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マーベル・ユニバースにおける重要種族「スクラル」と「クリー」の秘密に迫る!!

マーベルをする代表する二大ヒーローチーム、アベンジャーズとファンタスティック・フォー。宇宙を股にかけた、両チームの壮大な冒険を描く大作コミック『アベンジャーズ/ファンタスティック・フォー:エンパイヤ』が10月26日に発売されます。今回はそれを記念し、翻訳者の石川裕人さんによる解説記事をお届けしましょう。テーマは、同作で重要な役割を果たし、MCUでも存在感を増している二つの宇宙種族「スクラル」と「クリー」についてです。

文:石川裕人

マーベル・ユニバースに住まう異星人

ニューヨークの路地裏からアスガルドの王宮、金属生命体の惑星まで、世界観の幅の広さにおいては右に出る者のいないマーベル・ユニバースだが、そこに住まう異星人の多様さもその大きな魅力の一つと言えるだろう。その代表格が、MCUでも重要な位置を占めるスクラルとクリーの二大列強種族だ。
今回、発売になる『アベンジャーズ/ファンタスティック・フォー:エンパイヤ』は、そんな両者の長年の因縁に一つの区切りがつく記念碑的作品となるが、『エンパイヤ』を読む上で知っておきたいクリーとスクラル、そして、第三勢力となる植物人種コタティの歴史をまとめてみよう。

日本語版『アベンジャーズ/ファンタスティック・フォー:エンパイヤ』
アル・ユーイング&ダン・スロット【作】、ヴァレリオ・スキーティ他【画】、石川裕人【訳】
10月26日発売

小柄な体に似合わぬ巨大な眼と耳、そして肌は緑と、いわゆる「リトルグリーンメン」を地で行くスクラルの初登場は、『ファンタスティック・フォー』Vol.1 #2(1/1962)

『ファンタスティック・フォー』Vol.1 #2(1/1962)

マーベル・コミックスがスタートして実に2冊目で登場という古参キャラで、巨大怪獣や宇宙人が闊歩していたアトラス・コミックス時代の名残を感じさせるスクラル。変身能力という厄介な力を持つ難敵だったものの、最後は牛に変身させた上に催眠術で記憶を奪って牧場に放すという、なんとも人を食ったラストだったのが、それまでのコミックと一味違うマーベルらしい(らしいと言えば、後に、このスクラル牛を知らずに食べてしまった人々が主人公の『スクラル・キル・クルー』というシリーズが刊行され、そのライターがグラント・モリソン&マーク・ミラーだったというのもいかにも)。

『スクラル・キル・クルー』1(9/1995)

2度目の対決では、ファンスティック・フォー(FF)の4人のパワーを合わせ持つ強敵スーパースクラルが登場(『ファンタスティック・フォー』Vol.1 #18(9/1963)での出来事)。

『ファンタスティック・フォー』Vol.1 #18(9/1963)

マーベル初の異星人ヒーロー誕生

以後、FFとスクラルの戦いが続く中、前哨ロボットのセントリーとFFの衝突を機に、セントリーの主であるクリーが登場(『ファンタスティック・フォー』Vol.1 64-#65(7-8/1967)での出来事)。いかにも宇宙人らしいスクラルに対し、見た目的には人間と変わらないクリーの登場は、マーベル初の異星人ヒーローの誕生に繋がっていく

『ファンタスティック・フォー』Vol.1 #64(7/1967)
『ファンタスティック・フォー』Vol.1 #65(8/1967)

『マーベル・スーパーヒーローズ』Vol.1 #12(12/1967)で初登場したキャプテン・マーベル(マー゠ベル)がそれで、人類のさらなる調査のためにスパイとして送り込まれたクリー軍のマー゠ベル大尉が、FFに破壊されたセントリーの暴走をきっかけに周囲からヒーロー視されるようになり、NASAの保安部長キャロル・ダンバースとの出会いを機に地球に愛着を持つようになった彼は(マー゠ベル大尉としての“キャプテン・マーベル”の呼びかけが、周囲の人々にヒーロー名と勘違いされたという、翻訳者泣かせのシチュエーション)、裏切者の汚名を着せられながらも、ヒーロー、キャプテン・マーベルとして戦うようになる。

『マーベル・スーパーヒーローズ』Vol.1 #12(12/1967)

記念すべきマーベル初の宇宙人ヒーローでありながら、不遇と言わざるを得ないヒーロー人生を送ったキャプテン・マーベルの詳細については別の機会に譲るとして、特筆すべきは、キャプテンの4話目の登場となる『キャプテン・マーベル』Vol.1 #2(4/1968)において、クリーの地球潜入を知ったスクラル皇帝がスーパースクラルを送り込み、クリーとスクラルが対立関係にあることが明らかになった点である。

百万年に及ぶ宇宙戦争

どちらも人類の敵であるクリーとスクラルが、人類の及びもつかないところで戦い続けているという設定は、マーベル・ユニバースの広がりを実感させるものであった。その数年後、この設定は、マーベル史に残る名作「クリー/スクラル・ウォー」として結実する(『アベンジャーズ』Vol.1 #89-97(6/1971-3/1972)での出来事)。

『アベンジャーズ』Vol.1 #89(6/1971)

