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【おしえて!キャプテン】#32 『シークレット・インベージョン』の脅威、変幻自在の宇宙人 スクラル

キャプテンYことアメコミ翻訳者・ライターの吉川悠さんによる連載コラム。今回のテーマは読者の方からいただいた「『シークレット・インベージョン』に登場するスクラル人はどんな宇宙人なの?」という質問にお答えいただきました。


スクラル人とは?

今回のご質問はスクラル人についてですね。マーベル・ユニバースに登場する宇宙人の中でも、おそらく最も存在感の強い種族で、主に敵役として登場します。

簡単に説明すると、スクラルとはあらゆる姿に変身する能力を持つエイリアン種族で、強大な星間国家であるスクラル帝国を構成しています。地球人に姿を変えて潜入し、侵略の機会をうかがってるというのが一般的なイメージでしょう。もっともこのスクラルは、歴史を重ねるにつれて単なる侵略エイリアンから、背景豊かで独自のドラマを持つ種族へと変わってきました。今回はその過程についてご紹介しましょう。

▲スクラル人が登場するドラマ『シークレット・インベージョン』はDisney+で配信中。

スクラルの歴史

スクラルの初登場は1962年の『Fantastic Four』#2です。彼らはスタン・リーとジャック・カービーの手によって作られました。この号では4人のスクラル人が現れ、ファンタスティック・フォー(以下FF)の面々に変身して様々な悪事(万引きを含む……)を働き、彼らに濡れ衣を着せようとします。こうした「姿を変えた宇宙人が我々の中に入り込んでいる」というテーマは、1955年のSF小説『盗まれた街』(早川書房刊)によってメジャーになったようです。ちょうど東西冷戦期で「自分たちの隣人が、ひょっとしたら東側のスパイなのでは……?」と不安になる、パラノイア的な時代の空気とも相まって大きな反響を得たと言われています。スクラルもその影響を受けて創作された可能性は大いにありますね。

あっ! あの有名なファンタスティック・フォーの
インビジブル・ガール(スー・ストーム)が万引きをするなんて!

スクラルが2回目に登場したのは、『Fantastic Four』#18です。ここではファンタスティック・フォーの能力を全て持つ強敵のスーパースクラル、スクラル帝国とその皇帝、そして母星ターナックスIVが登場します。当初4人しか登場しなかった怪しい宇宙人は、こうして背景が急速に膨らんでいったのです。

受け継がれるアイデア

その後、リーとカービーが離れた後も、続くクリエイターたちによってスクラルの設定は急速に進化していきます。1970年代の『Avengers』誌で展開された通称「Kree/Skrull War」編では、スクラルの新たな面が描かれます。スクラル帝国は、別途描かれてきたもう一つの星間国家クリーと実は対立していたのだ……という背景がここで明らかになったのです。

さらに通称「Celestial Madonna Saga」編では、クリーとスクラルの対立の原因が、征服者カーンの陰謀を交えて壮大に語られます。さらに80年代になると『Silver Surfer』誌でスクラル誕生の背景にはセレスティアルズが関わっていたと設定されました。他にも、母星ターナックスIVがギャラクタスによって破壊されたり、異次元からの侵略軍アナイアレーション・ウェーブに壊滅させられるなどのドラマが積み重ねられていきます。

こうして物語と設定が重ねられて、スクラルはマーベル・ユニバースに欠かせない存在になり、2008年のコミック『Secret Invasion』でその歴史は一旦クライマックスを迎えます。ドラマ版はタイトルこそ同じでスクラルを扱っていること以外は大きくアレンジされていますが、自分たちの周りに正体を隠した何者かが潜んでいる……という不安は時代を超えて訴えかけるものがあるようですね。

その後のスクラル

スクラルの歴史はいまも積み重ねられています。
2019年の『Meet The Skrulls』は普通の家庭に化けて地球に潜入したスクラルの“家族”を描いた異色作です。これは東西冷戦の末期を舞台にしたTVドラマ『ジ・アメリカンズ 極秘潜入スパイ』の影響を強く受けた作品ですが、スクラル誕生の背景に東西冷戦の影響があった可能性を考えると、原点回帰と言えるかもしれません。ここで登場したスクラルの女性、ガイアはアレンジされてドラマ『シークレット・インベージョン』に取り入れられています。

2020年には、クリー=スクラル二重帝国が誕生して前述の「Celestial Maddona Saga」編の決着をつけるという内容の『Empyre』が刊行されました。こちらでは、ヤング・アベンジャーズのあるメンバーがその運命を成就させることに……(2023年10月ShoPro Booksより邦訳版が刊行予定)。

スタン・リーとジャック・カービーが考えだしたスクラルは、イマジネーションを刺激する悪役でした。そこへ後進の作家たちがアイデアを整理し、互いに関連づけ、その上で新たな物語を語っていくことで豊かな歴史と設定を持つ種族へと進化したのです。スクラルの表現がたどってきた過程は、クリエイターたちのアイデアを誰かが引き継いでいくことでマーベル・ユニバースが育ってきたということが、よくわかる一例と言えるでしょう。

◆筆者プロフィール
吉川 悠
翻訳家、ライター。アメコミ関連の記事執筆を行いながらコミック及びアナログゲーム翻訳を手がける。訳書近刊に『コズミック・ゴーストライダー:ベビーサノス・マスト・ダイ』『スパイダーマン:スパイダーアイランド』(いずれも小社刊)など。Twitterでは「キャプテンY」の名義で活動中(ID:@Captain_Y1)。

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