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WE NEED YOU HERE 〈ショートショート〉

スーツを着た男がビルの屋上に立っていた.
足元には綺麗に揃えられた革靴と「遺書」と書かれた封筒が1つ.
まあ珍しいことではない.この国の1年の自殺者数は,小さい村の人口ほどもあるのだ.

男もその中の1人だった.
現代の生活は,ただ生きているだけでも忙しい.
就職してから必死に働いたが,男の温厚な性格が悪く働いたのかもしれない.
出世することもなく,良いパートナーや友人にも恵まれなかった.
手元に残ったのは,わずかな金と莫大な借金.

まだ若かった頃,男は友人と会社を立ち上げた.
何か歴史に名を残すような大きなことをしたい.あるいは,他人と違うということを周囲に知って欲しかったのかもしれない.

だが,そんな甘い試みは失敗に終わるのは,世の中の決まりと言ってもいいだろう.
会社は潰れ,友人も去っていき,借金だけが男の元に寄り添った.

「死ぬのは怖い.だが生きるのも疲れた…」

「おれは一体何のために生まれてきたのだ」
男は屋上で座り込み,顔を押さえ込んだ.


「いつ飛び降りるんだろうか」
遠くのビルの屋上から見ていた未来人が呟く.

「焦るな.あと3分後に男は決心して飛び降りると伝記には記されている」
時計を見ながら,もう1人の未来人がそう言った.

「あのベンチで本を読んでいる女だろうか」

「そうだ.飛び降りた男はその女に衝突.そして女も巻き添いで命を落とす」

「コンピュータのシミュレーションによると,女が死ななければ,その子孫が未来で大戦争を引き起こすらしい」

「なるほど…」
黙り込む2人.
歴史のターニングポイントなんて,どれも静かなものだ.
時間の流れの中でそれに気づくのは困難であり,
後から振り向いて初めて見つかるのだろう.

「あっ…」
2人は息を呑み,涙を流しながら手を合わせる.

「さあ帰ろう.平和な未来へ」
未来人は銀色のタイムマシンに乗り込んだ.
そして帰っていった.
男のもたらした平和な世界へ.

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