"それ"(筆者:あおいみかん)
「どうしたら"それ"に会えるの?」
少女は聞いた。
「そいつが、会ってもいいと思ったらだよ」
180センチをこえる体格のいいメガネの男は答えた。
その男は、それだけ言うとシャワーを浴びに、浴室へと入っていった。
夜の帳はとっくにおりていたが、少女は眠れずにいた。
ぼくは、リビングの片隅で、そのやりとりを見ていた。そして、少女が言う"それ"が、今近くに存在し、ぼくを待っているのを感じていた。
まもなくラジオの電源が勝手にオンになり、外国の歌が流れ出した。
ぼくは、すぐにラジオを消した。
「ぼくは会いたくないんだ」
そう言って、急いでカーテンを閉めた。
尿意を感じ、足早にトイレに向かったが、トイレの中に"それ"の気配を感じた。
それでも、用を足そうとトイレに入った。
便器のふたを開けた途端ふたは閉じられ、ぼくはトイレから押し出された。
明らかに怒りを感じた。
"それ"の。
ぼくは、「だから嫌なんだ」と思った。
その一部始終を少女は見ていたが、何も言わなかった。
あの大男は、シャワーを浴びにいったまま帰ってこなかった。
少女もいつのまにか、その存在を感じなくなっていた。
「みんなどこに行ったんだろう」と思ったが、とくに気にはならなかった。
2人とも誰なのか、ぼくは知らなかっから。
きっと"それ"が夢にも現れることは容易に想像がついた。
いつものことだった。
ぼくは、なすすべなくというか、仕方なくというか、"それ"と会うしかないと諦めて寝た。
案の定、何度もうなされた。
"それ"によって…。
いいなと思ったら応援しよう!
今後の活動費に使わせていただきます!