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『日米安全保障条約を考える』~安保3文書骨子案に触れて~

 「アメリカは、同盟国だから日本の味方だ」と思っている方がとても多いですね。米国による占領と支配の実態を知らない方々ならば、そう考えるのも仕方がないのかもしれません。けれども全てを知っている内閣総理大臣が、日米安全保障条約の呪縛からいまだに抜けられないようでは、輝かしい歴史を誇る日本の未来が思いやられます。
 安保3文書の骨子案が明らかになった今、もう一度、日米安全保障条約について考え直してみませんか。それは本当に必要な条約なのか。それとも・・・。


安全保障のジレンマが日米同盟の強化を招く

 様々な形で国防上の脅威が喧伝されている今、抑止力を高めることが重要だと考える人が増えています。日経新聞の調べによれば、何と65%もの人が「反撃能力の保有」に賛成なのだそうです。「敵が攻めてくるかもしれない」という恐怖と不安がそうさせるのでしょうが、相手を恐れて抑止力を高めれば、それを見た相手も同じように感じて抑止力を高めるでしょうから、結果的により一層脅威が高まってしまうのが当然の理です。

安全保障のジレンマ

 そして、この安全保障のジレンマが、世界一の軍事力を誇る米国との同盟を強化する動機となり、それによってなおさらに脅威を高めてしまうトリレンマに日本が陥っていると感じるのは私だけでしょうか。

日米同盟強化のトリレンマ

(参考資料)
*[ 日経世論調査 反撃能力の保有「賛成」65%、5月調査比5ポイント上昇: 日本経済新聞 (nikkei.com) ]

同盟のジレンマについて

 あらゆる軍事同盟には、相手方の戦争に巻き込まれる不安と、自分方の戦争が始まった時相手方に見捨てられてしまう不安とが付きまといます。当然、日米安全保障条約にもこの同盟のジレンマが存在します。かつて参議院議員の佐藤正久氏が米国の議員から「あなたは日本の無人島を守るために、アメリカの若者に命を懸けろというのか」と言われたそうですが、誰だって、他人のケンカに巻き込まれて怪我はしたくないし、頼りにしていた人から肝心な時に逃げられたくもないのですから、双方が微妙なバランス感覚をもって信頼関係を築こうと必死になるのが当然ですね。

同盟のジレンマ

(参考資料)
*[ 尖閣有事。アメリカは日本を救うのか?:日経ビジネス電子版 (nikkei.com)  ]

日米安保の片務性という呪縛

 そのうえ日米同盟は、あらゆる軍事同盟が共通に抱えるジレンマのみならず、片務性という厄介な代物にまとわりつかれています。日米安全保障条約第五条の規定によって、「日本の領域における武力攻撃等に対して、米国は日本を守るために命を懸ける」と思われるけれども、「米国の領域における武力攻撃等に対しては、日本が命を懸けることにはなっていない」という片務性に対して、第六条とそれに付随する日米地位協定等で「思いやり予算をつけて米軍に基地を提供する」ことによってそれを代償し、条約の対等性を合理化しているわけです。しかしながらそこに、命をお金でバランスできるのかという申し訳なさがついて回るのは、至極当然の事でしょう。日本の呪縛です。

日米安保の片務性

(参考資料)
*[ 外務省: 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約 (mofa.go.jp) ]
*[ 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(日米地位協定)及び関連情報|外務省 (mofa.go.jp) ]

日米安保の不平等な実態

 ところがその呪縛は、米国によって緻密に計算された罠だったのです。(詳しい話は「日本よ!強くて優しい国となれ」をご高覧下さい。)日本人は米国に対して、「命がけで守って頂いてありがたい。自分たちも米国のために命を懸けなければ申し訳ない。米国の言われるままに多くの兵器を購入する義理がある。」と思い込まされていますが、実のところ日本は、米国に「法で支配」され、米国に都合のいいように使われているだけなのです。米国は日本のどこでも自由に軍を展開できるうえ、有事には自衛隊の指揮権までをも握ります。自衛隊の最高指揮官は内閣総理大臣ですが、いざという時にはその上に合衆国大統領が君臨するのです。日米安全保障条約は、日本に有利なありがたい条約ではなく、日本が不当に差別され支配された極めて不平等な条約だったのです。

