緊張感、加えて社会との摩擦がパッケージングされたハスリングラップだ。不穏なビートからは憂鬱と退廃が見え隠れするが、挑発的、露悪的なラップからは楽観性の皮を被ったシリアスな覚悟を感じられる。隙のない名盤だと思います。



3.『12』- 坂本龍一

坂本龍一の生前最後のアルバム。何の意図もコンセプトも飾りもなく、ただ清らかな音の河が緩やかに流れている。つまり自動筆記的に綴られているようなところがあり、彼の無意識の領域の傍で鳴る音に触れることができる。ポップな世界とは縁遠く、聴き手を突き放すようなところもあるが、石膏彫刻のような質感を備えた音色の響きがただただ美しい。



2.『As Palavras, Vol.1 & Vol.2』- Rubel

リオのシンガーソングライター、Rubelの3rdアルバム。フォホーやサンバなどといったブラジルの伝統音楽の要素を盛り込んだルーツ回帰作。



1.『flow』- 冬にわかれて

寺尾紗穂、あだち麗三郎、伊賀航からなるバンド、「冬にわかれて」の3枚目のアルバム。曲の中で何か大きなドラマがあるわけではない。鳥が飛び立っていく姿を目にした時に生じた些細な感慨、あてどもない空想、ふと頭によぎる誰かの姿。日々の生活の、本来すぐに忘れ去られてしまうような一つ一つの心情、情景を掬い上げ、そこに淡い彩りを与えていく。その恩着せがましさのない慈しみの姿勢が音にも表れていると感じた。大好きなアルバムです。


1.『flow』- 冬にわかれて
2.『As Palavras, Vol.1 & Vol.2』- Rubel
3.『12』 - 坂本龍一
4.『正夢』- rkemishi
5.『Without Anyone Knowing』- 전진희 (Jeon Jin Hee)
6.『Red Moon In Vinus』 - Kali Uchis
7.『Blómi』- Susanne Sundfør
8.『Marquês, 256』 - Zé Ibarra
9.『Gold』- Cleo Sol
10.『Aftersun (Original Motion Picture Soundtrack)』 - Oliver Coates
11.『Sundial』- Noname
12.『Um』 - Gabriel Milliet
13.『大吉』 - Summer Eye
14.『DIAMONDS & FREAKS』 - BLK ODYSSY
15.『Romantic Piano』 - Gia Margaret


F.デーヴィスの著書『ノスタルジアの社会学』によれば、ノスタルジアとは美しい過去との連続性を再確認したいという欲望の表象であり、つまり潜在的に保守的な傾向を有しているものなのだという。何が言いたいかというと、今年の私はノスタルジックな音楽ばかり聴きすぎて、エクスペリメンタルな音楽、革新的な音楽を聴くことがあまりに少なかった。ノスタルジーとはサウダーヂと同様に懐古的な心情を示すものだから、ブラジル音楽が好きな自分にとってはノスタルジーに惹かれるのはある意味必然と言えるのだが、だとしてもあまりに自分の好みの音楽ばかり聴いてしまった。来年はその外側にいる他者とも触れ合えるよう、より幅広く音楽を聴きたいなぁと思います。最後まで読んで頂きありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?