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【映画公開記念】バットマン映像化の歴史とコミックスの歩み(前編)

DCコミックスの映画最新作『THE BATMAN-ザ・バットマン-』、めちゃくちゃ楽しみですね。一足先に公開された海外では非常に好評で、興行成績もコロナ禍にもかかわらずかなり好調な様子。

先日発売となった『バットマン:エゴ』は、そんな『ザ・バットマン』に影響を与えたというコミックのひとつなのですが、今回はその刊行を記念して、バットマンの映画の歴史と、それに影響を与えてきたコミック作品を紹介していきます。

『バットマン:エゴ』の表紙。
映画『ザ・バットマン』のインスピレーション元となった超話題作です!

文:傭兵ペンギン

連続活劇バットマン&TVシリーズの映画版

バットマンの初の映画化は、今から79年前の1943年に公開された『バットマン』でした。

バットマンは1939年に初登場したキャラクターなので、結構な早さでの映画化。ちなみに、この映画はいわゆる連続活劇と呼ばれるもので、各15分〜25分程度の短いチャプターで構成された今のTVドラマのような形で新しい章が毎週上映されるという、当時はポピュラーな形式のものでした。

太平洋戦争の真っ只中で上映された作品ということで、主なストーリーはバットマンとロビンが日本の工作員と戦うという内容です。直接的にベースになったコミックスがあるわけではないものの、同年に発売された作品では、バットマンが表紙で機関銃を撃っていたり、(想定される未来の中で)ナチスと戦うというエピソードもあったりしました(Batman #15)。

それはともかく、実はこの連続活劇はバットズ・ケイブと呼ばれるバットマンの秘密基地が登場し、それが後にコミックに導入され、今やおなじみの「バットケイブ」となりました。この連続活劇の段階で柱時計が入口になっていたりと、今でも定番の設定がすでに登場しています。

またバットマン/ブルース・ウェインの執事であるアルフレッドはコミックではふくよかな男性として描かれてきていたのですが、この連続活劇でアルフレッドを演じたウィリアム・オースティンは細身で細い口ひげを貯えています。そのイメージはコミックスにも導入され、今では定番になっていますね。こういった形でバットマンのコミックと映画は一作目から関係深いものでした。

連続活劇は好評で戦後の1949年に続編『バットマン・アンド・ロビン』が制作されるも、それからはしばらく映画は作られず。1960年代にはバットマンの自体の人気も落ち始め、危うく打ち切りになるほどだったのだとか。

そこでDCコミックスでは、人気回復を狙ってコスチュームのデザインを変え、エース(バットマンの犬)やバットマイトといったキャラクターを退場させて、ストーリーも犯罪と戦う探偵モノへの原点回帰を始めました。

しかし、1966年から始まったTVシリーズの『バットマン』が大ヒットし、コミックの売上は回復。同年にはその映画版『バットマン/オリジナル・ムービー』が作られました。同シリーズは一応探偵モノではあるものの、かつてのコミックスのようなポップで底抜けに明るいトーンの作品で、日本でも放送され、桑田次郎氏によるマンガ版も展開されました。

ここで突然個人的な話になってしまいますが、この映画『バットマン/オリジナル・ムービー』は筆者が子供の頃、後で紹介する90年代のバットマン映画と同じくVHSでめちゃくちゃな回数を観た映画のひとつで、非常に思い出深い作品。本当にバカバカしいことが起こり続けますが、最近のバットマンからは摂取できない独特の面白さがあり、コミックをはじめ、様々なところでネタとして引用されているので、ぜひ一度は観るのをオススメしたい一本です!

ちなみに、最近ではドラマ『タイタンズ』などに登場しHBO Maxで単独映画が公開予定のバットガールことバーバラ・ゴードンが初登場したのは、コミックではなくこちらのドラマシリーズが先です。女性視聴者の獲得を狙って作られたキャラクターが人気となり、すぐにコミックに登場しました。今ではかなり長い歴史を持った人気キャラとなっています。

『ダークナイト』と『キリングジョーク』の影響力

ドラマが終わるとバットマンのコミックスの人気はまた陰りを見せ始めます。しかし70年代に入り、デニス・オニールとニール・アダムスが原点回帰を試みてドラマに寄せたコミカルさを排除し、かなりシリアス路線になって人気が回復。

