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シリーズ集大成! 『バットマン:シティ・オブ・ベイン』への道

人気作家トム・キング脚本による『バットマン』シリーズの総決算となる『バットマン:シティ・オブ・ベイン』が発売されました。長く続いた人気シリーズだけに「興味はあるけど、ストーリーを追いきれない!」という方も多いはず。そこで今回は、本シリーズの翻訳者である中沢氏を特別講師としてお招きし、シリーズの流れと、その楽しみ方を解説してもらいましょう!

文:中沢俊介(アメコミ翻訳者)

『バットマン:シティ・オブ・ベイン』
トム・キング[作] ミケル・ハニン、トニー・S・ダニエル他[画] 中沢 俊介[訳]

『バットマン:シティ・オブ・ベイン』あらすじ
“バットマンの背骨を折った男”として知られるベインが、今度は彼の心を折った。ブルース・ウェインからすべてを奪う計画の総仕上げとして、ベインはゴッサムに魔の手を伸ばす。ダークナイトが姿を消した今、すべての犯罪者を配下に収めようとするベインを誰も止められない。逆らう者は、ベインの意外な共犯者による制裁を受けることになる……その共犯者の正体は、別の世界からやって来たトーマス・ウェイン(ブルースの父親)であった! 父親と戦うことを余儀なくされ、追い詰められたブルースに活路はあるのか!?

2016年に始まったDCコミックスの新体制“DCリバース”に合わせて立ち上げられた、トム・キング脚本による『バットマン』シリーズの総決算となるのが、本作『バットマン:シティ・オブ・ベイン』です。『バットマン』#75~85で約半年にわたって展開され、本国での初単行本化時には、増刊『バットマン・アニュアル』#4を加えた2冊構成。後日その2冊を合本して刊行された完全版が、日本版の底本になっています。

『バットマン:シティ・オブ・ベイン』英語版カバー

“ベインの街”という題名どおり、かつてバットマンの背骨を折って窮地に追い込んだことで知られる宿敵ベインが、バットマンの拠点ゴッサムシティを征服したところから、本書の物語は始まります。街を守るべき警察の本部長をヒューゴ・ストレンジが務め、ジョーカーとリドラーが刑事のコンビとしてパトロールする……そもそも、なぜ街はヴィランたちの手に落ちてしまったのでしょうか? そこで、まず本書との関連を軸に、これまでの物語を振り返ってみたいと思います(以下、本書より前の巻のネタバレ有)。

ヴィランたちに支配されたゴッサムシティ

『シティ・オブ・ベイン』までの道のり:その①

DCリバース期『バットマン』の前半では、バットマンとキャットウーマンの関係に焦点が当てられ、二人の“結婚”を目指して物語が進められました(以下、第7巻まで小社刊)。

●第1巻『アイ・アム・ゴッサム』

飛行機事故の被害を最小限に抑えようとして、死を覚悟したバットマンの前に現れたのが、スーパーマン並みの力を持った謎の兄妹ゴッサムとゴッサムガール。バットマンは二人を街の新たな守護者として鍛えますが、そこにヴィランのヒューゴ・ストレンジとサイコ・パイレートが姿を見せ、悲劇が起こります。

●第2巻『アイ・アム・スーサイド』

ゴッサムガールを救うため、ベインの拠点からサイコ・パイレートを連れ去ろうとするバットマン。作戦に際して、キャットウーマン、ベントリロクイストなど精神科病院アーカム・アサイラムの収容者を中心にした、バットマン版の特攻部隊スーサイド・スクワッドが結成されました。

●第3巻『アイ・アム・ベイン』

バットマンからサイコ・パイレートを奪還するため、ゴッサムシティに乗り込むベイン。アーカム・アサイラムの収容者も巻き込んだ攻防戦のすえ、バットマンはベインを倒します。そして、ここまでバットマンを支えたキャットウーマンは、彼に求婚されます。

●『バットマン/フラッシュ:ザ・ボタン』

DCリバース全体の謎を追い、『DCユニバース:リバース』と『ドゥームズデイ・クロック』(いずれも小社刊)をつなぐ作品ですが、ここでバットマンと出会った“別の歴史”における父親トーマス・ウェイン(フラッシュポイント版バットマン)が、のちに本シリーズでも重要な役割を担います。

●第4巻『ウォー・オブ・ジョーク&リドル』

バットマンの活動初期、ジョーカーとリドラーが街のヴィランを二分して、大規模な抗争を起こした“ジョークと謎の戦争”が描かれ、本シリーズの名物キャラクターとなったカイトマンの誕生秘話が語られました。バットマンに過去の失敗を告白されたキャットウーマンは、それでも彼との結婚を承諾します。

●第5巻『ルール・オブ・エンゲージメント』

キャットウーマンの過去を清算するため、かつての恋人タリア・アル・グールが支配する砂漠の国に二人で乗り込むバットマン。さらに、スーパーマン&ロイス・レーン夫婦とのダブルデートも描かれました。また、起こりうる未来の物語として、バットマンとキャットウーマンの娘ヘレナ・ウェインが登場します。