日米安保の不平等

「法で支配」されている日本の実態

 冒頭で私は、米国による占領支配の実態という話に触れましたが、「国民」と「領域」と「主権」の三要素を兼ね備えているのが独立国家であるとするならば、日本はいまだに独立国家になりきれていない半独立の状態にあります。日米安全保障条約は、決して日米の対等な同盟としてあるのではなく、米国が日本を属国として「法で支配」するためにこそ存在していると言えるのです。
 では、具体的にみていきましょう。日本には、日本国籍をもつ私たち日本人がいますので、三要素の一つである「国民」は間違いなく存在します。これだけみれば普通の国ですね。

(Buzete_aによる画像)

 「領域」についてはどうでしょうか。日本の領空は、多分に制限されています。日本の空域は、いつでも米軍が自由に使えることになっているのです。

矢部宏治(知ってはいけない──隠された日本支配の構造|講談社BOOK倶楽部 からの画像)

領土、領海も米軍が自由に使えます。基地ばかりではなく、国道や民地等で発生した事件や事故の現場もすぐに米軍によって封鎖されてしまいます。日本中どこでも、日本の領域があっという間に米軍のものになってしまうのです。この話を書いている最中にも、「米軍北部訓練場に隣接する県道70号で9日、銃や携帯型ミサイルのようなものを持った米兵15人ほどが歩いているのを住民らが確認した。」という報道がありました。ウクライナなどの戦場ではなく沖縄の公道での出来事です。米軍は、日本の法律にはお構いなしで日本中どこでも自由に行動できるのです。

矢部宏治(知ってはいけない──隠された日本支配の構造|講談社BOOK倶楽部 からの画像)

(参考資料)
*[ 銃携行の米兵 県道歩く 東村高江 防衛局「道に迷った」 | 沖縄タイムス+プラス ニュース | 沖縄タイムス+プラス (okinawatimes.co.jp) ]
*[ 知ってはいけない──隠された日本支配の構造|BOOK倶楽部特設サイト|講談社BOOK倶楽部 (kodansha.co.jp) ]

 では、「主権」はどうでしょう。基地や事件現場に日本の「主権」が及ばないだけではありません。冷戦期に最大1300発もの核兵器が沖縄の弾薬庫に貯蔵されていて、そこから三沢や横田などの米軍基地に運び、爆撃機が飛び立ってソ連や中国を核攻撃できるようになっていました。日本が決めた非核三原則は、完全に無視されているのです。さらに、国家権力の象徴ともいえる自衛隊は内閣総理大臣が最高指揮官ですから日本に「主権」があるように見えますが、先に述べたとおり実際には自衛隊の有事の指揮権は米軍にあり、日本の国家としての「主権」が及ばず、米国に支配されているのです。極論すれば戦争をするもしないも、またどうやって戦争を遂行しどのように終わらせるのかについても、全て合衆国大統領の思うに任せるしかありません。日本の自衛官についても、米国から言い値で買った兵器についても、合衆国大統領によって勝手に展開運用されるのです。

矢部宏治(知ってはいけない──隠された日本支配の構造|講談社BOOK倶楽部 からの画像)

(参考資料)
*[ 「沖縄と核」の歴史、戦後の知られざる真実 | アメリカ | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net) ]

 また、国家の三権についてみても、まず、行政権を担う内閣府は米国に支配されています。日米合同委員会や2+2などによって、日本の防衛に絡む行政は米軍の言いなりになっているのです。もちろん、日本の国益を最大限に主張しているのでしょうが、米軍の主張に押し切られていることが多いように見えますね。

矢部宏治(知ってはいけない──隠された日本支配の構造|講談社BOOK倶楽部 からの画像)

そして、司法権までもが、米国に支配されています。安全保障などの高度な政治的事項については最高裁が憲法判断しないことになっているのです。日本は法治国家ではないとさえ言えるでしょう。国家の暴走を防ぎ国民の自由と権利を守るために相互抑制と均衡をはかるという三権分立が、全く機能していないのです。

矢部宏治(知ってはいけない──隠された日本支配の構造|講談社BOOK倶楽部 からの画像)

 国家権力のうち唯一日本国に残されているのが、立法府であり国権の最高機関である国会です。けれども最近は、閣議決定ばかりが増えてまともな国会審議が行われないことも多いですね。主権者である日本国民の意見を封じて、米国のやりたい放題となっているのではないでしょうか。さらには、統一教会に牛耳られている議員も多いようですし、ウクライナに対するロシアの侵攻があってからは国会が大政翼賛的にもなっています。日本に間違いなく存在している私たち日本の国民自身が、国民主権を守ることを真剣に考えなければ立法権すら米国の手にゆだねることになってしまうかもしれません。

(ぽせ~どんによるphoto ACからの画像)

