見出し画像

ヴィランなの? ヒーローなの? マーベル・ユニバースのトリックスター、ロキの歩みを探る!

文:傭兵ペンギン

マーベルのスーパーヴィラン「ロキ」と言えば、マーベル・シネマティック・ユニバースでは2011年の『マイティ・ソー』、2012年の『アベンジャーズ』と立て続けにメインのヴィランを努め、今やMCUの看板キャラクターの一人。今年はついに待望の単独ドラマ・シリーズ『ロキ』もDisney+で始まり、続きもかなり気になるところ。

そんな具合でロキはMCUファンにはすっかりおなじみのキャラクターで、ドラマ『ロキ』では彼のいろんな側面が垣間見えましたが、コミックではさらに奇抜な展開が盛り沢山なのです。今回はそんなコミックでの歴史/設定をごくごく簡単に紹介していきます。もしかすると今後のドラマや映画でコミックのネタが拾われていくかも……?

アベンジャーズを結成に導くスーパーヴィラン

ロキのマーベル・コミックス系での厳密な初登場はマーベル・コミックスの前身であるタイムリー・コミックスの1949年の『Venus』誌#6なのですが、皆さんのよく知るソーにヴィランであるロキが正式に初登場するのはマーベル・コミックスの1962年の『Journey into Mystery』誌の#85。

スタン・リーとラリー・リーバー(スタンの兄)がライター、ジャック・カービーがペンシラーを努めた同誌で、ロキはソーのヴィランとして登場。緑色の服を着て大きな角のついたヘルメットを被っているという定番の見た目はすでにこの頃から導入されていました。

しかし、ソーとロキの物語の魅力の大きなパートである兄弟という関係はこの段階では導入されておらず、その設定は1963年の『Journey into Mystery』誌の#94で登場したものでした。ちなみに北欧神話ではソーとロキは兄弟ではないので、マーベルのオリジナル要素なのです。

それから1963年の『Avengers』の記念すべき第1号で、ソーを倒そうとハルクを操ることを試みて結果としてアベンジャーズの結成のきっかけを作り出してしまうのでした。このあたりは緩やかに映画に採用されている展開ですね。

基本的にはロキはソーの宿敵であり続けますが、スルトがアスガルドを破壊しようとした際には、ロキとオーディンと協力して戦いに加わるなど、ヒロイックな活躍を見せることもありました。基本的には信用ならないけどキメるところでカッコいいところが、ロキの魅力の一つ。

ちなみに、この共闘は映画『マイティ・ソー バトルロイヤル』の原型となった、ウォルト・サイモンソンが1983年から4年ほどに渡って手掛けた『Thor』誌の展開。今回はロキのお話なので詳しい話は割愛しますが、ウォルト・サイモンソンによる『Thor』はソーというキャラクターを今の形にした不朽の名作シリーズなので、気になったら是非チェックしてもらいたいシリーズです。

女性になったり、若返ってキッド・ロキになったり

2004年の『Thor』誌の展開でロキは、北欧神話で予言されていたラグナロクを引き起こして死亡したものの、その後の2007年の『Thor』誌の展開で女性の身体で再誕していたことが明らかとなり活動を再開。ノーマン・オズボーンの秘密結社カバルに入ったり、スカーレット・ウィッチに化けてアベンジャーズを結成したりと様々な悪事を働きました。

ドラマ『ロキ』の「シルヴィ」は実はこの時期のいわゆる女性の身体のロキ=「レディ・ロキ」をあまりベースにはしておらず、どちらかと言えば後述の『Loki: Agent of Asgard』でのロキに、ヤング・アベンジャーズの一員で彼らに潜入するためロキによって作られた「エンチャントレス」ことシルヴィを組み合わせたものとなっています。

とにかくそれから男性の身体に戻り、2010年の『Siege』での展開でアスガルドの攻撃を画策するも、計画に利用したセントリーのパワーを見誤ってアスガルドの完全な破壊を引き起こしてしまい、逆にアベンジャーズを助ける形で死亡。

今度こそ完全に死んだかと思われたものの、実はロキは『Siege』での攻撃の前に復活できるように準備をしており、一切の記憶を持たない若い身体で復活。ここからいわゆる子供のロキ=「キッド・ロキ」となります。ドラマでも設定は違うものの、一応登場していましたね。

