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X-MEN新時代の幕開け!『ハウス・オブ・X/パワーズ・オブ・X』

1月21日に発売されたMARVELのビッグタイトル『ハウス・オブ・X/パワーズ・オブ・X』。普段アメコミを買いなれている方でも、あの分厚さに圧倒されてしまった人は多いのではないでしょうか。そこで、今回はアメコミライター・翻訳家の光岡三ツ子さんに、その魅力をたっぷり語っていただきました!

X-MEN新時代の到来!

アメコミを読む醍醐味のひとつは、新しい時代を迎えた興奮を味わえることです。

長年シリーズが途切れずに続くアメコミは新刊が出るたびに「歴史」が作られていきます。その中では時折、歴史的事件というべき転換点が訪れることがあります。

読者がコミックの「史実」を振り返る時には、こうした特に印象深い区切りを「〜時代(エラ)」と呼んだりします。

今回ご紹介する『ハウス・オブ・X/パワー・オブ・X』は、まさに、作者名を冠した「ジョナサン・ヒックマン・エラ」、または物語の中心地から名を取り「クラコア・エラ」と呼称されるにふさわしい、X-MENの歴史に金字塔を打ち立てる作品です。

『ハウス・オブ・X/パワーズ・オブ・X』書影

作者のジョナサン・ヒックマンは、『アベンジャーズ・ワールド』『インフィニティ』等の作品で、壮大なスケールでマーベルの宇宙を語り直し、スター作家となった人物です。その彼がX-MENタイトルを自由に仕切るということで、2019年の刊行時には読者の期待がマックスに高まっていました。そしてその高い期待が裏切られることなく、高評価を得ている作品です。

リブートでもリニューアルでもない

『X-MEN』といえば、多くの人にとっては、映画シリーズ、そして映画の世界観のベースとなっている90年代TVアニメのイメージが抜きがたいと思います。コミックシリーズはこれまで、斬新な展開を次々打ち立ててきましたが、今もそのイメージが打破されているとは言いがたいのが現状でしょう。しかし、全く新しい世界観を確立したこの作品は決定的にそのイメージを覆すものになるかもしれません。

『ハウス・オブ・X』の冒頭に入る言葉。
この言葉通り、X-MENの世界は大きく変わります。

「X-MENシリーズをここのところ読んでいないから、内容についていけるか心配…」という読者も多いのではないかと思いますが、大丈夫です! 本書は全く新しい世界観で書かれています。さらに詳細な解説も付いていますので、読み進めるのになんの問題もありません。

別冊の解説書には、翻訳家の高木亮氏によるX-MENの歴史をまとめた解説もあります!

「それって、リブートかリニューアルってこと?」と思われるかもしれませんが、本書はそのどちらでもありません。あくまでも長年続くシリーズの中の流れの中に置かれ、これまでのシリーズ展開が本書のストーリーに収束するように設計されているのです。長年のファンほど、震えが来るような展開になっていると感じます。

重厚なSFストーリー

本書ではX-MENシリーズらしい、いくつもに分岐していくタイムラインものが展開し、ミュータント種族の命運をかけた、時空を超えた壮大なSFストーリーが繰り広げられます。

物語の基本設定から展開まで、とにかく驚きに満ちた内容なので、これ以上はネタバレを避けて、細かく言うのは差し控えますが、細かく張り巡らされた謎と伏線、芸術的なモザイクのような構成ーー緻密なタイルの組み合わせが壮大な絵に仕上がっていくさまーーは見事と言うよりほかありません。
タイムラインものの常として、内容はやや難解です。ストーリーが行きつ戻りつするので、ついていくのに脳が酸欠状態になりました(個人の感想です)。

また、緻密な世界観の説明として合間に挟まる解説もあり、なかなかのボリューム。しかし、ジョナサン・ヒックマンが得意とするインフォグラフィックスを伴う解説を見ながら、少しずつ構成への理解を深め、内容がつかめた時に開ける目の覚めるような体験はぜひ味わって欲しいところ。

ストーリーの合間に挟まる解説。これを読めば内容の理解度がぐっと増します!

アートもおすすめポイントです。人気アーティスト、ぺぺ・ララスのアートは、親しみやすいスッキリしたラインとキュートさのあるキャラクター描写が魅力で、その画風とアメコミらしい大胆な構図が共存するスタイルは必見。

ペペ・ララスによって描かれる、生き生きと動くキャラクターたち

本書では設定上、大勢のミュータントが登場しますが、例えセリフがなくても、個々のキャラクターの特徴を掴んだ、表情豊かな描写が楽しめます。

そう、本書において、私が最も惹かれるのはそこなのです。ミュータントの攻防を巡る複雑で壮大なストーリーが主役のコミックですが、そこに登場するキャラクターたちは決してストーリーの道具ではありません。紆余曲折の歴史を持つ個々のキャラクターの集まりであるX-MENシリーズへの愛と尊重も感じられるのです。

先ほど書いたように、本書は今までにあったことを打ち消すリブートや、全く新しい設定から始めるリニューアルではありません。シリーズを新たな一地点に立たせた作品なのです。この栄えある歴史に新たなる道を拓いたという点が、本書を読者のお気に入りたらしめ、高い評価を得ている要素でしょう。

続くエピソードも待ちきれずに覗いてしまいましたが、さらにエクストリームな展開となり、解かれる謎もありでさらに興奮の作品となっています。ぜひ続刊を望みたいところです!


1話目は全編無料公開中!

著者プロフィール
光岡三ツ子
翻訳家、ライター。主な訳書に『X-MEN:シーズンワン』『ドクター・ストレンジ:シーズンワン』『スパイダーグウェン』シリーズ(いずれも小社刊)などがあるほか、『DC展 スーパーヒーローの誕生』の監修なども。
(Twitter:@mitsumitz