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『アントマン&ワスプ:クアントマニア』に登場! 話題のヴィラン「征服者カーン」の謎に迫る

1月26日頃、邦訳アメコミ『征服者カーン』が刊行されます。そこで今回はヴィラン「征服者カーン」について解説しましょう。カーンはMCU最新作『アントマン&ワスプ:クアントマニア』に登場することで大きな話題を呼んでいますが、実は彼はコミックでもかなり重要なヴィランの一人。その入り組んだ設定と歴史を簡単にかいつまんで紹介していきます!

文:傭兵ペンギン

※本記事はMCUドラマのネタバレを含みます。未見の方はご注意を!

『征服者カーン』日本語版表紙
1月26日頃発売

MCU版のカーン

『アントマン&ワスプ:クアントマニア』で初登場予定のタイムトラベルをするヴィラン、征服者カーン。その詳細はまだ明らかになっていませんが、予告編を見る限り、今回の物語の主要な舞台となる量子世界に囚われている男で、アントマンたちと対峙していくこととなる様子。

Disney+で配信中のドラマ『ロキ』に登場した物語の黒幕である「在り続ける者(He Who Remains)」はこのカーンの変異体であり、最終話には像として征服者カーンの姿が映画に先駆ける形でお披露目されていました。

また征服者カーンは今後のMCU映画の主要なヴィランとなることが予告されており、2025年に公開予定の『Avengers:Kang Dynasty(原題)』にも登場予定。一体どんな話になるかはわかりませんが、カーン・ダイナスティ(カーン王朝)というタイトルなので、きっと重要な役回りなのはず(?)。そして、このタイトルはコミックとも関係があるのですが……これは後で説明するとしましょう。

ちなみにMCUで征服者カーンを演じるのは、『ロキ』で「在り続ける者」も演じた俳優ジョナサン・メジャース。映画『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』やドラマ『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』の演技で高い評価を獲得した俳優で、キルモンガー役でおなじみのマイケル・B・ジョーダン主演・監督の映画『Creed III(原題)』にも出演しています。ちなみにカーンは貫禄たっぷりなキャラですが、ジョナサン・メジャースはこれまでMCUのメインのヴィランを演じてきた俳優の中では若手の33歳(1989年生まれ)で、アントマン役のポール・ラッド(1969年生まれ)とは20歳の年の差があったりします。

コミックでのちょっと複雑な歴史

コミックでの征服者カーンは31世紀出身の未来人。スーパーパワーは持たないものの、天才的な頭脳と未来の技術を持ち、自在にタイムトラベルをしながら、その名の通り幾度となく地球を征服しようとしてきたヴィランという役回りです。

カーンの本名はナサニエル・リチャーズで、ファンタスティック・フォーのリード・リチャーズの父親の子孫である……なんていう設定は皆さん聞いたり、読んだりしたことがあるかもしれませんが、実はこの設定が明らかになるのは初登場からしばらく後で、カーンは長いこと正体不明の謎めいたキャラクターだったのでした。

カーンが初登場したのはスタン・リーとジャック・カービーによる1964年の『Avengers』#8。まず初登場のエピソードでカーンは41世紀の未来から地球を征服するために襲来し、アントマン(当時はジャイアントマンと名乗っていた)やワスプも所属するアベンジャーズと対決。未来から持ち込んだテクノロジーでアベンジャーズを圧倒し、一度は彼らを捕らえることに成功します。しかし10代の少年チーム「ティーン・ブリゲイド」の策に嵌り、アベンジャーズに逃亡された挙句、撃退されてしまうのでした。

カーンが初登場した『Avengers』#8(1964年)

この時の紫のヘルメットに青いマスク(後の作品によっては肌のようにも見えるのですが、当初から青いマスクという設定)をしているというかなり印象的な姿はカーンのお決まりのルックとなりました。映画版でも青いマスクはヘルメットのバイザーでマスクのラインは傷という表現になっているものの、見事にそれらしい姿が再現される様子。映画館で見るのが楽しみですね!

