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俺の罪がポケモンになってる!

この記事にはサイレントヒルシリーズのネタバレが多数含まれます。

君は「サイレントヒル:リベレーション3D」という映画を見たか?
一時期、ホラー映画界でも3Dが流行り「貞子3D」「SAW ザ・ファイナル3D」「ファイナルデッドサーキット3D」「飛び出す悪魔のいけにえ レザーフェイス一家の逆襲」と文字通りポンポコ飛び出てきたのである。
なんでも飛び出せばいいと思ってるんじゃねえぞ!
しかも大体が駄作なのだからたまったものではない。

サイレントヒル:リベレーション3Dもその流行に乗って飛び出してきてしまったのだが、まー良いか悪いかは置いといても衝撃的な映画だったのである。その衝撃を語るにはサイレントヒルシリーズを振り返らなければなるまい。

ご存じの方も多かろう。レッドピラミッドシング(通称:△様)という敵キャラがいる。

そのシンプルだが異形なフォルムと圧倒的な強キャラ感から、一躍サイレントヒルの代表的キャラクターとなる敵なのだ。

このレッドピラミッド君の初登場作品は「サイレントヒル2」だ。


しかし本作品の彼は後年の作品ほど巨大な姿ではない。
「2」に出てくる敵キャラのほとんどは、なんかサイレントヒルの町のパワーで具現化しちゃった主人公ジェイムスの様々な自意識なのである。つまりジェイムスは己と戦うのだ。これには仏教徒もびっくりだろう。
その中には、主人公が足フェチだから足だけのモンスターだとか自分の立場だったらすげー恥ずかしい敵キャラもいるのだが、やはり目立つのはピラミッド君だ。
ピラミッド君は主人公の「誰か俺の罪を裁いてくれないか!?」という自罰的な気持ちと、サイレントヒルに昔いた処刑人の姿が合わさったボス敵なのである。己の意識なので、出てくるピラミッド君も主人公と同じ背丈なのだ。後半で二匹同時に出てくるけど

そーいう出自のキャラクターのため、続編の「3」「4」では全く出てこないのだが、実写映画版「サイレントヒル」で圧倒的カリスマ感を引っ提げて再登場する。

この作品、「ゲームを映画化」したものの中ではかなりお手本になるレベルで出来が良い。監督のサイレントヒル愛が凄まじいのだ。
ブランカを改造人間にした監督や、ミラ・ジョヴォヴィッチが超能力に目覚めてなんでもありにしてしまったゾンビ映画の監督にも見習ってほしい。
この映画は父親がサイレントヒルの町でいなくなった娘を探すという「1」ベースのストーリーなのだが、もちろん他IPの実写化作品と同じように原作から改変されている部分もある。
だが決して改悪ではない。
主人公は父親から母親になっている。原作より生存者が多い。ED曲は「3」のOPで使われているもの。などなどの変更点は全て映画をイイ感じにしているのだ。
監督が原作のストーリーを崩さずに良い映画にしてみようという努力と愛を感じる。ぜひともサイレントヒル未プレイの人にも観てほしい一本だ。

そういった変更点の中に、ピラミッド君の登場もある。

この映画のピラミッド君はすごい。めちゃくちゃパワーアップしている。
ド派手に大量の虫を引っ提げて登場し、人間の皮をバリバリと素手で剥がす。しかもめちゃくちゃ体がデカい。
「2」ではパワーこそあったもののどちらかというとノロマな印象が拭えなかった彼だが(逃げ回って拳銃撃ってればなんとかなる)、この映画のピラミッド君は撃退できる気なんてしてこない。
実際に映画の主人公たちは彼から逃げることしかしてない。

「2」の主人公ジェイムスの自意識であったはずのレッドピラミッドシングの一人歩きはここから始まる。

「サイレントヒル THE ARCADE」というガンシューティングでは映画版の設定準拠で敵として襲ってくる。
サイレントヒルでガンシューティング!?
出来は決して悪くはなかったのだが、妙な難易度の低さと面積の問題だろうか、すぐにゲームセンターから姿を消してしまった。今や置いてあるゲーセンを探すほうが難しい。
ここでも映画版と同じく、ピラミッド君は「あのタイプにはマシンガンを使え!」とタイムクライシス4のセリフが聞こえてきそうなレベルで大量の虫を引き連れ、デカい大鉈を振り回しながら襲ってくる。そして撃退することはできても作中で倒すことはできない。
相も変わらずカリスマ性のある最強キャラだ。