日中関係史

 そういう半独立状態の中で、いま「台湾有事」が叫ばれています。日中関係は、1972年に日中共同声明が発表されて国交正常化が叶い、1978年には日中平和友好条約が締結され友好の気運が育まれてきました。
 しかしその後、靖国問題や歴史教科書問題等で関係がぎくしゃくします。一旦は2006年の総理訪中で関係修復できましたが、2010年に尖閣諸島で海上保安庁の巡視船と中国の漁船が衝突する事件が発生してから、領土をめぐる日中間の対立が表面化し関係が悪化します。2014年から2018年にかけて首脳会談などが行われて再度関係修復が図られましたが、そのことが米国の逆鱗に触れ、以後中国と話をすることもできない状態に追い込まれました。
 振り返れば国交回復の際にも米国の逆鱗に触れていますね。ロッキード事件です。なぜ、中国との関係を改善しようとすると米国に睨まれるのか、じっくりと考えてみる必要があるのではないでしょうか。なお、日本の貿易相手国(2020年度)をみると、中国からの輸入シェア率は25.8%、輸出は22%でダントツトップの貿易相手国です。因みに中国からみた貿易相手国(2017年度)では、日本への輸出が6.1%、日本からの輸入も9.4%に過ぎない関係なのです。
 話を戻しますが、尖閣諸島、竹島、北方領土にみられるように領土の問題はナショナリズムを刺激します。けれども、日本の領域全てをいつでも自由に支配できる米国に対しては黙々と従っているというのでは、明らかにダブルスタンダードですね。

 (参考資料)
*[ 日中関係年表(国交正常化以降) | 在中国日本国大使館 (emb-japan.go.jp) ]
*[ 外務省: 安倍内閣総理大臣の中国訪問(概要) (mofa.go.jp) ]
*[ 5分でわかる尖閣諸島問題!日本・中国・台湾の主張、歴史をわかりやすく解説 | ホンシェルジュ (honcierge.jp) ]
*[ 尖閣諸島中国漁船衝突事件 - Wikipedia ]
*[ 尖閣漁船衝突事件の真相~仙谷由人氏が墓場まで持って行ったこと – ニッポン放送 NEWS ONLINE (1242.com) ]
*[ 参議院外交防衛委員会(第八回)伊波洋一氏 参議院インターネット審議中継 (sangiin.go.jp) ]
*[ 日中首脳会談|外務省 (mofa.go.jp) ]
*[ 安倍総理の訪中(全体概要)|外務省 (mofa.go.jp) ]
*[ 東京-北京フォーラム / 特定非営利活動法人 言論NPO【「議論の力」で強い民主主義をつくり出す】 (genron-npo.net) ]
*[ 第18回日中共同世論調査(2022年)結果 / 東京-北京フォーラム / 特定非営利活動法人 言論NPO (genron-npo.net) ]

台湾有事は日本有事

 「台湾有事は日本有事」と言われますが、日本を支配している米軍は、台湾有事となった時、どんな戦い方を計画しているのでしょう。まず最初に確認しておくべきは、第一列島線ではインサイド部隊として自衛隊らが戦い、第二列島線ではアウトサイド部隊として米軍らが支援にあたるということです。中国のミサイルが届く日本列島は自衛隊に任せて、在日米軍の殆どはミサイルが届かないところに避難するのです。
 そして、中国からの攻撃が始まったら、海兵隊の小規模部隊が南西諸島にある有人の島に飛来し、中国軍の艦船にミサイルを発射して、すぐにまた別の島に移動する作戦を実施します。中国は、当然その島を狙うでしょうが、海兵隊はすでに別の島に移動していますから被害に遭うのは住民だけなのかもしれません。米軍兵士の損耗率を下げつつ兵器の残存率を高めた上で、中国が多くの弾薬を無駄に消耗するように仕向ける事が米軍の狙いなのです。そうやって日本の領土が攻撃されたら、南西諸島に展開している陸自の基地や海自の潜水艦などから米軍の命令によってミサイルが発射され、日中戦争が勃発し、本格的に日本全国の基地やインフラ等が様々な形で狙われることになるのでしょう。合衆国大統領の命令で日本が戦争をさせられるのです。そのために安保3文書策定の中で、米軍の統合防空ミサイル防衛に自衛隊が組み込まれることになるのでしょう。