かくしてクリーとスクラルの百万年にも及ぶ宇宙戦争の存在が明らかになったものの、その起源が明かされたのは、その数年後の『アベンジャーズ』Vol.1 #133(3/1975)においてだった。その号の回想によれば、百万年前のクリーはまだ穴居人の段階であり、新たな貿易相手を求めてクリーの母星ハラを訪れたスクラルは、同じくハラに住む植物人種コタティとクリーを競わせ、勝者に自身の文明を授けようと決断する

『アベンジャーズ』Vol.1 #133(3/1975)

こうして地球の月に連れてこられたクリーの一団は、(スクラルが用意した生存可能な環境に)近未来都市を築いてみせ、勝利を確信した。ところが軍配は不埒な欲望とは無縁なコタティが造った庭園に上がり、逆上したクリーはコタティを虐殺。スクラルの宇宙船を奪うと、急速に文明を発達させた。こうしてライバル関係となったクリーとスクラルは、軍事国家として覇を競うようになったというのだ。

一方、絶滅したと思われていたコタティは、平和主義者のクリーの手で保護され、一行は地球に移り住み、ベトナム奥地に寺院を築いていた。この寺院で育ったのが、拳法の達人である異色のアベンジャー、マンティスであり、そんな彼女と結ばれたのが、ヴィランから転じたアベンジャー、ソーズマンだった。

『アベンジャーズ』#144(8/1973)の表紙を飾った
マンティス(右)とソーズマン(左)
『ジャイアントサイズ・アベンジャーズ』(5/1975)で
マンティスとソーズマンは結ばれた

マンティスとソーズマンについては『エンパイヤ』本編の筋書きに深く関わってくるため詳細な説明は避けるが、アベンジャーズ史上でも指折りといえるほど複雑なこの設定は、新旧二人のキャプテン・アメリカを激突させ(小社刊『ベスト・オブ・キャプテン・アメリカ』参照)、合衆国大統領を悪の首領に据えるなど、問題作を連発していたライター、スティーブ・エングルハートによるもの。彼の脚本にはベトナム戦争、東洋思想などが反映されており、いかにも彼らしい設定だと言える。

『キャプテン・アメリカ』(12/1972)
日本語版『ベスト・オブ・キャプテン・アメリカ』
好評発売中

ちなみに、MCUではガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの癒し系という印象のマンティスだが、コミックでは猛々しい東洋の猛女という、古典新聞漫画『テリーと海賊』のドラゴンレディの系譜に連なるイメージであり、本作では、幾分、丸くなったものの、当時の片鱗を見せてくれる。

1934年から1973年という長期間に渡って連載された
コミック『テリーと海賊』に登場するドラゴンレディ
『アベンジャーズ/ファンタスティック・フォー:エンパイヤ』のマンティス

苦難の歴史を経て、戦争終結へ?

さて、マーベル宇宙を二分する二大列強となったクリーとスクラルだったが、以後はどちらも茨の道を歩むことになる。主星を失い、内戦に苦しみ、スクラルが引き起こした「シークレット・インベージョン」事件も、彼らの置かれた苦境を覆さんがためだった。

『シークレット・インベージョン』#1(6/2008)

そんなクリーとスクラルの苦難の歴史に終止符を打つ、両者の未来を担う存在として登場したのが、ヤング・アベンジャーズのハルクリングだった。かのキャプテン・マーベルとスクラル王妃の間に生まれたハルクリングはクリーとスクラルの血を引く身であり、両者の歴史を変える存在として期待された。

日本語版『ヤング・アベンジャーズ:サイドキックス』
好評発売中

またハルクリングは、チームメイトのウィッカンと交際しており、マーベルにおける同性カップルの嚆矢として、その行く末も注目された。ハルクリングとヤング・アベンジャーズの活躍は小社の翻訳シリーズを参照していただくとして、本作『エンパイヤ』では、クリー/スクラルの盟主として、そしてウィッカンのパートナーとして、ハルクリングの物語に一つの句読点が打たれることになる。

ハルクリングとウィッカンを待つ未来とは?

以上のように、クリー、スクラル、コタティの3種族の百万年に及ぶ因縁と、ハルクリングという波乱万丈の人生を運命づけられた青年の人生が邂逅する『エンパイヤ』では、アベンジャーズ、ファンタスティック・フォーという二大ヒーローチームに加え、マンティス、ソーズマンの二人、つまりは地球の人類が大局を左右する重要な役目を果たすことになる。

一方で純粋なヒーローコミックとしても、銀河列強種族の思惑に弄ばれたあげく、残る9分間で二通りの地球滅亡の危機を回避しなかればならないという瀬戸際まで追い詰められたヒーロー達の大反撃という、いやがうえにも盛り上がるシチュエーションの『エンパイヤ』。マーベルならではのヒーローコミックの魅力を、ぜひ堪能していただきたい。

『アベンジャーズ/ファンタスティック・フォー:エンパイヤ』
銀河列強種族たるクリーとスクラル、100万年に及んだ両者の星間戦争についに終止符が打たれる時が来た。両種族の血を引くハルクリングを新皇帝に戴き、クリーとスクラルが固き同盟を結んだのだ。だが大戦の終結は、次なる騒乱の幕開けでしかなかった……!

石川裕人
翻訳家。1993年よりアメコミの邦訳に関わり、数多くの作品の翻訳・プロデュースを手がけている。

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