カーンのトレードマークである、紫のヘルメットに青いマスク

ちなみにこのエピソードで、カーンは実は約1年前に刊行された(同じくスタン・リーとジャック・カービーによる)1963年の『Fantastic Four』#19に登場したヴィランと同一人物だったということがわかります。彼は31世紀の未来からスフィンクス型のタイムマシンで古代エジプトを訪れ、未来のテクノロジーを駆使してエジプトを征服しファラオ「ラマ・タト」。ラマ・タトはファンタスティック・フォーに倒され、元の時代に戻ろうとした結果、誤って41世紀の荒廃した未来に行き着き、そこで「征服者カーン」となったのだった……というカーンのオリジンが一気に明かされるのでした(昔のコミックはこんな具合で展開が超早い)。

教養を感じさせる豊富な語彙で、自らを絶賛しまくるラマ・タト

ちなみにそのラマ・タトは同年の『Fantastic Four Anual』 #2で再登場しドクター・ドゥームの子孫かもしれないし、もしかするとタイムトラベルをしたドクター・ドゥーム本人なのかもしれないというような描写をされるのですが、本当の正体は謎のままでした。

FFのリード・リチャーズとの関係

そして、1968年のロイ・トーマスによる『Avengers Annual』#2に登場した謎の新ヴィラン「スカーレット・センチュリオン」もまたカーンと同一人物であると描写されます。その後の1975年に発表された同じくロイ・トーマスが参加している『Giant-Size Avengers』#3では、1964年の『Avengers』#10に登場しアベンジャーズと対決したヴィランであり、後に彼らと共闘することになる時間の支配者イモータスも実は彼と同一人物で、征服者カーンの未来の姿だということが語られるのでした。

『Avengers Annual』#2(1968年/左)と『Avengers』#10(1964年/右)

しかし、その直後の1975年の『Avengers』#143で再びアベンジャーズと対決することとなったカーンは、ソーをなんとか倒そうとアーマーのパワーを上げすぎてしまい、身体があらゆる時間に広がってしまって死亡。それと同時にラマ・タトとイモータスも存在しなかったこととなり、この世から消えてしまうのでした……という形で関連キャラクターがまとめて一旦消えるのですが、ここで終わらないのがアメコミらしいところ。

それからついに、1984年のジョン・バーンによる『Fantastic Four』#273で、衝撃的な事実が語られます。カーンの正体がファンタスティック・フォーのリード・リチャーズの父で、タイムトラベラーであるナサニエル・リチャーズの、別の時間軸の未来の遠い子孫かもしれないというのです。そして次のアベンジャーズの展開でより詳しいことが明かされると予言されました。これがカーン初登場から約20年目のことでした。

『Fantastic Four』#273(1984年)

来るべきアベンジャーズ映画の元ネタ?

それから1984年のクロスオーバー・イベント「シークレット・ウォーズ」(日本語版はヴィレッジ・ブックスから刊行)でビヨンダーによってカーンは復活させられるも、再び消滅。その後、ロジャー・スターンによる1986年の『Avengers』#267から始まったストーリーアーク(一連のストーリー)で、実はカーンが何度もタイムトラベルをした結果、様々なバージョンのカーンが誕生しており、その一部が協力して「カーン評議会」を作って、他のカーンを倒していこうとするのでした。

これぞドラマ『ロキ』で語られたカーン同士の戦いの元ネタのひとつのはず。そしてマーベルとは関係ありませんが、アニメ『リック・アンド・モーティ』に登場するリック評議会の元ネタでもあります。ちなみに『リック・アンド・モーティ』の脚本家はMCU作品と関係が深く、マイケル・ワルドロンは『ロキ』『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』、同じく脚本家でコミック作家でもあるジェフ・ラブネスは『クアントマニア』の脚本に参加しています。

そして実はこのストーリーアークの第2話目のタイトルが「The Kang Dynasty!」。もしかすると2025年に公開予定で、ジェフ・ラブネスが脚本を再び務める『Avengers: The Kang Dynasty』はこれが元ネタになるのかもしれませんね。その次の映画は『Avengers: Secret Wars』だし、このあたりのストーリーをチェックしておくと、映画のストーリーを妄想できて面白いかも(The Kang Dynasty!が含まれる単行本は「Avengers: Kang - Time and Time Again」というタイトルで刊行されています)。

それからしばらくして、カート・ビュシークによる2001年の『Avengers』#41から始まったストーリーアーク「Kang Dynasty」で再びカーンが地球征服に乗り出し、一度はアベンジャーズを倒して勝利をおさめます。しかしアトランティス人らの助力によってアベンジャーズは復活し、カーンは宇宙と地上でキャプテン・アメリカと壮絶なぶん殴り合いを繰り広げた末に倒されるのでした。

