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映画公開前に知っておきたい アンチヒーロー『ブラックアダム』の歴史

今回はロック様ことドウェイン・ジョンソン主演の映画『ブラックアダム』公開に合わせ、DCコミックスのキャラクター「ブラックアダム」の基本的な設定と歴史を、オススメのコミックと共に紹介していきます。

文:傭兵ペンギン

ブラックアダムの歴史

ブラックアダムことテス・アダムはその見た目から想像できるかもしれませんが、先に映画にもなったDCコミックスのヒーロー「シャザム」のヴィランであり、時にアンチヒーローとしてヒーローたちと共闘する姿も描かれてきたキャラクター。
 
いろいろなストーリーの中で設定は変化していきましたが、基本的なところとしてはシャザムと同じくウィザードによってヒーローとなるべく絶大な力を与えられたものの、力を悪用したことでウィザードによって長きにわたり放逐ないしは封印されていたというヴィラン。シャザムと同レベルの魔法ベースのスーパーパワーを持っているという設定で、2019年の映画『シャザム! 』の中で軽く言及されていた、シャザムの前任者がブラックアダムです。

その歴史は本当に長く、デビューは第二次世界大戦が終わったばかりの1945年12月に刊行されたフォーセット・コミックスの『The Marvel Family』#1。後に「シャザム」という名前で知られることになるスーパーヒーロー「キャプテン・マーベル」と、その家族のヒーローチーム「マーベル・ファミリー」の敵として、アーティストのC・C・ベックとライターのビル・パーカーによって生み出されました。
 
ちなみにブラックアダムはその初登場号で、数千年の時を経て地球へと舞い戻りマーベル・ファミリーの面々を圧倒するも、ダドリーおじさん(マーベル・ファミリーの付き人的な役回りを務める常人の中年男性。親戚ではない)の策にはまり、肉体が朽ちて死んでいくというデビュー&退場を果たしたキャラクターでした。

『The Marvel Family #1』は、2022年11月25日発売予定
『ブラックアダム/JSA:ブラックレイン』に収録。

ちなみにフォーセット・コミックスは1939年からコミックの展開を始めたアメリカの出版社フォーセット・パブリケーションズの一部門。看板キャラクターとなる「キャプテン・マーベル」が人気を集め、スーパーマンよりも先に実写映画化(連続活劇)が実現するも、50年代に入るとコミックの展開を終了。
 
しかしそれから約20年後、フォーセット・コミックスのかつてのライバルだったDCコミックスが「キャプテン・マーベル」の権利を取得し、1973年から彼を主人公とする『Shazam!』誌をスタート。ブラックアダムは1977年の『Shazam!』#28で復活を果たし、それ以降、キャプテン・マーベル/シャザムの敵キャラとしてだけでなく、DCコミックスの世界の中で強大なパワーを持ったヴィランとして様々なヒーローと対峙していきます。
 
こんなブラックアダムの基本的な設定を知りたければ、刊行順的にはだいぶ後のものなのですが、シャザムの誕生のストーリーを描いたエピソードをまとめ、ShoPro Booksから邦訳版が刊行された『シャザム!:魔法の守護者 』がオススメ。シャザムのヴィランであるブラックアダムの誕生のストーリーも合わせて描かれるだけでなく、映画『シャザム!』の元ネタともなった作品です。

アンチヒーロー路線へ

それから1999年からスタートした『JSA』誌の中での展開でブラックアダムは改心し、同誌の主人公であるヒーローチームのジャスティス・ソサエティ・オブ・アメリカ(JSA)に加入。その中で実は北アフリカの国カーンダック出身で、ウィザードによって神々の力を与えられるも、故郷と家族をスーパーヴィランによって奪われたこと怒り狂い暴力的な方法で故郷の奪還を試みてしまったため、それを危険視したウィザードに力を奪われて殺されていたのだった……という過去が明らかとなり(言い換えれば設定が変更され)、殺しさえもいとわないアンチヒーローといった立ち位置のキャラクターとなっていきました。
 
