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#14 2021年、宇宙の旅へ

何年か前に、北海道の高校に通う学生がYouTubeにアップした「スペースバルーン」の動画が話題になった。スペースバルーンとは、無人の風船に小型カメラをつけて空に放ち、高度3万〜4万メートルの成層圏から地球や宇宙を撮影する、「小さな宇宙開発」ともいえるチャレンジだ。自分の足元を映していたカメラが地表を離れ、ゆっくりと舞い上がっていくと、平野や山々が見え始め、やがて北海道の海岸線が見えてくる。さらに高度が上がっていくと、ついには大きく弧を描いた地球の輪郭が映し出される。気圧の差に耐え切れなくなった風船はそこで割れ、カメラの入った容器が地上に戻ってくる、という仕組みだ。いまネット上では、世界中の、ごく私的なチャレンジャーたちの、夢に溢れた映像が多数アップされている。日本でも、茨城や宮古島をはじめ、さまざまな場所で産学連携のプロジェクトなどが進行しているようだ。

先日、スペースビジネスに関わっている、ある民間宇宙飛行士から話しを聞く機会があった。その方によると、現在、気球に乗って成層圏まで上昇し、宇宙の入口から地球を眺めるツアーが実現する一歩手前まで来ているのだそうだ。気球の下には気圧の影響を受けない頑強な船室が設けられていて、その中では宇宙服ではなく、普通のスタイルで会話やお酒を楽しむことができるのだという。日本でも、そうした会社が設立され、実用段階に近づいているようだ。実際にどうかは判らないが、ツアーの予約状況はすでにキャンセル待ちになっているというから驚く。

年末には、zozo創業者の前沢さんたちがロシアの宇宙船に乗って、国際宇宙ステーションに滞在したというニュースがメディアを賑わせた。さらに進んで近い将来には、一般の人が特別な訓練を積まなくても、宇宙空間を行き来できるようになるという。すでにアメリカ国内では約10ヵ所、アジアではシンガポール、中東ではドバイなどにスペースポートと呼ばれる発着施設が計画され、宇宙船自体も、アポロやソユーズのような国家規模の大型ロケットではなく、より飛行機に近いものが開発されている。このスペースポートが世界各地に整うと、宇宙船に乗って高度10万メートル以上の宇宙空間に飛び出し別の場所に下りるだけで、地球の裏側にも2時間程度で行くことが可能になる。

こうした話しを聞くと胸がワクワクして、とても楽しい。僕も宇宙を旅してみたくなる。けれど同時に、心のどこかで何かが違っているような、「平和利用だけに留まるはずがないよな……」といった、漠とした不安を覚えてしまう。科学が目覚しく進歩し、時代がグングン加速していく一方で、僕たちはいったいどこへ行こうとしているのだろう。

宇宙開発をビジネスチャンスとして捉えるのは悪いことではない。しかし、そこからさらに視点の高度を上げると、小さな地球と、そこに生きる僕たちが目指すべき、別の未来像が見えてくるのかもしれない。

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