長周新聞2022年1月30日号から許可を得て転載

(参考資料)
*[ 台湾有事に日本を巻き込む日米共同作戦計画―南西諸島を再び戦禍に晒してよいか 石井暁・共同通信専任編集委員の講演より | 長周新聞 (chosyu-journal.jp) ]
*[ 日米で統合ミサイル防衛 政府、安保文書に明記へ: 日本経済新聞 (nikkei.com) ]
*[ ”安保3文書”全容判明 スタンド・オフ防衛能力に約5兆円など | NHK | 自衛隊 ]
*[ 武器買わされ戦場にされる選択 岸田政府の防衛費43兆円と大増税 米軍需産業のカモにされる日本 | 長周新聞 (chosyu-journal.jp) ]

日米安保に同盟のジレンマは存在しない

 日米安全保障条約には、「米国の戦争に巻き込まれる不安」と「日本が米国から見捨てられる不安」のいわゆる同盟のジレンマがあるとされてきました。けれども、先に述べたとおり一旦台湾有事が発生したら、「米国の戦争に巻き込まれる」ことと「日本が米国から見捨てられる」ことの両方は、不安要素ではなく確実に起こることですので、同盟のジレンマはそもそも存在しません。つまり日米安全保障条約がある限り、「台湾有事は日本有事」であり、その結果日本が焦土となることが宿命なのです。そう考えれば、日本にとって同盟を維持する意義は全くないと言えるのではないでしょうか。

同盟の宿命

日米安保の呪縛を解いて新しい日米関係を築く

 現在政府が策定を急いでいる安保3文書は、まだ「台湾有事」というスイッチが入っていないのにもかかわらず、日本自らが進んで米国の戦争に巻き込まれようとしているものです。日本の領域はどこでもミサイルの射程圏内であるはずなのに、「敵からの攻撃が届かない遠方で早期に対処する」というごまかしのもと、大枚をはたいて購入するミサイル等をわざわざ標的として差し出そうとしています。それはもはや、日米双方が微妙なバランス感覚をもって信頼関係を築こうとする努力をあきらめて、米国の言いなりになっているという事です。ウクライナの戦争を見て「自ら国を守ろうとしなければ誰も助けてくれない」等と弱者の嘆息を発しているようでは、米国になめられ見下されるのも当然です。
 国家の指導者が日米安全保障条約に縛られていたら、日本が破滅してしまいます。幸いこの条約は1年間の予告によって廃棄できることになっていますので、いつかはこの不平等な条約を破棄して真の独立を果たすという夢を見ることができます。とはいえ、米国との関係がとても重要なことは間違いありませんし、いますぐ廃棄というわけにもいかないでしょう。
 そうであるならば、日米安保体制の下であっても不平等な関係から脱却し、自他ともに尊重し合える関係を築きなおす必要があるのではないでしょうか。日本は、日本自体を尊重し、同じように米国をはじめとした世界中の国々をも尊重する。そして米国や中国等からも、日本を尊重してもらえるように対話し交渉していくのです。
 少林寺拳法では「自他共楽」といいますが、「半ばは自己の幸せを 半ばは他人の幸せを」と考え、さらには「半ばは自国の幸せを 半ばは他国の幸せを」と広げていけば、世界中の国々から尊重され、日本人を守る信頼と尊敬の安全保障を築くことができるはずです。全ての事が人によって行われている以上、意思決定に関わる人の人格や考え方如何によって結果は大きく変わります。まずは日本が「自他共楽」を追求しつつ、米国に対して是々非々を貫くことを指導者たちに求めていこうではありませんか。支配者である米国に対して明確に「ノー」と言える日本を見たら、強大な中国だって少しは日本を尊重せざるを得なくなるでしょう。
 多様で寛容な共生社会を志向する以外に、人類がこの狭い地球上で長く暮らしていく方法はないはずです。誰も敵とはみなさず、全ての人に敬意を払い、自他を共に尊重することによって真の平和を実現させましょう。

是々非々を貫くことで新たな日米関係を築き信頼と尊敬の安全保障を実現する

違いを乗り越えて

 日本をないがしろにした非合理な作戦の実施が数年後に迫っているかもしれません。主権者である私たち日本人はいかなる立場にあろうともイデオロギーや主義主張の違いを乗り越えて、「平和に暮らしたい」という共通の願いと誇りを胸に一人一人ができることをできる時に働きかけていくべき時なのではないでしょうか。右だ左だと言っている場合ではありません。
 日米安保の呪縛に囚われているこの国のひ弱な指導者たちを、米国に正面から対峙して是々非々を貫く「強くて優しい真の勇者」に変身させようではありませんか。

 この投稿(2022年12月11日)のあとで、【「台湾有事は日本有事」か?】を投稿しましたので、追記します。(2022年12月17日)

(資料追加)2022年12月22日

(資料追加)2023年9月14日

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