そのあとに「サイレントヒル ホームカミング」というアメリカ開発なせいでアメリカンなノリが拭えないゲームがPS3で販売される。
諸般の理由で日本では未発売なのだが、シリーズファンである僕はわざわざ輸入して購入した。
この作品でもピラミッド君は「ブギーマン」というこれまたアメリカンな名前になって登場するそうだ。
「するそうだ」という表現を使ったのは、これはネットで拾った情報だからである。
僕はブギーマンに会えていないのだ。
この作品、進行不能になるバグがあまりにも多く、決して安くはない金額で購入した僕も2,3時間プレイしたのちに投げてしまった。
例えばそこらへんにあるタッチパネルを調べたら最後、もうその画面からは逃げられない。「戻る」ボタンが効かないというバグがあるのだ。日用品ですら牙をむいてくるこの作品はもしかしたらシリーズで一番怖い作品かもしれない。
というわけで「ホームカミング」の説明は割愛させていただく。

さあここで問題の「サイレントヒル:リベレーション3D」だ。

「原作愛のすごかった監督ではなく違う人になっている」「3Dブームに乗っかっただけのような……」「そもそも映画版の続編らしいが、続くようなオチではなかったぞ?」と僕は様々な不安を抱えながら公開初日に観に行ったのだが、決して杞憂ではなかった。酷いぞ!

本作はゲームでいうと「3」を映画化したものだ。
「3」は「1」と直接的なつながりを持つストーリーで、「1」で救出した娘が主人公だ。殺された父親(1の主人公)の復讐のために女子高生がサイレントヒルの町で日本刀を振るいバッタバタとモンスターを切り殺していくという「八つ墓村」も真っ青なゲームなのだが、これはこれで名作である。心理的恐怖と視覚的恐怖、どちらからもアプローチしてくる素晴らしいホラーゲームだ。

ここで「リベレーション」なのだが、「3」だと最後まで生き残っていた重要人物が序盤で死ぬ。サメ映画でサメに食われるモブキャラのノリで物語から離脱するのだ。原作ファンへのサプライズにしてはあまりにも安易ではないだろうか!?
その後も、原作の静かだがじわじわとこちらを不安にさせるような上品なホラー要素など知ったことか!これがアメリカンスプラッターだ!と言わんばかりにノリノリで映画は進んでいく。
1982年の映画「バスケットケース」のキャラクターをちょっと弄っただけみたいな適当なデザインのモンスター達。特に顕著なのは襲った人間を捕獲して次々とマネキンにさせていく、蜘蛛とマネキンを合成させたようなモンスター。マネキンになる恐怖を描きたいのか? ゲームでは意味深にマネキンが置いてあってこちらの不安を煽ってくるシーンもあるが、決してこちらをマネキンにしてくるという荒唐無稽なことはしてこなかっただろ!
牢屋から多数の手が伸びてくるシーンなんて安易すぎてこちらが赤面してしまう。
そんな多数の伸びる手に掴まれて、ピンチに陥る主人公。
そこでピラミッド君が登場する。
牢屋から伸びる手を次々と大鉈で切り落とし、主人公を救出する頼もしい屈強なモンスター。
そう、ピラミッド君はここにきて味方になったのだ!

最強の味方を手に入れた主人公は次々と進んでいく。
全てを終わらせるための最終決戦だ!
しかし諸悪の根源であるラスボスのカルト宗教おばさんも負けるわけにはいかない!
ソウルキャリバーのヴォルドみたいな、よくわからん敵を召喚だか練成だかして(覚えていない)、ピラミッド君に対抗するのだ!
火花飛び交う派手なバトルシーンが繰り広げられる。主人公とラスボスおばさんは見守っているだけ。
僕は、
「これ、ポケモンじゃん!」
と劇場で叫びそうになった。
酷いシーンを見続けて感覚がマヒしてくるのはC級映画ではよくあることなのだが、「リベレーション」でまさかこの感覚が味わえるとは!
すっかりマヒしていた僕は嫌味でも批判でもなく、「すげー!サイレントヒルのモンスターでポケモンバトルしてるぜ!」と無邪気に喜んでしまった。
あとあと、冷静に「やっぱりあれは違う……」と考えてしまうのもダメ映画だとよくあることだ。

というわけでサイレントヒルシリーズのアイドル、レッドピラミッドシング君の物語を語ってきたが、実は各作品で設定がちょっと違うので、「2」の主人公の自意識がずっとここまでバトルしていたわけではない。

しかし「2」のジェイムスが「リベレーション」を見たらきっとこう叫ぶであろう。

俺の罪がポケモンになってる!

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