●第6巻『ブライド・オア・バーグラー?』

ワンダーウーマンと別次元で37年間二人きりになり、キャットウーマンとの絆を試されるバットマン。一方、かつて“ジョークと謎の戦争”に巻き込まれたポイズン・アイビーが暴走する物語は、トム・キング脚本『ヒーローズ・イン・クライシス』(小社刊)の前日譚でもあります。その後、バットマンとの恋愛史を振り返りつつ、キャットウーマンはウエディングドレスを手に入れます。

●第7巻『ウェディング』

未来人のヒーロー、ブースター・ゴールドが結婚祝いとして、バットマンに両親が死なない世界を見せようとしたところ、悲惨な歴史が生まれてしまいました。そのうえ、バットマンとキャットウーマンが結婚間近だと聞いたジョーカーが、教会で凶行に走ります。いよいよ挙式の日を迎える二人。しかし、キャットウーマンはバットマンへの愛ゆえに身を引き、姿を消します。本書の結末では、第1巻からの主要な登場人物が姿を見せ、すべてがベインの計略であったと明かされました。

『シティ・オブ・ベイン』までの道のり:その②

いまのところ日本版は未刊行ですが、結婚式でキャットウーマンに去られてから本書に至るまで、単行本4冊にわたって、バットマンはますます狡猾に攻めるベインの陰謀に苦しめられ、ついにゴッサムシティから放逐されてしまいました。

●第8巻『コールド・デイズ』

失意のバットマンは一市民のブルース・ウェインとして陪審員に選ばれ、自分がヒーローとして捕らえたヴィランの裁判に関わります。ところが、そんな彼を補佐していた仲間ナイトウィングが暗殺者KGビーストに狙撃され、バットマンは復讐に向かいます。

●第9巻『タイラント・ウィング』

倒したはずのベインが何かをたくらんでいるとの情報を得て、陰謀を阻止しようとアーカム・アサイラムに侵入するバットマン。しかし、彼の強引な捜査を止めようとしたジム・ゴードン本部長を殴ってしまい、ゴッサム市警との協力関係が断たれます。

●第10巻『ナイトメアズ』

敵に捕まったバットマンはアーカム・アサイラムに幽閉され、次々と奇妙な悪夢を見ることになって、精神を揺さぶられます。

●第11巻『フォール&フォールン』

なんとか幽閉から逃れたものの、精神的に追い詰められ、仲間にすら正気を疑われるバットマン。ウェイン邸に戻った彼を、ベインとトーマス・ウェイン、そして捕虜になった執事アルフレッド・ペニーワースが待ち受け、ベインと対決した彼は、完膚なきまでに打ち負かされます。満身創痍のバットマンを連れて、砂漠の国に旅立つトーマス。彼は息子にバットマンを諦めさせ、家族を取り戻すつもりでした。しかしバットマンはあくまでも信念を曲げず、砂漠の縦穴で親子の決闘が始まります。やがて夜が明けると、縦穴から這い上がる何者かの手が……。

豪華な作画家陣にも注目!

過去の場面やせりふ回しを再現しつつ、伏線を巧みに回収し、約3年半にわたる長期連載をまとめ上げた脚本家トム・キングの手腕が光る本書。一方、作画面でも下記のとおり、これまで本シリーズに関わった作家や、ジョン・ロミータJr.のような、初めてトム・キングと組んだ作家など、いずれもトップクラスの面々による総力戦の様相を呈して、“見る楽しみ”が存分に味わえます(以下、主な作品はいずれも小社刊)。

トニー・S・ダニエルのペンシルによる
バットマン(トーマス・ウェイン)

トニー・S・ダニエル(作画担当:PART 1、2、3)
主な作品:『バットマン:R.I.P.』『バットマン:バトル・フォー・ザ・カウル』『デスストローク』シリーズ(本シリーズでは第7、8巻に参加)

ミケル・ハニン(作画担当:PART 3、8、9、CONCLUSION)
主な作品:『グレイソン』(本シリーズでは第2、4、6、7、9、10、11巻などに参加)

クレイ・マン(作画担当:PART 4、5)
主な作品:『ヒーローズ・イン・クライシス』(本シリーズでは第5巻などに参加)

ジョン・ロミータJr.(作画担当:PART 6、7)
主な作品:『キック・アス』『オールスター・バットマン:ワースト・エネミー』

ホルヘ・フォルネス(作画担当:PART 10、ANNUAL #4)
主な作品:『ロールシャッハ』(本シリーズでは第10巻などに参加)

シリーズ最終巻ではあるものの、ハリウッド映画で例えるなら、芸術派のカリスマ監督による娯楽大作に相当する品質、スケール、爽快感を兼ね備えた本書、一人でも多くの読者に届くことを願いつつ、本稿を終えたいと思います。

中沢俊介
翻訳家、ライター。主な訳書に『ドゥームズデイ・クロック』『バットマン』シリーズ(ともに小社刊)がある。

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