『Avengers』#41(2001年)

こちらも元ネタとなるのだとしたら、宇宙で巨大化した(厳密に言うとホログラム的なもので投影された)キャプテン・アメリカがカーンをぶちのめすシーンが映画で見られるのかも……? ちなみにこの「Kang Dynasty」は途中で刊行当時行われていた、セリフなしでストーリーを展開するマーベル全体のキャンペーン「'Nuff Said」に含まれる号が入っていて、そちらも面白いのでぜひチェックしてもらいたいところ(ここで紹介したエピソードは単行本「Avengers: The Kang Dynasty Omnibus」に収録されています)。

ヤング・カーン

それからまたしばらくして始まったアラン・ハインバーグによる2005年の『ヤング・アベンジャーズ』で、アイアンマン風の新ヒーロー「アイアンラッド」が登場。実は彼は若き日の征服者カーンで、未来の自分自身と出会ったことで自分が悪の道へと進む未来を知り、その運命に抗うため21世紀にタイムトラベルしたことが明かされます。アイアンラッドはその時、ちょうどヴィジョンがメンバーを集めていた次世代のアベンジャーズ「ヤング・アベンジャーズ」に加わっています(このエピソードの邦訳版はShoproBooks刊の『ヤング・アベンジャーズ:サイドキックス』に収録)。

アイアンラッドこと、若き日のカーン

最近のMCUには、キャシー・ラング(アントマンの娘)、ビリー&トミー・マキシモフ(スカーレット・ウィッチの息子たち)、イライジャ・ブラッドレー(黒人版キャプテン・アメリカの孫)、キッド・ロキ(転生したロキ)、ケイト・ビショップ(もう一人のホークアイ)、アメリカ・チャベスとヤング・アベンジャーズのメンバーが続々と登場しているので、もしかするとアイアンラッドが登場する日もくるのかも……?

カーンの誕生秘話を再び

と、ここまで長々と説明してきましたが、すごく簡単にまとめると、征服者カーンは31世紀出身のタイムトラベラーで、様々な時代で別の名前を使って活動してきたキャラクターということです。

文章だけで読むとなかなか複雑だとは思いますが、あまり難しく考えず「カーンってタイムトラベルするヴィランなんだよね」というくらいの認識さえあれば、カーンが登場するコミックは楽しめるはず。カーンに限らず、大半のコミックに言えることですが、別にキャラクターや世界観の歴史を知らなくとも面白いコミックは面白いので、あんまり気にせず気になったところから読み始めるといいでしょう。

個人的には上に挙げた以外のものだと2019年にスタートしたクリストファー・キャントウェルによる『Doctor Doom』をオススメしておきたいところ。これはタイトル通りファンタスティック・フォーの宿敵ドクター・ドゥームが主人公で、テロリストの汚名を着せられてすべてを失ったドゥームが征服者カーンと協力しながら、カーンが見てきたという、ドゥームが夢見る幸せな未来を目指すという作品です。ヴィランがメインキャラなのにちょっとコミカルな物語で、12話完結という短い分量で二人のヴィランの魅力を楽しめます。

ちなみに今度ShoPro Booksから刊行される『征服者カーン』は2021年に始まったかなり新しいミニシリーズ。まだ若い頃のナサニエル・リチャーズを主人公に、彼が未来の自分である征服者カーンと出会います。彼が凶悪なヴィランとなるまでの誕生秘話を、ちょっと違った角度から語り直していくシリーズです。5話完結という非常にコンパクトなボリュームで、この記事でも紹介した主要なエピソードにも触れていくので、カーンの面白いところをざっくりとつかんでみたいという人には入門編としてオススメです。

カーンの魅力を凝縮した『征服者カーン』。
予備知識がなくても楽しめる1冊です!

とにかくこれからのMCUでの活躍が楽しみな征服者カーン。果たして彼はインフィニティ・サーガにおけるサノスに匹敵するヴィランとなっていくのか……ぜひコミックと併せて注目しながら、楽しんでいきましょう!

傭兵ペンギン
ライター/翻訳者。映画、アメコミ、ゲーム関連の執筆、インタビューと翻訳を手掛ける。『ゴリアテ・ガールズ』(ComiXology刊)、『マーベル・エンサイクロペディア』などを翻訳。
@Sir_Motor

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