キッド・ロキは前世での行動のせいでオーディンからは嫌われひどい扱いを受けるものの、前世のような悪党にはならないように努め、その過程で出会った前世の魂も撃退して「イコル(Lokiを逆から書いた名前=Ikol)」というカササギに封印して使い魔にし、なんとか皆からの信頼を得ていくのですが、最終的にはイコルの術中にはまって身体を奪われてしまいます。

ヤング・アベンジャーズからアスガルドの使者となり政界進出

こうして色々あって若い身体に前世の魂というまたしても新しい形で生まれ変わったロキは、スカーレット・ウィッチの息子ウィッカンを操ろうとしてヤング・アベンジャーズを再結成に導き、最終的には自分もその一員となり活動。若い自分を騙してその身体を奪ってしまったという罪悪感から生まれた存在と戦い、その過程でウィッカンに協力を受け身体は青年へと成長を遂げます。

これは2013年から始まった『Young Avengers』の展開(前半部分がヴィレッジブックスから『ヤング・アベンジャーズ:スタイル>サブスタンス』という題で発売中)で、ここまできてやっと映画のトム・ヒドルストン版ロキに近づいてだいぶハンサムなキャラクターとなり、コスチュームも映画よりになりました(MCUに多大なる影響を与えた『The Ultimates』シリーズのロキは一足先に若いハンサムなロキではありましたが)。

その後、ヤング・アベンジャーズが活動を終えると過去の罪を清算することの見返りにアスガルドの使者となり、しばらくして2016年の『Vote Loki』というシリーズでは突然アメリカの政界に進出しようとしたり、以前何度か紹介しているライターのドニー・ケイツの『ドクター・ストレンジ』誌ではドクター・ストレンジから至高魔術師(ソーサラー・スプリーム)の座を引き継いだりと幅広い範囲で活躍(?)していきました。この作品は小学館集英社プロダクションより『ドクター・ストレンジ:ゴッド・オブ・マジック』として日本語版の刊行も予定されています。

また、アスガルドの使者となる2014年のシリーズ『Loki: Agent of Asgard』では、姿かたちを自在に変えられるロキが性自認としてもジェンダーフルイドであるとして描かれ始めました。こちらもドラマ『ロキ』に登場した書類の性別欄に採用されていましたね。

王になって

そして2019年のクロスオーバーイベント『War of The Realms』で、ロキはミッドガルド(地球)を攻めに来たヨトゥンヘイムの王で自分の父親でもあるラウフェイを裏切って倒し、ソーがアスガルドの王となったのに合わせ、空位となったヨトゥンヘイムの王に就任。

しかし、悪の王となった未来の自分とかつて戦ったこともあるロキは王になることにそもそも乗り気ではなく飽きてしまい、ミッドガルドに遊びにいく……というのが、今度邦訳版が発売となる『ロキ:地球に落ちて来た神』のストーリー。

暇を持て余した神が地球でヒーローを試してみるというコミカルな展開で、ロキの歴史をまったく知らなくても楽しいですが、本当にいろいろなことをやってきたロキの歴史を踏まえた上で読むとより一層楽しめる一冊となっています!

ちなみに、ライターのダニエル・キブルスミスは深夜トーク番組『ザ・レイト・ショー・ウィズ・スティーヴン・コルベア』の放送作家として様々な賞にノミネートし、近年ヴァリアント・コミックスやマーベルで活躍中の人気の作家。今作でもコメディのセンスを発揮しています。

いかにもロキらしいシニカルなユーモアが満載の『ロキ:地球に落ちて来た神』(翻訳:吉川 悠)

何度も生まれ変わって色々複雑だけど、だからこそ面白い歴史を持ったロキ。コミック版にも興味が出てきたという人は、『ロキ:地球に落ちて来た神』や今回紹介した他のシリーズをぜひチェックして、その掴みどころがない魅力をぜひ味わってみてください!

『ロキ:地球に落ちて来た神』2,640円(10%税込)

傭兵ペンギン
ライター/翻訳者。映画、アメコミ、ゲーム関連の執筆、インタビューと翻訳を手掛ける。『ゴリアテ・ガールズ』(ComiXology刊)、『マーベル・エンサイクロペディア』などを翻訳。
https://twitter.com/Sir_Motor?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor