【300字小説】 酔わない二人
この人も酔ったふりをしていたとわかったのは、飲み直すために入ったバーで鉢合わせたからだ。酔ったふりして二次会をパスしたのも同じだった。
どちらとも父譲りでお酒に強かった。どんなお酒でも、どれだけ飲んでも、まったく酔わない。
「酔える人っていいですよね」と言うと、
「酔っぱらいの研究は長いよ」と相手は笑った。表情がふわふわしてくる人、声が大きくなる人、まっすぐ歩けなくなる人。「すっかり酔ったふりも上手くなった」
私たちは秘密を共有するかのように、ゆっくり、すいすいお酒を飲んだ。
「酔わない同士、今度飲みましょう」と別れた。
今度に日付を付けたい。こういうときお酒の力を借りられたらと何十回目かに思う。
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