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【300字小説】 連れて行ってくれる場所

 ほとんど願掛けみたいなものだと思う。少しだけ自分の持っている力以上ものを借りたいとき、玄関に腰を下ろして靴を磨く。いつからだろう。就活の最終面接のときか。いや、大学受験のときではないか。
 ブラシをかけ、クリーナーで汚れを落とし、クリームで革を磨く。そうして普段の手入れよりも丁寧に手を動かしていると「大丈夫、上手くいく」という心の声さえ消えていく。この靴が連れて行ってくれる次の場所に思いをはせる。
 立ち上がり、磨かれた靴の静かな佇まいを眺める。「うん」明日の朝が楽しみになる。

Twitterで行われている、毎月300字小説企画(@mon300nov)からお題を頂きました。第4回のお題「靴」。

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