そんなわけで、ブラックアダムがヒーローチームの一員としてやっていくのはあまりうまくいきませんでした。後に共に活動する中で親友となったヒーローのアトム・スマッシャーと共にジャスティス・ソサエティを抜け、手段を選ばす正義をなす新たなチームを作り出し、現在のカーンダックを支配する軍事独裁政権の打倒を試みて、ジャスティス・ソサエティと対決していくことに……。
 
……というJSA脱退後のブラックアダムのストーリーが、今度邦訳版としてShoPro Booksから刊行となる『ブラックアダム/JSA:ブラックレイン』に収録されています。映画『ブラックアダム』の大枠のストーリーの下敷きになったと言える作品で、コミック版のブラックアダムがどんな感じかを知りたいという人はまずここからチェックしてみると良いでしょう! 映画とはそれなりに差があるので、そこを含めて楽しめるはず。

 また今作には映画にも登場するジャスティス・ソサエティの魅力的なキャラクターも色々出てくるので、その予習にも良いでしょう。ちなみに、もう少し詳しくジャスティス・ソサエティについて知りたいという人は、ShoPro Booksから刊行中の『JLA/JSA:欲望と希望の狂宴』も合わせてチェックするのがオススメです(時系列としては、『ブラック・レイン』の少し前の出来事となります)。

 ところで、ここまで紹介した『ブラックアダム/JSA:ブラックレイン』、『JLA/JSA:欲望と希望の狂宴』、そして『シャザム!:魔法の守護者 』はどれもライターとしてジェフ・ジョーンズが参加している作品。彼はDCコミックスの主要な作家として多くのイベントを手掛けたうえ、かつてDCエンターテインメントの社長兼チーフクリエイティブオフィサーも努め、近年のDCの映画やドラマでは脚本にも加わっている……という、かなりの重要人物。

最近のブラックアダム

映画にもなったコミック『ウォッチメン』の続編として2017年から始まった『Doomsday Clock』誌での展開で起こった世界各国が超人を雇うという軍拡競争の中で、ブラックアダムは国に認められなかった超人たちをカーンダックに招き入れながら他国や国連への攻撃を開始し、大きな紛争を巻き起こしていきます(こちらはShoPro Booksから『ドゥームズデイ・クロック』という題で邦訳版が刊行されています。ちなみにこれもジェフ・ジョーンズ作品)。

 といった具合で最近はだいぶヴィラン寄りの姿も見せていたのですが、2021年の『Justice League 』#59の中で、ブラックアダムは死んだ妻のアドリアナの教えを思い出し改心をし始め、スーパーマンに誘われてジャスティス・リーグと共闘し、最終的にその正式なメンバーとなりました。
 
また2022年7月からはブラックアダムが単独主人公の12話完結のリミテッドシリーズ『Black Adam』誌がスタート。こちらはブラックパンサーの記事でも紹介したライターのクリストファー・プリーストの作品で、病に侵されていることがわかったブラックアダムことテス・アダムが、自分の遠縁の子孫である若き医学生のマリク・ホワイトを自分の後継者として育てながら死ぬ前に過去の罪の償いをしようというストーリー。

 まだストーリーは半ばなのですが、今までのブラックアダムとはまた一味違ったキャラクターの描き方をしながら、北アフリカのカーンダックという国の設定を現代的に掘り下げ、ユーモアも交えたシリーズとなっています。映画の公開に合わせて始まった企画だと思うのですが、守りに入ってない攻めた内容になっているのが、クリストファー・プリーストらしいところ。ブラックアダムのコミックを初めて手に取るタイトルとして、読みやすいかといわれるとあまりそうではない気もするのですが、コミックファンにはぜひチェックしてみて欲しい作品となっています。

『ブラックアダム/JSA:ブラックレイン』
2022年11月25日発売予定
ジェフ・ジョーンズ[作]ラグス・モラレス[画]内藤真代[訳]

映画『ブラックアダム』は12月2日から全国公開予定。それまでにぜひコミックをチェックして、ロック様演じる映画版との違いをたっぷりと味わってみてください!

傭兵ペンギン
ライター/翻訳者。映画、アメコミ、ゲーム関連の執筆、インタビューと翻訳を手掛ける。『ゴリアテ・ガールズ』(ComiXology刊)、『マーベル・エンサイクロペディア』などを翻訳。
@Sir_Motor

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