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#13 夢と欲望のあいだで

以前、このエッセイで「時代のスピードがどんどん速くなっていき、これから先に僕たちはどこへ行こうとしているのか……」といったことを書いたところ、何人かの方々から感想をいただいた。その多くは「加速していく未来に対して危機感を抱いている」というものだった。

しかしながら、これからも人類は、ITやバイオやエネルギーをはじめあらゆる産業分野で先へ先へと突き進んでいくだろうし、こうしてパソコンの前でキーボードを打っている僕自身、いまさら鉛筆を削り原稿用紙に向かうスタイルに戻ろうとは思わない。

では、どうして人々は、こんなにも先を争うように急いでいるのだろう?
その疑問に対する答えはきっと1つではないけれど、僕たちの心の中にある「欲望」とどこかでつながっている感じがする。

いま、世界の多くの国々は資本主義というシステムで動いている。この仕組みはおそらく僕たちが生きている時代や社会とのマッチングがいいのだろう。僕のような普通の人間でも、自分の努力や意思によって未来を変えていくことができる。これがもし封建制の世の中だったら自分の可能性はもっと限られたものになっていたはずだ。そうした意味では多くの人に平等な、夢の描ける仕組みであるといえる。

ただし、夢と欲望はまた、どこかでつながっている。お金が欲しいと思わない人は、ほとんどいないだろう。現代の社会においてはお金があれば、たいていの願望は叶う。だから多くの人はお金を得るために競争をする。個人がそうであるように、企業もまた利益を得るために競争をする。勝つためには走らなくてはならない。そしてときに勝つことに目を奪われ、道を誤る。

今世紀の始まりとともに顕在化してきた異常気象も、元をたぐっていくと人間の欲望に行きつくように思える。見方を変えれば、地球が僕たちに「いいかげんに目を覚まさないとヤバイよ」と警鐘を鳴らしてくれているのかもしれない。

いまから400年以上前、世界でも類を見ない「太平の世」の礎を築いた徳川家康は、「滅びる原因は自らの内にある」と語ったという。いまを生きる僕たちも、自然に対して敬意を払いつつ、夢と欲望のあいだでバランスを取っていかないといけないのだと思う。

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