バットマンの代表的なヴィランであり、映画やドラマでもおなじみのラーズ・アル・グールが初登場したり、ジョーカーを狂気の殺人鬼として再登場させたのもこのオニールとアダムスの時期でした。すべてを二人で担当したわけではないのですが、今のダークでストイックなバットマン像は、彼らの担当期の影響がとにかく大きいのです。70年代は映画こそ作られなかったものの、今に続く映画のバットマン像はこのあたりでだいぶ固まってきたとも言えるでしょう。

そして80年代に入るとその路線を継承する形で、フランク・ミラーが手掛けた『バットマン:ダークナイト・リターンズ』(1986年。邦訳版はShoPro Booksの『DARK KNIGHT バットマン:ダークナイト』に収録)が刊行され、記録的な大ヒット作となります。これは「年老いて引退状態だったバットマンが、再びゴッサムを救うために老体に鞭打って奮闘する」という未来を描いたミニシリーズでした。

それから2年後の1988年に、アラン・ムーアとブライアン・ボランドが、ジョーカーの悲劇的な過去とその心理を描いた『バットマン:キリングジョーク』(邦訳版はShoPro Booksより刊行中)が発売され、こちらも大ヒット。

『バットマン:ダークナイト・リターンズ』『バットマン:キリングジョーク』はとにかく後の作品への影響が大きい作品で、コミックはもちろん映画にも多大なる影響を与え、繰り返し引用されていきます。

ティム・バートン版『バットマン』公開!

そんな中で誕生した最初の映画が1989年のティム・バートン監督による『バットマン』です。そもそもこの映画の企画をワーナーが承諾したのも『バットマン:ダークナイト・リターンズ』の大成功で、ダークな路線なら映画化できるだろうと判断したためだと言われています。

ちなみに映画は活動初期のバットマンとジョーカーの対決を描いたもので、『バットマン:ダークナイト・リターンズ』とではだいぶ印象が違うかと思いますが、ブルース・ウェインの母であるマーサ・ウェインが殺されるシーンで真珠のネックレスが飛び散る印象的なカットは、『バットマン:ダークナイト・リターンズ』からの直接の引用だったりと、その影響が見て取れます。

一方でジョーカーのその悲劇的な誕生秘話を時間をかけて描いたあたりには『バットマン:キリングジョーク』の影響が感じられるとも言えなくはないですが、同作の刊行の段階で映画の撮影がすでに始まっていたので、直接の関係はないはずです。しかし、子供の頃にコミックは読まなかったというティム・バートンは『バットマン:キリングジョーク』を一番最初に気に入ったコミックだと後に語っていて、やはり少なからず影響を受けていたようです。

そして1992年には映画の続編で、ペンギンとキャットウーマンが登場する『バットマン・リターンズ』が公開され、さらにアニメ『バットマン』がスタートし、どちらも凄まじい人気を獲得することとなりました。

この映画の大ヒットは、今に続くスーパーヒーロー映画の大ブームの基盤を作りました。一方、アニメもまたミスター・フリーズの設定を大きく変えたり、ハーレイ・クインなどの新キャラクターを生み出し、それらがコミックに逆輸入され、大きな影響を与えることとなりました。

そこから1995年に今度は(あまり繋がりが強くない)続編としてジョエル・シュマッカー監督による映画『バットマン・フォーエバー』と、1997年にさらなる続編『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』が公開されます。

ティム・バートン版とは味の違うダークでありながらド派手なスタイルで、これもまた一見するとクラシックな明るいバットマンの影響が強いように見えますが、関係者のインタビューによると草稿の段階では『バットマン:ダークナイト・リターンズ』などからの直接の引用が行われていたのだとか。

この二作品はコミックとの関連性があまりない作品なのですが、一方でおもちゃなどの関連商品を売ることを強く狙っているのが特徴です。その目線で見ると、非常に興味深いものとなっています。

さて、長くなってしまったので続きは次回お届けします。また来週、『ザ・バットマン』の公開後にお会いしましょう!

傭兵ペンギン
ライター/翻訳者。映画、アメコミ、ゲーム関連の執筆、インタビューと翻訳を手掛ける。『ゴリアテ・ガールズ』(ComiXology刊)、『マーベル・エンサイクロペディア』などを翻訳。
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