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es《エス》(筆者:あおいみかん)

無意識とは、その名の通り、意識には上らないものが納められている世界である。
意識には到底手に負えないからこそ、それらは無意識の世界に納められているのだ。

だが、何かのきっかけで、無意識の世界の扉が開くときがある。

その扉はどこにあるのか、どんな形をしているのか、誰にもわからないし、知る術もない。

もちろん、いつ開くのかも…

そして、それは、前触れもなくやってくる。


一階平屋建て。
とたん屋根の古びた家の前に、ぼくは立っていた。

屋根の上には窓がある。
窓だけが屋根の上にある。
何もないところに、窓が浮いているように存在している。

その窓から、友人が手を振っている。
誰かは、わからない。
でも、友人だということだけは、わかっていた。

その様子に、気味が悪いとは思ったが、怖いとは思わなかったし、それになんの疑問も感じなかった。

居間

玄関は、どこにも見当たらない。

「入口はどこだ?」

気がつくと、ぼくは家の中にいた。
とても狭い螺旋らせん階段があり、上に上がる。
外観は一階平屋建てだったはずなのに……。

上に上がると木の床の廊下があり、四隅を太い柱で区切られた居間があった。

その居間は、四畳半といったところだろうか。
真ん中にはちゃぶ台があり、壁には傾いた絵が飾られていた。

何が描かれているかはわからないが、ぼくはその絵に、なんとも言えない違和感を感じた。

悪寒

確かに外から見た時は、友人が窓から手を振っていた。
知らない友人が。
だけど、ここには誰もいないし、窓もない。

不気味に感じると同時に、ブルッと体が反応する。

こわ

ぼくはそこを離れた。

次の瞬間、ぼくは階段を一歩一歩降りていた。

薄暗い階段だった。

途中、踊り場があり、逆向きに降りていく。
ぼくは、階段の途中で立ち止まった。

階段を降り切ったところに、半開きの扉があるのが見えた。

その扉の先から感じる何かに、ぼくは、感じたことことのない恐怖を感じ、足がすくんだ。

なんとも言えない感覚が体をつつむ。

半開きの扉の先から漂う重苦しい雰囲気。

その扉の先に、ぼくを待っている誰かがいる。
確かにその存在を、ぼくは、ひしひしと感じた。

だけど、今はその部屋に入ってはいけないと思った。
その感覚を"おそれ"というのが適当かはわからないが、それがぼくにそう伝えているように感じた。

実家

気がつくと、ぼくは実家の妹の部屋にいた。
そこは過去に妹の部屋だったという意味で、その妹はとついでいて、今はいない。

他の家族も誰もいない様子だった。
というか、その部屋以外の部屋も、それ以外の何もかも存在せず、ただその部屋だけがそこにあるようだった。

実家は二階平家建ての3LDKで、あと納戸なんどがあった。

元、妹の部屋だったその部屋は、北と東に出窓がある角部屋で、窓は取手をぐるぐると回すことで開閉ができる。

その窓は、半開きになっていた。

窓の外は、本来なら、北側には郵便局、東側には白い家があるはずだが、窓から見えるのは、“灰色”だけだった。

次の瞬間、ピカッっと光り、一瞬目の前が白くなった。
その光とほぼ同時に、雷鳴がとどろく。

「逃げたんじゃない」
ぼくは、咄嗟とっさに、心の中でそう言った。

きっと、あの扉の中の"存在"に向かって…。

次の瞬間、とてつもない恐怖に襲われた。

夢かうつつ

ぼくは、肩をドンドンと叩く感触とともに目を覚ました。
「誰だ?」
部屋には、誰もいない。
ぼくは、目が覚めても、その恐怖を感じ続けていた。

こういうことは、初めてではなかった。

大抵は、その後に金縛りに襲われることになる。
お経のようなものが地響きのように聞こえて来て、その声とも音ともいえるモノの音量が次第に大きくなっていき、カタチないものに少しずつ押さえつけられていった。

それは見えないけれど、その存在を感じることはできた。
それに、性別も、大きさも、姿形すがたかたちさえもわかった。

でも今回は、今までそれとはそのレベルが違った。
桁外れの恐怖が、ものすごい速さで、ぼくの心の世界を染めていった。

「速い⁉︎」

悪寒とともに、ゾクゾクとした感覚が、身体の末端から動きを封じていく。

本能というものがあるとしたら、おそらくそれが「危険」だと、ぼくに伝えてきた。

「動け!!!!!」

ぼくは、心の中でそう叫んだ。
なんとか体を動かそうと、必死でもがいた。

「動いた!」

縛られかけた金縛りを逃れたぼくは、やっとの思いで立ち上がり、自分の部屋を出て、両親の眠る部屋に向かった。

そして、両親の眠るその部屋の隅に、膝を抱えるようにして、ぼくは横になった。

間も無くぼくは、夢の世界へ戻っていった。

記憶

次に目が覚めたときには、朝日がカーテンの隙間から、その光をのぞかせていた。

「朝だ」

カーテンを開けると眩しい光が、ぼくの目を閉じさせた。

まぶたの裏に、昨夜の記憶がよぎる。
確かに体験した……。
あの嫌な感覚が体をつつむ。
それは、あの存在がぼくに、"存在の実存"を伝えているのだと感じるには十分じゅうぶんだった。

ぼくは、ゆっくりと目をあけた。

それから…

「半開きだったあの扉は、今も開いているのだろうか」
今でも、ふと、そう思うことがある。
でも、ぼくにはそれを知るすべはない。

あれ以来、ぼくは、あの家には、行っていない。

ただ、“あの扉”が頭をよぎぎるたび、あの部屋の中の“存在”が、「忘れるな」と言っているようにも思うのだ。


                                        あおいみかん™︎

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